特別:(前半:シグラ視点、後半:リュカ視点)
いよいよ私が穴に入るとなった時、ブネは腕の中で眠るウララを結界に包み、そっと横たわらせてから私の傍に来た。
私が穴に入ればこの穴を維持するのはブネだからだ。
≪子供達の事を頼む≫
≪ああ。……そう言えば、この穴はどこに通じているのだ?ライやコウが落ちた場所か?≫
気になってブネに尋ねたところ、ブネは≪いいや≫と首を横に振った。
≪恐らく、お前が行きたいと思った場所に出る筈だ。私がコウを送り込んだ際もそうなった≫
ブネはリュカの悲鳴を聞きここに駆け付けた時、助けようとしてこの穴に上半身を入れたそうだ。しかし既に穴の中にはリュカ達の姿は無く、更に彼自身も吸い込まれそうになり慌てて身を引いたのだが、その際、子供達の魂の気配だけは探る事が出来たらしい。コウを送り込んだ時にはライ達の魂の気配に集中しながら送り込み、無事にライ達の傍に落とす事が出来たのだという。
なるほど。しかし……
≪私は金竜の作りだした靄に入るとすぐにウララの気配を探ったが、彼女の気配は感じられなかったぞ≫
その代わりにいくつかの光を見た。適当にそれを掴んでみれば、ルランとジョージだったわけだが。
とりあえず穴の中に居た時は、はっきりと誰の気配だというのはわからなかった。
≪それは既にお前のウララが別の世界に飛ばされていたか、もしくはライ達は私の子供だからな、私と何かしらの繋がりがあるのかもしれない≫
ドラゴンの親には自分の子供の泣き声が頭に響くというから、それに似たようなモノがあるのかもしれない。
勝ち負けではないが、私とウララの繋がりが親子の繋がりより弱いと言われているような気がして、何だかもやもやした。一方でブネは悔いるような顔で溜息を吐いた。
≪こちらに開いたこの穴は私が駆け付ける数分の間は何もせずとも閉じずにいたのだ。コウが向こうの世界に落ちる際に開くであろう穴も同じく、すぐには閉じないと思った。だからコウを穴に送り込んだのだが……≫
その考えは正しく、コウが落ちる際に作った穴は暫く開いていたそうだ。そして穴が開いている間はブネも向こうの世界へ干渉できたという。しかし青竜によって大気がかき混ぜられて穴が閉じてしまい、コウまでも帰ってこれない事態になってしまった。
私があちらの世界に行くことで開く穴も、ウララと子供達を見つける前に閉じてしまう可能性がある。だが幸いにもこの世界には私の世界から連れてきたルランとジョージがいる。
アレらは私の加護を持つ者と勇者ゆえ、適当に扱っても死にはしない。
≪私が向こうの世界に行った後、頃合いを見てルランかジョージを向こうの世界に送ってくれ。その際にルラン達が開ける穴で子供達を送り返す≫
≪頼む≫
ブネが穴に手を入れたのを見て、私は穴の中へ身を投げた。
可能ならばウララの傍に行けるようにと願いながら。
しかしその直後にブネが叫んだ。
―――子供達の気配がする、と
そして……私が元の世界に戻った先に、ウララ達とそれを攻撃しようとしている炎がいたのだった。
■■■
「んん~?」
ベッドが揺れたような気がして、目が覚めた。
目をこすりながらきょろきょろと周りを見回すけど、特に変わったことはないみたい。
まだ暗いけど今日はお昼寝を沢山したから、あまり眠くないや。
枕元に何か玩具がないかなって手探りで探していると、むにっと柔らかいものが手に触れた。ママだ。
リュカはママの事が大好き!ママは声もしゃべり方も仕草も全部全部優しい。それにママのお胸に顔をうずめると、暖かくて柔らかくて凄く良い匂いがするの。
勿論、パパやお兄ちゃん達の事も好きだけど、一番はママなの。あ、二番目はレンちゃんが好き。
でもお家に居る時は、夜、ママはリュカが眠るまで傍に居てくれるけど、途中でリュカがおトイレに起きたらいつもいなくなってるの。
それで“リュカが眠った後にママは何処に行ってるの?”ってレンちゃんに訊いた事があるんだけど、そうしたら“お父さんが連れて行ってるんだよ”って教えてくれた。
何処に連れて行ってるの?って訊いたら、お父さん達のお部屋だよって言われた。
リュカもママと一緒に連れて行って欲しいから、お昼にパパにお願いした事もあったんだけど、ママ以外駄目って言われちゃったんだ……。
だから今はパパがいないから、ママはずっとリュカの傍にいてくれる。
凄く嬉しい。
嬉しいけど……パパがいないと寂しいなあ。これが大きいキララちゃんが言っていたジレンマってやつなのかな?
ジレンマを知って、リュカはまた一つお姉さんに近づいたよ。もうすぐ弟か妹が生まれるから、それまでにもっと凄いお姉さんにならなきゃいけないから、頑張ろう。
ガチャリ、と扉の開く音がした。
誰だろう?とすっとすっと足音がこっちに近づいてくる。
まだリュカは子供だから気配で誰かまではわからないけど、この気配は大好きな気配だから、変な人じゃないのはわかるよ。
じっとカーテンの方を見ていると、大きな手がカーテンを開けた。
「パパ……?」
暗くてよくお顔が見えないけど、パパだ。戻ってきたんだ!嬉しい!
でもリュカが話しかけても、今のパパにはママしか見えていないみたいで、リュカの方を見てくれない。
「うらら……!うらら……」
パパは眠っているママを抱きかかえると、ぎゅうっと抱きしめた。
「うらら、うらら……」
ママの名前を何度も呼んで、すりすりとママの頭に頬を擦り寄せている。
パパはリュカに頬擦りしてくれたことはない。ママはパパの特別だから、ママにだけするの。
「パパ。ママね、ずっと眠ってるの」
夢中になってママに頬擦りしているパパに教えてあげると、やっとパパはリュカを見てくれた。
「ずっと?」
「お昼からずっと」
「……おひる、から?」
パパは呆然とした様子だった。
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