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その頃ブネルラでは:ビメ視点

金竜と対峙していた兄上の気配が消えた後、兄上が張っていた結界は全て消えた。

檻の結界の底に積み重なるように倒れていたドラゴンは底がなくなったので落下していったが、建物の上に落ちる前に金竜によって新たな檻の結界が張られたので、街に被害は出なかった。


兄上程ではないにしろ、この金竜はかなり強いドラゴンだ。私やブニよりも強いかもしれない。


金竜はドラゴン達が入った檻の結界を持ち去る前に、私と私の番であるミクに目を向けた。

≪紅竜と彼の番達は、別の世界に飛ばした。追おうとしても無駄だ≫

それだけ言うと、金竜は嵐の空へ飛び去った。


“飛ばした”か。

兄上が魂を視る事が出来る特殊な能力を持つように、あの金竜も特殊な能力を持つ個体なのだろう。兄上に勝つことは難しいと判断し、その特殊な能力を行使したか。


≪ビメ……金竜のことどうする?ブネ殿は……≫

≪金竜は追うな、お前では太刀打ちできない。兄上なら放って置いても大丈夫だ≫

兄上の事は心配するだけ無駄だ。

≪我らはブネルラに戻ろう≫

私がそう言うとミクは一瞬きょとんとしたが、すぐに満面の笑みを浮かべた。


≪わーい!やっと僕らの住処に帰れるんだね、ビメ≫

≪近寄るな≫

≪きゃいんっ!≫


隙あらばじゃれついて来ようとするミクの横っ面を尻尾ではたく。本当に私の番は面倒な奴だ。

いいや、ミクだけではない。兄上もご自分の番には全力でじゃれついていたのを鑑みれば、ドラゴンの雄は大抵がそんなものなのだろう。

まあ兄上は良いんだ。兄上は強いし、番の雌も嫌がってはいなかったから。



嵐地帯を越え、山々の上を飛んでいく。

時折血気盛んなドラゴンの雌に喧嘩を売られるが、それを丁寧に半殺しにし、更に山を越える。


雪がちらほら降り始めたかと思うと、あっという間に吹雪へと変貌する。降雪で視界が悪くなれば、気配を頼りに飛ぶことになる。


≪ミク、付いてきているか?≫

≪大丈夫だよ~≫

≪ちゃんとついて来いよ。お前の翼が凍り付いても私は捨て置くぞ≫

≪はーい!≫


返事は良いが、定期的に声掛けしていないとコイツはどんくさいから、いつの間にか翼を凍らせて落下しそうになるのだ。

全く……、兄上の10分の一でも強くなってくれれば、ここまでイライラしなくて済むのだが……。

兄上やブニの番の雌が羨ましい。


それから結局2度ほどミクは落下したが、私達は無事にブネルラに辿り着く事が出来た。

ブネルラの郷に降りると、寒さも和らぐ。雪も上空は吹雪いていたが、郷ではチラチラと降っている程度だった。


『お帰りなさいませ、ビメ様!』


ブネルラの教会の前に降りた私の元に、数人の聖騎士がやって来た。


『兄上から血をいただいて来た。留守中に何か変わったことはあったか?』

『精霊ロノウェの使いの者が来ております』

『それはエルフに任せておけば良いな』


兄上の教会はドラゴンでも入れるように設計されているので、かなり大きい。

とは言え、残念ながら兄上が此方に降りて来た事はまだ無い。


『そう言えば新しい聖騎士が加入致しました。侯爵家の人間で、若い男子です』

『そうか』


教会の奥に入ると巫女の装束を着た雌のエルフが3人、待ち構えていた。私は人間の姿に擬態して兄上の血を入れた壺を彼女らに渡した。


『兄上の血だ。大事に扱いなさい』

『ありがとうございます、ビメ様』


エルフ3人は深々と頭を下げると、更に奥へと入って行った。そこは祭壇があり、幼いエルフに加護を授ける場所なのだ。


さて、血を渡す事も出来たし住処に帰ろうか。それとも旅の疲れを癒す為にブネルラの麓に湧いている温泉にでも入ろうか。


よし。先程から私の後ろで≪早く住処に帰ろう≫と呟きながらキラキラとした眼差しを向けてくるミクがうざいので、住処に帰るのは後回しにして温泉に行こう。


人間に擬態したままペタペタと教会の廊下を歩いていると、メガネを掛けた若い雄エルフが声を掛けて来た。

『ビメ様、ブネ様のご様子は如何でしたか?』

『ご健勝のご様子だった。そして相変わらず番の雌にじゃれついていたな』

兄上が人間の番を得た事は、この教会に仕えるエルフと聖騎士達なら全員知っている。そしてドラゴンの雄は番の雌に絶対服従という事情も知っているので、心配して兄上達の様子を訊いてきたのだろう。

