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「では、早速山を下りましょうか」

「そうだな。食料確保は急務だ」


異世界4日目。ロナが作ってくれた馬の彫刻を船首象のようにバスコンの前に取り付け、馬衣を着させる。そして車体に幌を被せて紐で飛ばないように括りつけた。

急ごしらえだから、クオリティーは二の次よ。


そしてエンジンを掛け、私達は漸く降り立った場所から移動を開始した。


車が動くと、おお、という感嘆の声が後ろから聞こえてきた。

「これが異世界の乗り物……!」

「あんまりはしゃいでると酔うぞ、親父」

「この年になって新しい感動を体験する機会はあまりありませんから…!」

ダイネットのシートにはキララとアウロとロナが座っていて、シグラは私の隣、助手席にお行儀よく座っている。


「まずは換金できそうなものを換金して、シグラの服を買って…」

「姉、食材が先だぞ」

「シグラの方が先だってば。ちゃんとした服じゃないと、目立っちゃうでしょ」

「ぐぬぬ」


アウロが言うには、貫頭衣は奴隷や浮浪者が着る服らしい。しかし幸いシーツで作った貫頭衣はシーツ自体が質の良い物なので、質素な格好で修行をする巡礼者に見えなくもないそうだ。

まあ、とにかくちゃんとした服を着せてあげたい。


舗装されていない山道は多少がたつくが、通れない程ではない。山の流浪の民が長年使っている道だから、それなりに通りやすくなっているのだろう。


「姉、何か音楽掛けてくれ」

「良いよ。ブルートゥースで繋がってるから、プレーヤー渡すから自分で選曲して」


運転席の小物入れに置いてあったMP3プレーヤーを後ろのキララにぽいっと渡す。

受け取ったキララは早速カチカチと操作していく。

「それは何ですか?」

「あー…えーと、音楽を聴く機械だよ」

「ほうほう。テレビと同じようなものですかな?機械という物は優れた性能を持っていますね。魔道具とはまた一線を画しているといいますか…」

この世界には魔道具というものがあるけど、アウロやパルに訊く限り、単純な機能しかないみたい。例えば光の魔石で照明器具系、火の魔石で暖房器具系、水の魔石で飲料水や風呂を、風の魔石で冷風機のような感じ。地球と少し違う発展の仕方してるなあ。そう言えばパルはこの星には製油所が無いと言っていたから、地球のように産業革命もなかったんだろうね。まあ、魔法やら魔石といった便利なものが存在するのだし、苦労してエネルギーを作る必要ないだろうけど。

「ロナには魔道具は作れないのか?」

「さて、ロナなら勉強をすれば作れるようになるかもしれないですね」


「そういえば、」と私はキララとアウロの会話に割って入る。

「学校はあるんですか?文字や計算を教えてくれる場所なんですが…」

「学校はありますが、文字や計算は教えません。学校は専門的なことを教える場所なので。文字や計算を教えるのは家族か教会かですね。裕福な家庭なら家庭教師を雇ったりしているそうですが」

この世界でいう学校っていうのは専門学校とか職業訓練校のようなところなんだね。

「魔道具師になる為にはその学校に行かなきゃいけないのか」

「ええ。ですが、学校は裕福な家の者が行く場所です。根無し草の私ではとてもロナをその様な所には行かせてあげられません」

「なるほど」


と、そこに軽快な音楽が掛かりだす。数年前車のCMソングだったJ-POPで、私もドライブ中によく聴いている。

「おおお、聴いたことのない音だ…!!」

表情は見えないが、声からしてまたアウロは感動しているようだ。


「げっ」

キララが嫌そうな声を出す。

「どうしたの?」

「あの鹿と鳥のアイツがこっち見てる」

「単独では襲ってこないらしいし大丈夫でしょ。それにシグラの結界もあるし」


ああ、嫌な森だった。さっさと下りておさらばだ!



■■■



山麓の集落についたのは、お昼間近だった。

周囲は木でできた厳重な柵で囲まれていて、入口の門で私達は止められていた。


門番の人が喋る言葉がやはりというか、さっぱりわからない。

ここで活躍したのはアウロだった。


彼が対応したところ、どうやら身分を証明しろということだったらしい。

「私の身分証を出しておきますね」

アウロは元々冒険者だったので、冒険者ギルドが発行した身分証もある。

都市部になると全員の身分証が必要になるが、このような小さな村では有事以外は代表者の身分証だけで事足りるようだ。…王都に行くつもりなんだし、やっぱり必要だなあ、身分証。


