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止まらない:ライ視点(※ブネ視点有)

『早く賢者を殺せ』


キャリオーザの命令が飛んできたので、私は自分の身体が動かないよう全身に力を入れた。

悔しいが番の命令は強力で、こうして反抗するので精一杯だった。

そんな苦しむ私を見かねたウララは持ち慣れない剣を構え、キャリオーザを睨んでいた。

「……うらら、とまって……」

絞りだす様な声になったが、ウララに聞こえてはいるだろう。

キャリオーザなどどうでもよかったが、どんな人間であろうとも怪我をさせたらウララは自責の念で心を病んでしまう。そう思った私は剣を退くようにウララに命じた。


だが、その命令は聞き入れられなかった。


ウララの目は私と同じ金色になっていた。

加護を与えてしまった時に私の色が混じり彼女の髪と目の色が少しだけ変わったが、今、目だけではあるが完全に私と同じ色になっていたのだ。それは私と考えが同調しているという証なのだと理解してしまった。


つまり、私の上辺の命令は聞き入れられるわけがない。私の真の願いは、キャリオーザを殺す事だから。


「……だめだ、うらら……!」


再度声を掛けたが、それも空しくウララは走り出し、剣を振り下ろしてしまった。


ギイイン!という鈍い音が響く。

どうやらキャリオーザに物理反射の結界が張られていたらしい。私の結界ではないので、手持ちの魔道具かキャリオーザの甥の仕業だろう。


なにはともあれ、剣を使い慣れていないウララは、いとも簡単に剣を弾き飛ばされた。

思わず「よかった……」と声が出た。

柄にも無い事をしなくて良いのだ。彼女の柔らかい手は、人を傷付ける事に適していない。


しかし安堵したのも束の間、ウララの目は変わらずキャリオーザを睨んでいて、今度は拳でキャリオーザを守る結界を殴りだした。


弾かれ、拳を潰し、皮膚が破れて血塗れになりながらも“ブネを解放してくれ”と泣き叫びながら、ひたすらに結界を殴り続ける。


「や、めて、うらら……」

ウララが傷付く様を見て、私の目から涙がボロボロこぼれる。

「おねがいだから、もう、がんばらないで」

ウララに結界を張り怪我を治してやりたいが、今の私にはそんな余裕はない。


最初はウララの剣幕に慄いていたキャリオーザだったが、結界に守られている安心感からか、冷静さを取り戻し、ウララの事を鼻で笑った。

『何を喋っているかわからぬわ、この蛮族が。来世で人の言葉を喋れるようになればよいなあ?』

キャリオーザの目が私に向いた。

『お前も何をしておるのだ、ブネ。さっさとこのゴミを消せ。番の命令であるぞ、早うせよ』


キャリオーザの念を押すような命令に、私は更に衝動を抑え込むのに苦心した。

至る所の血管がブチ切れそうだったが、ウララだけは殺したくない。絶対に。


動かない私に、キャリオーザは顎を上げて見下すような態度をとった。

『ブネ。わたくしの傍に居たいからこそ、廃棄処分場から立ち上がり、わたくしの前まで来たのだろう?』


奴のその目は侮蔑の色をしていた。


『わたくしに仕えたいなら、わたくしの役に立ちなさい。さもなくば、さっさと廃棄処分場にお戻りなさい。使えないモノはゴミ、価値は無い……うあッ!!』


何故か突如キャリオーザを守っていた結界が壊れた。


それに伴い、遂にウララの拳がキャリオーザの頬に当たった。

私の加護を持っているとはいえ、ウララの疲れ果てた体から放たれたボロボロの拳はそこまで威力はなかっただろう。実際、キャリオーザは少しよろけた程度だった。だが確かにウララはキャリオーザを殴り、そして……


『キャアアアアアアアア!!!』


キャリオーザの悲鳴が上がった。ウララの血塗れの一撃だったので、それを食らった奴の頬はべっとりと血が付いていた。

『な、殴られた、痛いいいっ血が……血が出てるううう!!わたくしの美しい顔から血があああ!!』

ウララの血を自分の血だと勘違いしたキャリオーザは、大袈裟に叫び声を上げた。そしてパニックになり、足をもつれさせてその場に転んだ。


キャリオーザの悲鳴を聞いた私の身体が少し軽くなる。


『ブネ!!!殺せ!!このクソ女を殺せ!!踏み潰してミンチになさい!!』

『!』


命令に従わないようにまた力を入れたが、しかし命令を実行したい衝動は先程よりも格段と小さなものになっている事に気付いた。番の縛りが薄れてきているような、そんな感覚だった。


