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訪問者:ブネ視点

子供達を引き連れてガレージへ行くと、レンの傍に座っているウララを見つけた。同時にウララも私達に気づき、にこりと笑った。

私の後ろにいたライとコウは、リュカを連れてウララの方へ駆け寄って行く。

「泣くコツは聞けたの?」

「まだ」

「父さんに絶対嫌だって言われた」

まるで私が意地悪をしているような言い方をする子供達に、慌てて「ウララが誤解するような事を言うな」と口を挟んだ。私は他人にどう思われようが気にしないが、ウララにだけは悪く思われたくない。

するとすかさずコウがにやりと笑った。

「じゃあ聞かせてよ」

「それは……ちょっと……」

じっと此方を見てくるライとコウの視線に思わず顔を背ける。

子供の願いなのだから叶えてやりたいのは山々だが、これだけは本当に駄目なのだ。


キャリオーザに散々虐げられた話はまだ良いが、私がウララを再起不能にしかけた話だけは駄目だ。


あれはまだ、結婚して間もない頃。私はウララを独占出来た嬉しさのあまり、住処で朝も昼も夜も関係なく彼女と交わり続け、たったのひと月で身籠らせてしまったのだ。どの種族とも番になれるドラゴンであっても異種間では子供は出来にくく、それなのにひと月というのはあまりにも異常であった。

2つの魂がウララに宿ったことで私は我に返ったが、その時には彼女は虚空を見ている状態だった。あの時の……ウララの虚ろな表情を見た時の恐怖は、今思い出しても筆舌に尽くし難い。

幸いウララは私の加護を持っていたので命を失う事は無かったが、急いで癒しの力を持つブエルの元へ連れて行き、正気を取り戻すのに数週間を要した。後日、ブエルに行き過ぎた行為は拷問にも使われる事だと教えられた時には、後悔してもしきれなかった。

あの時の話をするとウララは「蜜月、凄かったね」と顔を真っ赤にするだけで、特にそれ以上の事は言わないが、子供達が知ったらウララは壊れる……というより発狂すると思う。絶対に。


「ブネさんに無茶な事訊いちゃダメだよー」

ウララに窘められ、ライとコウは不貞腐れながらも「わかった」と頷いた。しかし、あの頷きは本当に“わかった”と思ってはいない時の頷きだ。絶対にウララが見ていない所で追撃が来るだろう。


仕方ない、シグラの番のこともあるし、その時は好きな相手に番になる事を拒否される悲しみを話してやるとしよう。

ドラゴンだったらそれで泣けるはずだ。


「ママ、これ……」

話がひと段落ついたのがわかったのか、リュカがウララにパジャマを渡した。それを受け取ったウララは、どうかしたの?と言いながら広げた。

やはりというか、全面的に破れてしまっている。

「あらら、翼を広げちゃったんだね」

「ママ……ごめんなさい」

しょんぼりと肩を落としたリュカにウララは「ちゃんと謝れたから、許してあげます」と言いながらパジャマを畳み、そして小さな頭を撫でた。

「久しぶりにお家で眠ったから、うっかりしたみたいだね」

「ママ、このパジャマ直る?」

「ここまで破れてたら難しいかなあ」

「そんなあ……」

リュカのパジャマにはウサギの形のポケットが付いていて、それがリュカのお気に入りなのだ。リュカがしょんぼりとしているのは、言いつけを守れなかった事もあるが、それ以上にお気に入りのパジャマを破いてしまった事がショックなのだと思う。

ウララは子供の事なら私以上に理解しているので「このウサちゃんのポケット、リュカちゃんのお道具袋に縫い付けてあげる」と提案してやっていた。


「ところでレンはまだ起きないの?」

コウがレンの名前を出すと、ウララの手がレンの頭に滑る。

レンはまだドラゴンの姿のまま眠っていた。

「ブネさんが血を飲ませてあげたから、大丈夫だとは思うんだけどね……。あ、もう早朝も過ぎて明るくなったからガレージのシャッターを下ろした方が良いかな?」

「そうだな」

今は客がいないので人目はあまりないが、それでも完全に他人の目に入らないというのは難しいだろう。


「ごめんくださーい」


案の定、誰かが来た。

「山荘の入口に複数の人間の気配がする。母屋の玄関ではないから、近所の人間でもコウの担任の教師でもないな」

「夏休みに入ってまでわざわざ学校で騒がないから、先生は来ないよ!」

「あ、もしかしたらキララが言っていたシグラさんの知り合いの方かも。ちょっと行ってくるからブネさんはここでレン君の事を見ていて」


そう言えばシグラも仲間が此方の世界に来ていると言っていた。

もう一度詳しく気配を探れば男が5人、女が3人だった。確かシグラは仲間は2人の人間だと言っていた筈だが、それにしては人数が多い。もしかしたらシグラの知り合いではなく、別件で来た人間か?