「やはり言葉の壁は高いですね。アウロさんがいてくれたから助かりました」

「貴女方には助けてもらいっぱなしですからね。お役に立ててなによりです」


バスコンは荷馬車に偽装してあるが、念のために人目のつかない門の傍に停めさせてもらった。

全員出払うけど、シグラの結界があるからイタズラの心配はないよね。

「姉ー、腹減ったぞ。折角だから昼はこの村で食べようよー。服は選ぶのに時間が掛かるんだから、飯の後で良いだろー」

「わかったよ、わかった。だから服引っ張んないで」

食事処を門番に訊けば、何故か村唯一の宿屋を教えてくれた。不思議に思っているのがバレたのか、門番が昼間は食事処として営業していると教えてくれた。

アウロは門番に片手を振って謝意を示し、背を向けると、小声で「気を付けて下さい」とウララに釘を刺す。

「この国では庶民が使う宿屋が食事処を営むのは珍しい事でもないですよ。あの門番には貴方は世間を知らないお嬢様だと思われたと思いますよ」

「そうなんですか?」

「ウララさん達は思考にしろ所作にしろ全てにおいて品が良すぎます。裕福な家庭の子女かお貴族様と間違えられても仕方ないですよ」

「気を付けます…」

昨日の山賊の件で思い知ったけど、金持ちだと思われたらその分危険が増すんだよね。気を付けないと。

「何はともあれ、換金しましょうか」

そうアウロが提案し、彼が先導した場所は貴金属店だった。

「本当はギルドで換金した方がぼられる心配が無くていいんですがね、この村には支部が無いみたいですから」

手ごろな貴金属を出すと、店主に提示されたのは金貨10枚だった。アウロは金貨10枚を貰うのではなく、金貨7枚と銀貨20枚、銅貨100枚で受け取った。

何となく、金貨1枚で10万円、銀貨1枚で1万円、銅貨1枚で千円くらいかな、と思う。ちなみに銅貨の下…日本でいうところの小銭は銅片らしい。

これは周辺の国々で共通の通貨なのだそうだ。


シグラの結界のお陰でスリの心配はないけど、万が一紛失したら困るのでお金は分散させた方が良いとして、私とアウロが持つことになった。キララやシグラやロナはまだお金の管理は無理だということで除外です。

「後でお財布買わないとね」

「そうだな。でもまずは飯だ」


門番に教えてもらった道を歩いて行くと、美味しそうな匂いがしてきた。

店を覗くと中学生くらいの年頃の女の子がエプロンをつけて忙しそうにしている。その子と目が合うと「しゃおしゃおうおお~」と話しかけてきた。

「あの方は店員さんで、いらっしゃいませ、と言っています」

アウロの通訳を聞きながら店に入ると席は殆ど埋まっていた。

人気店なんだろうなあ。このお店を紹介してくれたあの門番は良い人に違いない。


店の席に着くもメニュー表はなく、困ったようにちらりとアウロを見る。

「注文なら私がしますよ、お嬢様方」

「すみません…」

こういうお店では決まったメニューなんてものはなく、『肉料理』とか『さっぱりした物』とか『汁物』と大雑把に注文するらしい。

こういう物を知らない所なんだろうなあ、お貴族様っぽいって言われるのって。

まあ、メニュー表があっても読めなかっただろうけど。

「おうしゃお」

「おまちどうさま、と言いました」

店員さんがテーブルに並べてくれた料理を見る。骨付き肉を焼いたものと、スープと固い黒パンだった。

「これが一般的なお料理ですか?」

「そうですよ」

まずは肉を齧ってみる。胡椒が効いているが、それでも独特の臭みがした。

テーブルにも胡椒の瓶が置いてあるので、この世界では胡椒はそう珍しい物ではないのだろう。

スープはミルク味のものだ。中には野菜が入っていて、水っぽいシチューみたいな感じかな。

パンは…うん、固いね。全粒粉のパンなのかな?


「さてこれからの行動ですが、まずはシグラの服を買いに行こうと思います」

食事中にこれからの行動を話し合う。

「姉よ、私達の服も買った方が良いんじゃないか?村の中を見るに、どうやら女はワンピースを着るのが標準らしい」

うん、確かに村に来て気付いたことだよ、それ。

元々私達の目的はバスコンでキャンプや旅行をすることだった。なので、動きやすいようにスカート類は持ってきていない。

「冒険者だと女性でもズボンを穿いている方もいますけどね。まあ普通はワンピースですね」

というのはアウロ談。ちなみにロナはワンピースだけど下にズボンも穿いている。

「そうなんですね。ロナちゃんやアウロさんも長旅で服がボロボロだし、一緒に新調しましょうか」

というか、マントで隠しているけどアウロの服にはペリュトンに刺突された際にできた穴があるし。



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