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涙の行方は:(前半:コウ視点)

合流したライと二人で話し合うフリをしてこっそりとルランさんを見る。

妹が興味を示した人物(の兄)なので、少しばかり観察だ。まあ、リュカの好きなタイプはレンだけどな。リュカは母さんにめちゃくちゃ影響受けてるから、父さんにそっくりなレンを1番格好良いと思っているのだと思う。


テランさんはお姫様のようなキラキラさだったが、ルランさんは王子様のようなキラキラさだ。更に言えばキラキラ兄弟の隣にいるジョージさんもキラキラしている。

……キラキラがゲシュタルト崩壊しそう。


「……レンが言っていた通り、確かに王子様っぽいよな」

「またリュカが騒ぎそうだな。昨日はテランさんにかなり迷惑かけたから、今度はきちんと注意しておかないと」

難しそうな顔で対策を練りはじめたライに「大丈夫だろ」と声を掛けた。

「リュカのあれはテランさんをウララ先輩に見せる為だったんだし」

言い方は悪いが、珍しい生き物を見つけたから、大好きな先輩(母さん)に見せてあげたかっただけだと思う。


ちなみにテランさんの事は馬車の中でそのまま眠らせておく事にしたらしく、ルランさんはテランさんの無事を確認した後すぐに馬車を降りて此方に来ていた。

今はアウロさん、ククルア、ルランさん、ジョージさん、そしてカエデさんとその従者の人とで色々と情報交換をしている所だ。

そんな彼らの足元ではナベリウスさんが狼の姿で丸まって眠っている。最初は話に交じっていたようだが、途中で飽きたのだと思う。


カチャン、と車の方でドアが開く音がした。

「あ、ロナさんが降りてきた。あの子は起こしたんだな」

「うん。シグラさんが血をあげてたよ。ロナちゃんはドワーフだから簡単には加護は付かないだろうってさ」


ロナちゃんは俺らや父親のアウロさんをスルーして馬車の中へ入って行ってしまった。そしてすぐにガンガンガンガンと音が聞こえだした。

「作業、してるみたいだな」

「あの子、シグラさん達の指輪を作ってんだよな。……あ、父さん達も降りて来た」

「……。」

父さんが降りて来た瞬間、ライの口がへの字に曲がる。思春期だなあと思ったが、それを指摘すると絶対に怒るから黙っておいた。


皆の視線が父さん達に向く。

父さんはそれに一瞥もせずに俺達の傍にやって来た。母さんもアウロさん達には会釈だけして、父さんの後を追う。


「ライ君、レン君は起きたの?」

まず声を掛けてきたのは母さんだった。

「うん。でもまだ眠いって言ったから、部屋に連れて行ったよ。リュカは部屋でお絵描きして遊んでる」

「そう、お世話してくれてありがとう、ライ君」

ライに礼を言った後、母さんは父さんに顔を向けた。

「ブネさん、母屋に檻の結界を張ってくれる?念のためにお風呂場と台所にも入れないようにして欲しいんだけど」

「わかった」

今は一応客が来ているから、小さな子供だけを置いておくのは怖いと判断したのだろう。俺達はドラゴンだからそこまで過保護にならなくても良いとは思うんだけど、母さんはいつも俺達を普通の子供として扱う。……まあ、そのお陰で学校の友達と感覚のズレが無くて助かってはいるけど。


それにしても母屋全体に檻の結界は流石にやり過ぎな気がする。いつもは害意のある者を弾く結界しかしないのに。……あ、そうか。俺らが過去の世界に迷い込む原因にもなったけど、リュカは見ず知らずのドラゴンに誘拐されたばかりだからか。


