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2人の男:(前半:レン視点、後半:ライ視点)

「レン、もう少しスピードを出せそうか?」

前を行くコウ兄ちゃんが声を掛けて来る。

僕は「大丈夫だよ!」と返事をした。


僕の後ろには変な気配のする炎が追いかけてきている。あれに追いつかれたらいけないことは、何となくわかる。車の中にはリュカとお姉ちゃんがいるんだから、余計に気を抜くわけにはいかない。


変な炎は攻撃も仕掛けて来るけど、それはライ兄ちゃんがブレスや羽ばたきで防いでくれる。

たまに薙ぎ払い損ねた炎の攻撃が馬車を焦がしてくるので、それは僕が防ぐ。

それにしても……

「ライ兄ちゃん、あの炎、さっきよりも大きくなってない?」

「……そうだな」


炎は大きくなるたびに、速さが増して攻撃も大きくなっている気がする。


と、そこにタタンっと軽やかな音を立てて、白狼が馬車の屋根に上って来た。

ナベリウスさんだ。


ナベリウスさんはしゃおしゃおと何か言っている。日本語じゃないから僕にはわからないけど、ナベリウスさんの言葉を聞いたコウ兄ちゃんの動きが変わった。行き先が決まったような、そんな飛び方になった。


「レン」


ライ兄ちゃんが僕に声を掛けてきた。

「あの大きな屋敷の方に行くぞ」

屋敷……少し遠くに堀に囲まれた大きな建物があるけど、あれのことかな。

「そこに行ったら、何かあるの?」

「レンはあの炎が大きくなってるって言ってただろ?あれは生き物の悪感情を糧にして大きくなるらしいんだ。それであの大きな屋敷には生き物の臭いが少ないってナベリウスさんが言ってるから、あそこに行ったらこれ以上炎は大きくならないと思う」

やっぱり大きくなってたんだ!

「そっか、わかったよ!あのお屋敷で僕らは戦うの?」

“いいや”とライ兄ちゃんは首を振った。

「僕らじゃなくて、ナベリウスさんが戦ってくれるらしい。僕らを追う元気が無くなるまで、あの炎の力を削いでくれるってさ」


話の途中に炎が散弾銃のように火の玉を吹いて来たけど、ライ兄ちゃんとナベリウスさんが防いでくれた。


「あの炎が追いかけてこなくなったら、レンに代わって僕が馬車を運ぶから。それまでもう少しだけ我慢してくれ」

「うん!」

僕は我慢だけは得意だ。馬車は重いけど、これよりもリュカのおままごとに朝から晩まで付き合う方がきついし。


それにナベリウスさんが来てくれたおかげで、馬車に炎が完全に届かなくなった。これで飛ぶことに集中できる。


大きな屋敷は、家族旅行で史跡巡りをしたときに見たお城に似ていた。

僕らは屋敷の中庭まで来ると、車を慎重に置いた。

ナベリウスさんは馬車の上から庭木に飛び移り、続けて屋敷の壁に向かってジャンプしてその壁も踏み台にし、屋根へと上がった。狼なのに、猫みたいだ。


物理反射と魔法反射の結界が張られた。お兄ちゃん達が張ったんだろう。僕も張らなきゃ―――


……そう思った瞬間、“ビシッ”とガラスに石が当たったような音がした。


あの炎、瓦を飛ばしてきた!


僕らに追いついて来た炎が屋敷の瓦を取り込み、それを火の弾丸に加工して撃ち込んできた。火の部分は魔法だけど、瓦の部分は物理攻撃。今の一撃でお兄ちゃん達の張った物理・魔法反射の結界にヒビが入っていた。


「一発でこれか。僕らの結界だと乱れ打ちされたら砕けるな」

「くっそ!ナベリウスさんの一件でわかってたけど、名のある精霊ってやっぱり滅茶苦茶強いのな!」

お兄ちゃん達は新しい結界を張るけど、炎の方も瓦を沢山取り込み始めた。きっと、さっきの火の弾丸を沢山飛ばしてくる気だろう。

僕も慌てて物理反射の結界を張ろうと集中する。


その間に炎が弾丸を数発撃ち込んできて、新しい結界に沢山のひびが入った。更に追加で弾丸が撃ち込まれ、遂に結界が壊れてしまった!

だけど、車に被弾する前にライ兄ちゃんが張った新しい結界が間に合い、それを防いでくれた。


「あの炎強いよ、ライ兄ちゃん、コウ兄ちゃん!」

コウ兄ちゃんは“ははっ”と笑う。

「アミーを叩くのをナベリウスさんに丸投げしたくせに、防ぐのも満足にできねえなんてな」

「僕達の結界でも一枚につき数発は保てる!張って張って張りまくるんだ!」

「それにしてもさあ……やけに俺らの方に攻撃がこねえ?」

結界を張るのにいっぱいいっぱいで口には出せなかったけど、コウ兄ちゃんの言葉に“それ、僕も思った!”と心の中で同意した。


ナベリウスさんは炎を翻弄するように立ち回っているのに、最初こそ炎はナベリウスさんに攻撃を向けていたけど、奴は次第に僕達に弾丸を撃ち込みだしたのだ。


また弾丸が来る!


