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炎:(前半:ライ視点・後半:カンベ視点)

「ああ、そう言えば―――」

テランさんが居るのに、アウロさんは日本語で話しだした。


「状態異常についてなんですが、もしかしたらドラゴンの涙で治るかも知れませんよ」

「涙ですか?」

「ええ」


“実は……、”とアウロさんは旅の途中で先輩達が妖精草で幻覚症状を発症した時の事を教えてくれた。


日本語だったのはテランさんにドラゴンの涙の話を聞かせるのは何かと都合が悪いと思ったのだろう。

確かに、治す方法がドラゴンの涙だと知られると、先輩達が目を覚ました時にテランさんからドラゴンの涙なんて何処で入手したのだと訊かれそうだ。


しかし涙か……。


「シグラさんでも泣く事ってあるんですね」

「見た事ないですか?案外涙もろい方ですよ。きっとライさんのお父さんも」

「……想像つかないです。父が泣いたところなんて、見たことないですし」

だってアイツは、絶対服従という本能を捻じ曲げ、番すら殺した程のめちゃくちゃな奴なのだ。


本当に、我が父ながら好き勝手やっていると思う。そんな奴が泣くような事は早々に無いだろう。


ふふふ、とアウロさんが苦笑した。僕は相当不機嫌そうな顔をしていたようだ。

何だか恥ずかしくて、一つ咳ばらいをした。


「ありがとうございますアウロさん。コウと一緒に涙を集めてみますね」


お礼を言って馬車から降りると、外ではまだコウが必死で結界を張っている最中だった。


……あ、でも物理反射の結界が一枚張られている。


「物理反射、張れたんだな」

「何とかなー……。でも檻の結界は無理っぽい。って、あれ?」

物理反射の結界一枚でげっそりとしていたコウは、僕の後ろを見て驚いたような表情になった。

どうしたんだろう、とコウの視線を辿って後ろを見ると、アウロさんがテランさんと共に馬車を降りて来ていた。


『アウロさん、起きたんスね』

テランさんがいるから、コウはフィルマ語で話しだした。

『はは、ご迷惑をおかけしたみたいで、すみません』

『アウロさんは子供ドラゴンの血で治ったんだ』

『あ、ドラゴンの血が有効なのか。じゃあウララ先輩の事も早く起こそうぜ』

『いや、血は与える量によって加護が付くかもしれないから、先輩には無理だ。アウロさんには既に名のある精霊の加護があったから、血を与えても平気だったんだよ』

『あー……、上手くいかないな』

歯痒い現状を聞かせて更に疲れさせてしまったようで、コウは大きく溜息を吐いた。


「ライさん」

アウロさんに名を呼ばれた。

「私とテランさんで魔法反射の結界を張っておきますから、コウさんに涙の事を説明してあげて下さい」

「あ、はい。すみません」


アウロさんはテランさんに向かってこくりと頷くと、2人の周りに光の粒子が舞いだした。


テランさんの腰には相変わらずリュカが引っ付いているのだが、その粒子を見て「更にきらきらしだした!」とリュカが騒いだ。


「リュカー、父さんや兄ちゃん達以外の男に引っ付くのはよろしくないぞー」

そんな事を言いながらコウは中腰になり、リュカと目線を合わせる。

「でも、テランちゃんの事、ママに見せてあげたいもん。だからこうして捕まえていなきゃ駄目でしょ?」

「良いのか?こんなキラキラした奴を母さんに見せたら、母さんがこのキラキラ兄ちゃんの事を好きになって、父さんをフるかもしれないぞー」

「?」

リュカは理解できないとばかりに首を傾げた。


「止せ、コウ。リュカに言って良い冗談じゃない。それより話がある」

コウの首根っこを掴み、引き摺るようにして車の方へ歩く。


「ちょい!こら放せライ。何だよー!」

「車に入れ。アウロさんから、加護を付けずに状態異常を治す方法を聞いたんだ」

「マジ?」

2人でバスコンに入り、先輩達が眠る寝室へ向かう。


寝室に続く階段にはレンが膝を抱えて座っていた。


「どうしたの?ライ兄ちゃん、コウ兄ちゃん」

「丁度良いから、レンも聞いてくれ。先輩を起こす方法なんだが、ドラゴンの涙らしいんだ」

