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失態:(前半・カエデ視点:後半・ライ視点)

『申し訳ありませんでした』


カンベは屋敷に戻るとすぐに私の元へきて頭を下げた。

奴の纏う雰囲気で、厄介な事が起きたのだと察し、文机にペンを置いた。


『末裔達とはどの程度話せたんだ』

当初は私が末裔達の元へ出向き、事情を聴くつもりだった。しかし上に立つ者が気軽にその様な事をするべきではないとカンベに説得され、ならばと私はカンベに私の代わりに末裔達と話して来いと命じたのだ。


カンベは頭を下げたまま、何も答えない。


『どうした?対話を拒否されたのか?』

『……』

尚も頭を下げたまま、だんまりなカンベに『カンベ叔父上』と少しきつめの調子で名を呼んだ。

すると漸くカンベは『ご報告します』と話しだした。


しかし、その報告は何とも愚かな行動の告白だった。


『私はカエデ様の御前に末裔様方を連れて来れば、話し合いと保護を同時に行えると考えました。しかし末裔様方は結界を張って抵抗の意志がありましたので、ならば末裔様方を眠らせれば穏便に事が運ぶのではないかと判断しました。まさか名のある精霊アスタロトの毒……あ、いいえ、薬が効かない者がいるとは思わず……抵抗され、追い返されてしまいました』


思わず文机にあった紙を握りつぶしてしまう。


『カンベ!!』

『申し訳ありません!』

カンベはその場に膝を付き、土下座した。

『私は無理やり連れて来いなどと言った覚えはないぞ!』

『申し訳ありません!』

『それに、アスタロトの毒と言う事は、私に無断でシノビを使ったのか!』

『申し訳ありません!』


ニホン公爵家には“シノビ”と呼ばれる特殊部隊がある。それは諜報活動や暗殺までを一手に受け持つ、いわば公爵家の暗部組織だ。それを私に無断で使うとは……!

現役のシノビのメンバーは現在100余名。それらは“玉組”“飛車組”“角行組”“金将組”“銀将組”“桂馬組”“香車組”“歩兵組”という8組で分けられている。私がシマネに来るにあたり、父上が銀将組を貸して下さったのだが、そのメンバーの中には毒に精通する名のある精霊・アスタロトの加護を持つエルフがいた。カンベはそのエルフに睡眠薬を精製してもらったのだろう。


『有無も言わさずに行動不能にさせ、此方の意のままにしようなど、完全なる敵対行為だ。ゴーアン家とガビ家から丁重に扱ってくれと言われているのに、何たる愚行!』


ゴーアン家とガビ家の名を出すと、更にカンベは畳に額を擦り付けた。

嫌な予感がし『どうかしたのか?』と訊ねると……。


『……末裔様方の結界を攻撃している所をゴーアン家の者に目撃されました』

『何をしているのだ、お前は』


カンベは私の叔父であり、教育係でもあった。なので、少々のことならば彼の独断行動は黙認してきた。しかし、今回の事は流石に黙認出来ない。


カンベは賢く頭の回転が速いために自分の考えに自信を持つタイプだ。その為、上の指示を仰ぐ前に動いてしまい、それが倦厭されて出世コースから外されたクチだ。この悪癖さえなければ、私などの教育係などではなく、兄上、もしくは父上の補佐役になっていただろう。いや、前公爵の三男として有力な貴族の婿養子に入っていたかもしれない。それ程の男なのだ。


とは言え、流石にこのような強硬手段を独断で行うような人間ではなかった筈だ。

もしかしたら、私が跡取り候補から外された事で焦っているのかもしれない。


『叔父上は少々疲れておいでのようだ。今日はもう部屋に下がってゆっくりと休んでいてくれ』

『カエデ様!』

『下がれ!』


きつめに命じれば、カンベは口を閉じてすごすごと部屋から出て行ってくれた。

私は一つ溜息を吐くと、くしゃくしゃになった書類を手で伸ばしながら『おい』と声を掛けた。するとすぐに私の斜め後ろの天井から音も無く、男が降り立った。男はマツリと言う名で、銀将組を束ねる人物だ。


『確認したい事がある。睡眠薬を用意したエルフを呼んでくれ』

『はっ』


エルフに解毒薬を用意させ、改めて末裔達の元へ私が出向くとしよう。



■■■



『テランさん、お願いします』

『わかりました』


再度テランさんにアウロさんを半覚醒状態にしてもらうと、僕は細心の注意を払って、アウロさんの口の中に一滴一滴慎重に血を垂らしていった。僕の血なので大量摂取したところで加護問題は無いとは思うが、用心に越したことはない。そして10滴ほど血を垂らした時、アウロさんの瞼がぴくぴくっと動いた。


「……ん、あれ?」


起きた!