まあそれに関してはどちらでもいいが、男がいる場所にウララだけを行かせるわけにはいかない。


「待てウララ。男の気配があるから私も行く」

「リュカも行くー」

「母さん達はお仕事だから、リュカは兄ちゃん達とここに居ような」

リュカはウララの後を追おうと走りだすが、あっさりとコウに捕獲されていた。



■■■



ウララと共に気配のする方へ行くと、駐車場に3台の見慣れない車が停まっているのが見えた。

そして山荘の入口には思った通りの数の男と女がいた。


『あ、シグラ様!』

『シグラ!貴様よくも俺を置いていったな!』


此方が声を掛ける前にフィルマ王国の言葉が飛んでくる。あれがシグラの知り合いだろう。


「あ、あれ?ジョージさんがいる」

私の後ろに居たウララが驚いたような声を出した。

「ウララ、知り合いか?」

ウララは人間達の方をちらりと見た後、私だけに聞こえるくらいの小声で「プラチナブロンドの髪の人はジョージさんと言って勇者なの。賢者のお孫さんで、王太子殿下と懇意にされていた方だよ。ブネさんも知ってる筈だよ?」と言った。


ウララの言葉を聞いて、改めてジョージという男を見た。


―――……あんな奴、王城に居たか?


勇者とはドラゴンを目の敵にしている面倒な奴らの事だ。

王太子と共にいたのなら、恐らくキャリオーザ、ひいては(ドラゴン)対策だったのだろうが……。生憎と私の記憶にこの男はいない。正直、ウララ以外に興味が無さ過ぎて、王城の人間はキャリオーザ一派を除けば王太子とウララの傍にいた侍女くらいしか覚えていない。

どのみち、コイツはシグラの世界のジョージなのだから私が知らなくても支障はないだろう。


『シグラ様、キララ殿は……』

赤茶の髪の男が手を振りながら此方に駆け寄ってきていたが、違和感があったのか、足を止めた。

シグラの力を微弱ながら感じるので、コイツにはシグラの加護が付いているようだ。


『あ、あれ。奥様?……あ、もしかして貴殿は俺達が知るシグラ様ではないのですか?』

『私はブネだ。今から貴様らをシグラの元へ連れて行くが……』

言葉を一旦切り、残りの6人の方を見る。

『あれは何だ?あの人間もシグラの仲間か?』


私が名乗ると、赤茶の髪の男は目を見開き、そして胸に手を当てて頭を下げた。

『私はゴーアン侯爵家次男、ルラン・フラウ・ゴーアンと申します』

ルランは姿勢を正すと、残りの6人は日本で知り合った人間であり、シグラの仲間ではないと言った。


『最初は一人の女性に送っていただく手筈だったのですが、気が付けばあのような事に……』


「シグラさーん、おはようございまーす」

「うわ、本当に結婚してたんだ。ショックー」

「シグラさーん、写真撮っていいですかー?」


きゃっきゃきゃっきゃとやかましい奴らだ。恐らく物珍しさから同行してきたのだろう。


『何だ、貴様はこの世界のブネか。ならば貴様に文句を言っても仕方がないな』

ルランの傍に来たジョージはふんっと鼻を鳴らした。この男、態度はでかいが、物分かりは良いようだ。


「あの、大人数で押しかけてきてごめんね、シグラ君」

小太りの男が申し訳なさそうに話しかけて来た。

『……誰だ?』

『小寺殿です。学生達の引率をされている方で、俺達が日本で最初に知り合った人です』

ルランのその説明では情報が少々足りないが、学生達と言う事は、あのやかましい奴らは大学生か高校生と言ったところか。


「ウララ、あの男はコデラと言う名前だそうだ。学生の引率だ」

「あ、うん。キララから少し話は聞いてるから、私に任せて」


ウララはにっこり笑うと「身内の者がご迷惑をお掛けしました。大したお礼は出来ませんが、どうぞお入りください」と言って連中を山荘の中へ迎え入れたのだった。


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