「―――ガアアアア!!」


弾丸が僕らの結界に着弾する前に、ナベリウスさんが吠えた。

すると炎の弾丸は別の真っ赤な炎に包まれ、そして溶けて消えた。


「ナベリウスさんの魔力の気配だ。ナベリウスさんが火魔法で瓦を溶けさせたんだ」

「あ、ああ。そっか。あの人、火の魔法が使えるんだっけ。髪の毛燃やそうとしてたもんな」

「凄い……」


ナベリウスさんは力を溜め、そして変な気配の炎に飛びついた。ナベリウスさんの身体は炎に包まれるけど、その白い毛は焦げてすらいない。火の魔法を使うから、炎には耐性があるんだろう。

炎を纏った身体をぶるぶると振るい、炎を吹き飛ばす。


散りじりに吹き飛ばされた炎は、それでもまた一つの塊になる。しかし、その大きさは一段と小さくなっていた。


―――勝てる!


そう思った。

だけど、炎も簡単に消えるつもりはなかったのか、半開きになっていた扉から屋敷の中に入りこんだ。

「ど、どうするの?ライ兄ちゃん」


当初の“僕らを追う元気が無くなるまで、あの炎の力を削ぐ”という目標は達成した。

逃げるなら今のうちだろう。

ライ兄ちゃんが何かを言おうと口を開いた時、


“キャアアアア!!”


劈くような女の人の悲鳴が屋敷の中から複数聞こえてきた。

「な、何だ!?」


僕ら全員の視線が炎が入って行った扉を向くと、2つの人影が飛び出してきた。



■■■



『ど、ドラゴン!?』


飛び出してきた人間は、2人の男だった。

2人とも血の臭いを纏わせていて怪我をしているようだ。そのうち1人は意識もないのか、片方の男に抱えられていた。


まだ動ける方の男は一瞬絶望した顔をしたが、僕らが子供ドラゴンだとわかったのか、抱えていた相方を地面に寝かせ、刀を構えた。

『……何とか、血だけでも……』

男は威嚇するように此方を睨み付け、そして地面を蹴った。


『お主らには悪いが、その血をいただく!!』


彼は捨て身なのか、防御もせず、ただ目をぎらつかせてレンに向かっていった。僕達の中で一番小さなレンに狙いを付けたのだろう。

しかしその刃は結界に阻まれて届きはしない。

「ら、ライ兄ちゃん」

レンが戸惑ったような顔で僕を見る。刃は届かないが刃物を持った人間に襲われるという体験は、まだ小さなレンには酷だ。

『弟にそんな物を向けるな!』

男に向かって威嚇すると、男は腰が抜けたようにその場に座りこんだ。先程襲い掛かってきたのも、僅かに残った力を振り絞ってやった事だったのだろう。

そして崩れ落ちるように土下座をし、蚊の鳴くような声で懇願してきた。

『……お願い出来る立場ではないが、血を分けてほしい……』

『襲ってきたくせに、何言ってるんだ?』

怒りを滲ませた声でコウが言う。

『謝罪ならいくらでもする!私の命で贖えるなら、喜んで差し出します!だから血を……!お願いです、このままでは、我が主が死んでしまわれる!!』


我が主とは、地面で寝かされている男の事だろう。

どうしたら良いのかわからず、僕とコウとレンで顔を見合わせていると、ナベリウスさんの叱責が飛んできた。


『何をしている!そのような負の感情を持つ人間を放置するな!殺すならさっさと殺せ!』


僕達はぎょっとして、咄嗟に2人の男を結界の中に引きずり込んだ。

『べ、別に殺したいわけじゃないです!』

慌ててそう言うと、ナベリウスさんはふんっと鼻を鳴らした。

『まだアミーは消えたわけではない。油断をするな』

僕達にそう忠告すると、彼女はととんっと軽い身のこなしで馬車の屋根の上がった。

『奴は屋敷の中に在る人間どもの恐怖心を食らっているようだ。その隙に逃げるぞ』

『は、はい!』

先程女性の悲鳴も聞こえてきたし、屋敷の中に生き物の気配が少ないといっても、ゼロではないのだろう。


男2人はレンに任せ、僕とコウは車と馬車を持ち上げた。

『どこに向かって飛べばいいですか、ナベリウスさん』

『そうだな……とりあえず空高く逃げろ。出来るだけ奴の糧になる恐怖や怒りを抱く者が居ない場所に行くんだ』

『山や海でも人は少ないと思いますよ』

『恐怖を覚えるのは人だけではないだろう』

それもそうか。

『その後の行き先は……好きにしろ』

『『丸投げ!?』』


僕とコウは同時に声を上げた。


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