表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
193/347

ウララと賢者

「このバスコンってマダオさんとの婚約破棄の慰謝料で買ったの?」

「そうですよ。パーッと使おうと思って販売所に行ったら、丁度いい感じの物があったので」



バーベキューの終盤頃、ブネと賢者がお酒の差し入れを持って現れた。ちなみにその時私は甘い物が食べたいとナベリウスが言うので、バーベキューコンロでフライパンを使って簡単なパンケーキを焼いていた。


アウロ達の手にお酒を注いだ紙コップを行き渡らせ……その後、ある新事実を発見することとなる。


私や地球人の血を引くジョージは異世界の酒にとんでもなく弱いが、逆に此方の酒は向こうの住人であるアウロやルラン達に猛威を振るったのだ。


酒を口にした大人達は私とシグラとジョージを残し全員見事に酔いつぶれ、目を回すこととなった。

一方で、今まで向こうの世界で酒を楽しめなかったジョージは、嬉しそうにカパカパと呑んで……結局酔いで目を回していた。


「見習いたくない大人の姿だな……」

「限度を知らないのかねえ」

キララとコウは酔いつぶれたジョージを見ながらしみじみと言っていた。


「相当嬉しかったみたいだから、そっとしておいてあげて、キララ」

「大人の人に対してそう言う事言っては駄目だよ、コウ君」

私と賢者は酔いつぶれた大人達と、パンケーキを食べた後丸まって眠ってしまったナベリウスにバスタオルを掛けて回る。布団は流石に枚数がないので、これで許してもらおう。夏だから大丈夫だろう。


「さて、みんな酔い潰れたから、今日はこれでお開きかな。撤収するよー、コウ君」

「へいへい。レンとリュカを連れて行けば良い?」

「ゴミ拾いが先だよー」

賢者はエプロンのポケットからゴミ袋を取り出した。


「あ……」

未来の私に訊きたい事があったけど、帰り支度を始めたので空気を読んで引き下がった方が良いかな……。そう思っていると、シグラが「けんじゃ」と賢者を呼んだ。

「うららが、けんじゃと、おはなしがあるから、きいてあげて」

「え?そうなの?」

賢者の目がこちらを向いた。

「なら、後片付けは私達でしておく」

賢者が持っていたゴミ袋をブネが奪い、さっさと片付けだした。


「ありがとうございます、ブネさん。シグラも切っ掛けを作ってくれて、ありがとう」

「きにしないで」

シグラは少しだけ私にじゃれつくと、ゴミ拾いをしているブネの方へ歩いて行った。


こうして私は未来の私と話すこととなり、冒頭の会話になる。


ちなみに未来の私は私の事を“ウララちゃん”と呼び、私は未来の私の事を“賢者さん”と呼ぶことにしている。伊豆さんでも良かったのだけど、シグラが賢者と呼んでいるようなので合わせた。


「賢者さんはバスコンは買っていないんですか?」

「うん。私は慰謝料で田舎の古民家を買ったの。私もキャンピングカーが欲しかったんだけど、見た時に良い物がなくて」

古民家?

訊ねようと思っていた事ではないが、知っておいた方が良いかもしれない。

「じゃあ、どうやってシグラ……ブネさんに会ったんですか?私はキララと一緒にこのバスコンに乗ってオートキャンプ場に行った時、シグラと時空の概念の争いに巻き込まれて異世界へって感じなんですが……」

賢者は少し驚いたような顔をした。

「全然私と違うね。私は……」


賢者が言うには、彼女もマダオとの婚約破棄後、私と同じように慰謝料をさっさと使ってしまおうと考えたそうだ。最初はキャンピングカーの購入を検討したが、先程も聞いた通りコレだというものが無かったそうだ。

そして8月を過ぎた頃から、何とマダオから復縁を迫るメッセージが届きだしたという。


―――そう言えば、私の所にも気持ち悪いセクハラ写真を送りつけてきてたっけ……


あれは確か、異世界に飛ばされた後、久し振りにスマホを操作した時に気付いたメッセージだった。その時はシグラに慰めて貰ったのでマダオの事など早々にスポーンっと頭から消え去ってしまったんだけどね。


一方で賢者はその頃にはまだ日本に居て、速攻でマダオに対して着信拒否とメッセージのブロックをしたそうだ。だが今度はアパートに手紙攻撃をされだしたという。

この頃になると、手紙の内容もただの復縁ではなく、愛人にしてやっても良いぞ、ただしホテルや飯などのデート代はお前持ち、という感じのものになっていたそうだ。

取り敢えず接近禁止令を検討していると、お次はマダオと駆け落ちした社長令嬢から悲劇のヒロインメッセージが届きだして……。


賢者曰く「細部は覚えていないんだけど、“あなたの事は可愛そうだけど、彼は私のモノなの!”とか“あなたには愛した男性を祝福する気はないの?”という感じのちょっと外れたようなメッセージだったよ」だそうだ。