「アウロさん!」

「ん?ライさん、どうしたんです?」

寝起きで瞼が重い様子のアウロさんは目をぱちくりさせ、そして僕の隣にいるテランさんを見てびくりと肩を震わせた。


「え、あ。えっと……どなたですか?」

「テランちゃんだよ!王子様の弟だよ」


アウロさんの問いに答えたのは、テランさんの腰に抱きついているリュカだった。

リュカはテランさんに挨拶した後から、ずっとこうして引っ付いている。

リュカ曰く「キラキラしているテランちゃんをママにも見せてあげたいから、逃げないように捕まえてるの」だそうだ。格好いいから引っ付いているのではないのか、と思わずツッコんだが、リュカは不思議そうに「格好良い?」と首を傾げていた。どうやらリュカの中ではテランさんは格好良い枠には入らないらしい。……まあ、テランさんは見た目が美少女だからなあ。

それにしても、テランさんがリュカの行動を『構いませんよ』と笑って許してくれる良い人で本当に良かった。


「テランさんはルランさんの弟さんだそうです」

リュカが言った“王子様の弟”では分りにくいだろうと思い、僕の方で言い直すと、アウロさんはまた目をぱちくりさせた。

「おや、ルランさんの?そう言えば、目元が似ているかも……」

そう呟いた後、アウロさんはテランさんに笑いかけ『私は精霊ロノウェの守護する地から来たアウロと申します』と簡単に自己紹介をした。


するとそれに応えるようにテランさんは胸に手を当てて軽くお辞儀をした。

『私は精霊ブネを祀る教会の聖騎士、テラン・ゴーアンラ・ゴーアンと申します。兄の事をご存知でしたら、ゴーアン侯爵家三男と言った方が分りやすいかもしれませんね』


『ご丁寧にどうもありがとうございます。お兄さんのルランさんにはとてもお世話になっております。テランさんは精霊ブネの聖騎士なんですね』

『はい。なので、此処にシグラ様がいらっしゃると聞いて来たのですが……』

アウロさんは“おや”という顔をした。

『テランさんはシグラさんの正体をご存知なのですね』

アウロさんの目が僕の方に向いたので、慌てて“僕が話したんじゃないですよ”と首を振った。


そんな僕らのやり取りを見たテランさんは『シグラ様の事は私の二人の兄からそれとなく聞いております』と釈明してくれた。そして少し心配そうな表情になり、彼は言葉を続けた。


『あの、それでアウロ殿、何処か不調な所はありませんか?加護の方は精霊ロノウェの加護のままでしょうか?』

『え?ええ……そう言えば、何だか血の味がしますね。加護はロノウェ様のものですが、それが何か?』

『貴方は強力な眠り薬によって眠らされていたのです。私の癒しの力では対処しきれず、子供ドラゴンの血を10滴、飲んでいただきました』

『眠り薬?何でまた』

『恐らくカンベや自警団達の仕業です。実は……』

僕は先輩達も眠り薬の餌食となって今も眠っている事、そして自警団の連中が皆が眠っている隙に結界を壊して皆を連れ去ろうとした事を説明した。


『それはまた大変でしたね。ライさん達は怪我はされなかったんですか?』

『大丈夫です。もう駄目だと思った時にテランさんが来てくれましたし』

『そうですか、それは良かった。しかし、私を助けてくれた子供ドラゴンの血は……』

申し訳なさそうな顔をするアウロさんの目の前で、僕はふるふると頭を振った。

まだテランさんには僕達がドラゴンだと言う事を伝えていないので、それ以上は言って欲しくないのだ。

その思いは正しくアウロさんに伝わったようで、彼はこくりと頷いてくれた。


コメントありがとうございますー(´;∇;`)

嬉しすぎて、心臓止まるかと思いました!

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