『あの、ブネ様は辛い目にあっておられませんか?』

『辛いかどうかは兄上にしかわからぬ。私がわかるのは、兄上の番の雌は兄上を好きにさせているということだけだ。先日も私が交尾をしているのかと間違う程に兄上達は密着していたが、番の雌は恥ずかしがっていただけで、文句ひとつ言っていなかった』


『ほう!』


聞き耳を立てていたのか、教会の柱の陰から年老いた雄の聖騎士が現れた。

『良い奥方様を貰ったようですな。私が生きているうちに、ブネ様の御子を見ることができるやもしれませんなあ』

子供なら既に見たが、話がややこしくなるので黙っておこう。

『十数年後には3、4人は生まれてると思うよー』

ミクがにこにこ笑いながら言うのを、老騎士は『それ程仲がよろしいのか』と嬉しそうに笑った。


例えじゃなくて本当に生まれるかもしれないんだがな。


『流石に3、4人は言い過ぎだと思いますが、子供部屋も必要になりそうですね』

メガネのエルフは指を顎に置いて“ふーむ”と何かを考え始めた。

ビメ様、と老騎士が話しかけてくる。

『今のうちにブネ様と奥方様の部屋を教会に作っておきたいと皆で話していたのですが、何かご助言をいただけないでしょうか』


助言、か。


『兄上の番の雌は人間だ。兄上もそれに合わせて常時人間に擬態されておられる。ならば人間の番同士が使うような部屋で良いのではないか?』

『なるほど……貴重なご意見ありがとうございます、ビメ様』


『そもそも部屋で良いのかな?参考になるかはわからないが、俺の妻は一軒家に憧れているし』

メガネのエルフの後ろからわらわらとエルフや聖騎士が集まってくる。

『好みもあるし、一度ブネ様や奥方様とお話をしたいものだ』

『温泉を引こう。奥方様は人間なのだ、きっと気に入る』

『それは良い。奥方様の機嫌をとっておかねば、ブネ様が責められるかもしれないし』


勝手に盛り上がり始めたので、もう私は此処にいなくても良いだろう。

さっさと教会を出ようと踵を返したところで、そう言えば、と思い出す。


『部屋も大事だが、大きな駐車場を作っておいた方がいいぞ』



■■■



温泉が湧く場所に行けば、数名の先客がいた。全員エルフの雌だった。

薄着のエルフの雌共は温泉の傍らで簀の子を置き、何やらマッサージをし合っている様子だ。


『何をしているのだ』

『あ……ビメ様』

『ビメ様は気持ちが良く、美容に良いとされるマッサージの仕方をご存知ですか?』

『人間がエステと呼んでいるものです』

『……知らないな。それがどうかしたのか』

雌共は私の言葉を聞いて肩を落とした。

『ブネ様の奥方様にこの郷を気に入っていただかないと、ブネ様が虐められてしまうと思いまして』

『我らが頑張らねばなりません』

『しかし、この郷には若い人間の女性はいなくて、何をしたら良いのかわからず……』

『信者の女性に、人間の女性はエステというマッサージを好むと教えて貰ったのですが、肝心のやり方がわからなくて』


この郷にいる人間は年老いた聖騎士か、亡き者の魂と共に生きる事を決めた信者だ。若い者が一人もいないとは言わないが、それでも圧倒的に年老いた者が多い。

かと言って、エルフは人間社会では差別を受ける生き物なので、おいそれと郷を離れて人間の街に行くことも出来ず、悶々としていたらしい。


『兄上の番の雌は穏やかで大人しい性格をしている。お前達が頑張らずとも、兄上は虐められないから安心しなさい』

『いいえ、男女のことですもの。もしもの事があります!』

『ブネ様が悲しい思いをされる事だけは避けなければ!』


『……なぜこの郷の者共は、兄上の事をそんなに傷つきやすい性格だと思っているのだ……』


私は兄上よりも強い存在を見た事は無いのだが。


『だって、ずっとお眠りになられていたのです!繊細で傷つきやすいお方に違いありません!』

『番を得たと聞いた時も、箱入り娘が如く世間ずれされていないブネ様が悪女に騙されたのではと冷や冷やしたものです』


エルフ達は『私達がブネ様をサポートしなければ!』と言いながら気合いを入れている。

ずっと住処に引きこもって、全然この郷に顔を出していなかったから、変な誤解をされています、兄上。



実はビメとミクの関係性を見て、一層不安になってたりする。

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― 新着の感想 ―
[一言]  繊…細?(((*≧艸≦)ププッ  現実を見た時が楽しみですね~♪むしろウララを守らなくては派とか、シグラとウララをほのぼのと(親目線で)見守る派とかが出てくると予想(/ω・\)チラッ  い…
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