「「涙?」」

コウとレンが同時に首を傾げた。


「前に先輩達は幻覚作用のある妖精草にやられた事があったらしい。それを治したのはシグラさんの涙だったそうだ。そして加護もつかなかった」

「えっ、そんな簡単な事でいいのか?だったら早速……」


案外安易な方法なのでホッとしたのだろう、コウとレンは表情を和らげて寝室の方に顔を向けた。

確かに血を出せと言われるよりは平和的だし気軽だが……しかし、これは思ったよりも容易い事ではない。何故なら……


「で、早速どうやって涙を流すつもりだ?」


僕がそう言うと、2人はぴたりと止まった。


「ちょっとした怪我をする、とかかな」

コウは少し考えた後、嫌そうな顔をしながらそう言った。


コウの言う通り、怪我をすれば痛みで涙が出てきそうだが、僕達は普通の人間より身体が頑丈なため、それこそ血が出るような怪我をする必要があるだろう。

「痛いのは駄目だよ」

「レンはやらなくて良い。俺らがやるから」

「だから駄目!痛い事しないでよ!」

「いやだからさ、」

「コウ、レンは僕らに痛い思いをしないでくれって言ってんだよ。それに、僕らが先輩を起こすために怪我をしたって事を先輩に知られたら、かなり気に病みそうじゃないか?」

アウロさんですら、僕に血を出させた事をかなり気にしている様子だったのだから、先輩ならもっと酷い事になりそうだ。


「じゃあ、タマネギ、みじん切りしてみるか?」

「コウはそれで涙出た事ある?」

「……ない」

毒すらも無害にするこの身体には、タマネギの成分くらいでは太刀打ちできない。


レンが“はいはい!”と手を上げた。

「欠伸!欠伸を出したら、涙出てくるよ!」

「欠伸は泣くと言うよりも、涙が滲む程度だからな。その涙量では足りないよ」

「……むむ」

それにシグラさんは涙一滴で済んだが、僕らだともっと必要になる気がするし。


「感動系アニメ、見るか?」

「それしかないか……」

幸い、この車にはアニメや映画やドラマのDVDが大量に積んである。探せば感動系もある筈だ。


……泣けるかなあ……

本当、3秒で泣ける女優や子役は本当に凄いなと思う。


「俺、感動系は苦手なんだよな。……寝るかも」

「眠くなったら、欠伸連発して涙を稼げばいいよ」


こうして僕らの苦行は始まったのだった。



■■■



カエデ様の言いつけ通り自室で休んでいた私の元に、1人の女がやって来た。

この女は私の子飼いで、今はカエデ様付きの侍女として潜り込ませている。


女は文机の傍にある、火を灯した行灯を見て『火を灯すには早い時間帯ではないですか?』と少し不審げに言った。


『……それで?お主が此処に来たと言う事は、カエデ様が動いたのか』

『はい。主様はシノビのエルフを呼び、解毒剤を用意させています』

『解毒剤?何故?』


解毒剤など必要はない。

ゴーアン家の若造さえ退けれる事が出来れば、末裔様方は我らの手の中なのだ。

今すぐカエデ様の御前に行き、進言しなければ。


勢いのまま立ち上がり、部屋の外へ行こうとしたが……

『何をしている!触るな!』

『きゃっ!』

行灯の火を消そうとした女の手を思いきり叩いた。


『も、申し訳ありません。火の始末をせねば火事になると思い……』

『その火は魔法の火よ。放っておいても火事にはならぬ!』

『申し訳ありませんでした』


震えながらその場に平伏する女を更に叱責しようと思ったが、今はそれどころでは無かったと我に返る。

そして舌打ちを一つすると、女を立たせて部屋から追い出した。


『またあの行灯に触れば、次はお主の手を切り落とす』

『はい。申し訳ありませんでした、カンベ様』

『もう良い。さっさと消えろ』


いくら謝っても私の怒りがすぐに治まる事は無いと感じ取った女は無言で一礼すると、急いでその場から立ち去って行った。空気だけは読めるらしい。


では、カエデ様の元へ行くとしようか。


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