もしかしたら元の世界に戻ったら、私にもそういうメッセージが届くのだろうか。果てしなく面倒くさいなあ……。

ああでも、もうちゃんと私には素敵な夫がいると言えば、変なメッセージはこなくなるかもしれない。駄目押しにシグラとのツーショット写真でも送ってやろうか。


ちなみにメッセージ攻撃を受けた当時の賢者は辟易とし、とにかく知り合いの居ない遠くへ行きたいと願ったそうだ。

結局彼女が衝動買いしたのは、縁もゆかりもない土地のぽつんと一軒家。


そして引っ越したその日に……フィルマ王国に賢者として召喚されたそうだ。


「本当に全然私と違いますね。でも確かにライ君も私達の世界は彼の知っている過去とは全然違うと言ってたっけ」


どうやら私がバスコンを買った所から既に違うようだ。


「どうしてだろう?」

「どうしてでしょうね?」


賢者はちらりとバスコンに目を向けた。

「代金は慰謝料だけで足りたの?」

「はい。それどころか100万程余ったので、いい感じのサブバッテリーを揃えました」

「慰謝料って700万?」

「そうですよ」

賢者は“うーん”と考える。


「キャンピングカーってピンキリだとは思うけど、あんなに立派なバスコンが600万で買えるかなあ?装備にもよるだろうけど、2倍以上の価格でも不思議じゃないと思うんだよね」


それは私も購入時に思った。

「一応中古なんですが、業者さん曰く、前のオーナーさん好みにカスタムしてあるから値段が抑えられている、そうです」

「飛びぬけて変な改造されてたりするの?」

「……いいえ」

言われてみればそうだ。普通に使っている上ではとても快適に過ごさせてもらっている。値段が抑えられるほどの改造がされているのなら、何かしら不便な所があってもおかしくないのに。


「……もしかして、何者かの策略でバスコンを買わされたんでしょうか?」

「どうだろう。そこまで穿って見る必要はないかもしれないし」


私と賢者は同じポーズで“うー……ん”と悩み、それぞれシグラとブネを呼んだ。


「どうしたの?うらら」

「どうした?ウララ」


「掃除中にごめんね。ちょっと訊きたいんだけど、バスコンに変な気配とかないかな?」

シグラとブネは不思議そうに首を傾げ、そして同じタイミングでバスコンを見た。

「とくにないよ」

「ああ、普通の車だな」

彼らが言うならバスコン自体は問題ない。ホッっと息を吐いた。

「どうしたの?なにかあった?うらら」

「ううん、何でもないよ。ちょっと気になっただけだから」

まだ賢者に訊きたい事があるので、「後でね」とシグラに手を振った。


「賢者さん、話はかわりますが、質問良いですか?」

「どうぞ。私で答えられる事なら答えるよ」

「あの、いくつかあるんですが、まずは……」


ちょっと脱線したが、賢者に訊きたいことは3つ。

フィルマ王国からどうやって日本に移住したのか。

ドラゴンの妻や母としての話。

……あとはアンチエイジングについて。15年後の自分ではあるが、かなり若い。何なら私よりも若そうだ……。


ブネがどんな事をすれば喜ぶのかも知りたいが、それは私がシグラの事を知っていけば良い事だし、訊く事ではないかな。


さて、どれから訊こうかと悩む私の目に賢者の大きなお腹が目に入った。


「……卵ってどれくらいの大きさなんですか?」



■■■



ココ最近は馬車の二階部分はライやコウの場所になっていたので、クッションが敷き詰められて居心地のいい場所になっている。

私とシグラはそこに上がり、クッションを背に空を眺めていた。

ここら一帯には防視の結界が張ってあるらしいが、結界内から木々やその隙間から星も見る事が出来る。シグラが言うには、張ってあるのは特殊な防視の結界らしい。私は結界については良くわからないので、そうなんだー、としか言えないが。


夜も更け、本来なら街頭の無い森の中は真っ暗だろうが、シグラが魔法で炎を出しているので、ほんのりと明るい。


賢者は私との話を終えると、ブネと共にコウとレンとリュカを連れて家の方へ戻って行った。

その際、賢者が山荘でのお風呂と寝床を勧めてきてくれたが、シグラがこの場所から動けないので私は辞退。その代わりにキララとロナとククルアの事をお願いした。温泉があるらしいので、皆には旅の疲れをしっかりと取ってほしいと思う。

ちなみに酔っ払いの大人達は地面でお休み中だ。私や賢者は夫達の結界により男性に触れられないので、全ての世話をシグラやブネに任せる事になってしまう。それはさすがに大変だと言う事で、申し訳ないが放置となった。

それに全員へたくそな酔い方をしているので、下手に個室でベッドに寝かせておいても吐瀉物で喉を詰まらせる事があるかもしれない。様子を見る為にもこうして一所に置いておくのはアリだろう。檻の結界が施されているので温度も一定で風邪もひかないだろうし。


「うらら、こっちにきて」


ひょいっと抱き上げられ、シグラの膝の上に座らされた。そしてまるで女の子がぬいぐるみを抱きしめるように、シグラに抱きしめられる。


「うらら、けんじゃと、たくさん、おはなしできた?」

「うん。さっきも言ったけど、切っ掛けを作ってくれてありがとう、シグラ」


訊きたいと思っていたことは、ほぼ全て聞けたと思う。


「シグラにも話しておきたい事があるの。聞いてくれる?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