―――あ……ああ、そうか


ドラゴンの番を奪う方法として、雌が雌に勝つというものがある。

そしてたった今、ウララの攻撃を受けたキャリオーザは悲鳴を上げ、その場に倒れたのだ。


「うらら、とまって」


楽になったので、漸くまともに話す事が出来た。

キャリオーザに追撃しようとするウララの身体は今度は止まってくれた。


「ブネ、さん……」


ウララの瞳の色はいつもの大人しい茶色に戻っていた。

彼女はぼろぼろと涙を零している。


「うらら、ごめんなさい。うららに、ひとをなぐらせてしまった」

「ブネさん……」


絶え間なくキャリオーザからの“賢者を殺せ”という命令が飛んでくるのを聞きながら、私はウララの傍に行くと、自分の指を噛み切り、彼女のずたずたになった拳に血を垂らした。



『その後、キャリオーザの危機を察知したらしいキャリオーザの甥が現れてな。そいつがウララを殺そうとしたので―――逆に私がキャリオーザ諸共ブレスで消してやった』


絆が薄れかかっていたとはいえ、番に明確な反抗をした事で父さん(コイツ)にも相当な反動ダメージが来たそうだ。

どんなダメージだったのかとコウが訊く。

『一月ほど頭と心臓が使い物にならなくなった程度のダメージだ』

本当はもう少し完治に時間がかかるダメージだったらしいが、損傷した脳の修復を終え、母さんが看病してくれている事に気が付いた途端、すぐに元気になったそうだ。

ドラゴンは現金な生き物で、生きる気力が満ちている時には怪我の治りがかなり速い。




ベッドに寝ころびながら、天井を見る。


泣ける話として聞いたこの話は、アイツが母さんに求愛行動してもいいか訊ねたが、速攻で断られたという情けないオチで終わった。

“キャリオーザを倒したのは実質ウララだから”とか言って食い下がったらしいが、駄目だったそうだ。

ちなみにアイツは今も虎視眈々と母さんの番の座を狙っているようだが、けんもほろろ、だそうだ。

別にアイツに魅力がないと言う事ではなく、キャリオーザのせいで母さんが“ドラゴンの番”に対してかなりのネガティブなイメージを抱いているのが原因だろう。

そもそもドラゴンの求愛行動に人間の母さんは耐えられないのでは……?

そう思ったので、母さんを殺す気かとコウと一緒に抗議すれば、アイツはふふん、と笑った。

曰く、抜け道は沢山ある、との事。

もしも僕達が大人になった時、自分よりも力の弱い相手をどうしても番にしたいなら教えてやると約束してくれた。


ちなみにこれは余談だが、アイツの話を聞いて僕達はわかった事があった。

それは母さんが悲しい目に遭っている話なら、僕達は泣けるという事だ。

いや、母さんだけではない。レンやリュカの可哀想な話でも涙腺が緩む。多分、僕自身が守らないといけないと思っている存在が悲しい目に遭っている事が、引き金なんだろう。


どうでもいいが、アイツ(父さん)自分達(僕とコウ)が悲しい目に遭っている話には、僕とコウの涙腺はぴくりとも反応しなかった。

と言うより、幼いころの自分達の恥ずかしい失敗談(ブネルラに居る時にエルフに求愛しようとして相手に冗談だと思われ笑われた事とか、小学校で一生懸命作った敬老の日用の贈り物を祖父ちゃん達にあげる前にうっかり壊して大泣きした時の事とか)を聞かされ、『何でそんな事いちいち覚えてるんだよおお!!』と僕とコウで発狂した。


とにかく、僕達の涙の引き金がわかったので、徹底的に父セレクトの母さんやレンやリュカにまつわる悲しい話を聞きまくり……漸く涙出せ地獄から解放されたのだった。


閑話休題。


……今回初めてアイツが番にブレスを吐いた時の詳細を知った。

キャリオーザは夫としてではなく、兵器としてアイツを番にしたことも知った。


でも、それは本当だろうか。

僕が聞いたのは、アイツ側の意見のみだ。

「……」

母さんに言われた通りベッドでゴロゴロしていたが、考えがまとまりそうにない。空気の入れ替えでもしようかな。


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