ライも母さんの心配に気づいたのだろう、自分だけでも母屋に戻ろうか?と提案した。

だが、母さんも父さんもそれには及ばないと首を振る。


「ライ君とコウ君には大切なお仕事があるから」

「お前達が泣けるかどうかは知らんが、話を聞かせてやる。こっちに来い」


皆が居る場所から少し離れた場所に来ると、俺達は車座に座った。

更に父さんは防音の結界を張り、極めつけにはフィルマ語で話し出した。傍に居る母さんにも知られたくない内容らしい。


そして父さんがまず語ったのは母さんに番になる事を拒否されている件だった。



■■■



「……あれ?」

ふと気が付いたら見慣れた天井があった。ああ、ここは私が一人暮らししているアパートの部屋だ。

私はいつの間にかベッドで寝ていたらしい。


「どうしたの?うらら」


ベッドの傍に置いてある座椅子にシグラが座っていて、私を見ていた。

「ううん、何でもない。もう朝?」

「そうだね」

シグラは「おはよう」と挨拶をすると、私の頬にキスをしてくれた。だから私も同じように返す。


カーテンの隙間から仄かな明りが差している。……今何時だろう?

時計を見ると朝の5時35分を指していた。

頭の中に今日は6時に出勤しなければいけないと浮かぶ。


やばい、仕事に遅れる!

ベッドから飛び降りて洗面所に行き、歯磨き粉を付けた歯ブラシを口につっこみ、そのまま部屋に戻りクローゼットを開けた。

「シグラ、3分だけこっち見ないでね」

「わかった」

彼が反対方向を向いたのを確認すると、手早くパジャマを脱ぎ、仕事に着ていくブラウスとタイトスカートを身に付ける。

ストッキングは―――ときょろきょろと探していると、すっとシグラの手が伸びてきてクローゼットの中にあった紙袋を指さした。


紙袋の中には美味しそうなお菓子が入っていた。

「シグラが用意してくれたの?」

「うん。もっていって、うらら」

朝食は無理だなって思ってたから、とてもありがたい。

「ありがとう、シグラ」


その後、ベッドの下でドーナッツ状に丸まったストッキングを発見。多分昨日脱いだやつだけど……あー……もう仕方ない、一旦これを履いて仕事場に行って、時間が出来たらコンビニに行って新しいヤツ買おう!それにもしかしたら会社の更衣室のロッカーに替えのストッキングがあるかもしれないし。

支度を終えると洗面所に戻り、口をすすぎ洗顔も雑に済ませる。

メイクは取りあえずクリームだけでいいや!ちゃんとしたメイクは更衣室でやればいいし。

姿見でおかしなところは無いか全身チェックをすると、お菓子の入った紙袋と通勤用の鞄を持って玄関へ。靴を履きながらアパートのチェーンを外して鍵を開けた。


「うらら、まって」


外に駆け出ようとした時、シグラに声を掛けられた。

「シグラ、ごめん。話なら帰ってから聞くから」

「しぐらも、いっしょにいく」

シグラに手を引かれながら、アパートを出る。

道路に出たところでシグラは私を抱え上げ、そしてドラゴンになった。


「わ~、凄ーい」


ぐんぐんと猛スピードで周りの景色が流れていく。

いつもは車で15分の職場もあっという間に見えて来た。

ああ、彼が一緒なら遅刻はしないで済む。

優しくて頼りになって格好いいこの人が私の夫だなんて、本当に幸せだなあ。

「シグラ大好き」

シグラの堅い身体にひしっと抱き着いた瞬間、“あれ?”と気づいてしまった。


……私、1人暮らしなのにどうしてシグラがいるの……?

……ドラゴンが飛んでも騒ぎにならないかな……?

……そう言えば私、仕事は一時的に辞めなかったっけ……?


頭の中が“?”でいっぱいになると周りが霞みだし、やがて真っ暗になった。

そして……ぼんやりと紅色が見え、徐々に輪郭がはっきりとしてきた。

此処でようやく自分が眠っていて、先程のは夢だったのだと理解した。


「……シグラ?」


心配そうな顔と目が合い、彼の名を呼ぶ。

すると心配そうな顔から一転して花が咲いたように笑顔になった。



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