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本能:シグラ視点

残酷な描写があります

大抵の種族は力の強い者ほど雌に愛されると言うが、我ら竜種はその逆を行く。

そもそも竜族は長寿ゆえに子孫を残すことなど稀なのだ。子孫を残すと言う事は自分とつがいの力を掛け合わせた、新たな強い個体を作るという作業であり、弱者の行為にすぎない。

つまり、強い個体にそれは意味を成さない。自分より強い個体が生まれればそれと番になり、自分やその番よりも強い個体を作りだすだけだった。


求愛行動を耐えきった雌は必然的に雄よりも強い。ゆえにこの求愛行動の先にあるのは雄が雌に隷属する事を意味する。


そのようなことを私の生みの親に聞かされたのはもうはるか昔の事。


待てども待てども私より強い個体は生まれてこない。

いや…過去、一度私と匹敵する力を持つ者が現れた事があったが、奴は私と同じ『雄』であったため、放っておいた事があったか。


住処で寝ているとたまに人族が湧いて出るが、その脆弱な柔らかい体はブレスの一息で消え去る。


ああ、また湧いて出た。


弱いくせに何度も来る。しかも威勢が良いのは最初だけで、私と目があっただけですぐに怯えて逃げ出す。

何故来るのかと不思議に思って訊ねたことがあったが『勇者の資格』だとか『不老不死の素材』だとか下らない事を言っていた。


人間と言えば過去に、弱きドラゴンが人族の娘を嫁に娶ったと聞いたことがある。

弱きドラゴンとはいえ、たかが人族の雌一匹如きに力負けする筈もないのだが…。


そう思っていた私にも漸く番が出来た。……皮肉な事に人族の雌だ。

幾度かの攻防の後、ようやく時空の概念を出し抜いた時の事。異世界で初めて遭った銀色の物体に雌の気配を感じたため、この世界の生き物の強さを計ろうと求愛をしたのだ。

―――――銀色の物体は乗り物で、中に人族の雌がいるとは思わなかったが。


時空の概念の介入があったとはいえ、ドラゴンの本能が求愛行動を乗り越えた彼女を番と認識してしまった。

妻なのに私よりも確実に脆い存在。弱き存在に隷属など、本能と自尊心が反発しあうかもしれないと思ったのだが…彼女に傲慢な態度をされないからか、今のところさほど問題にはなっていない。


それにしてもまこと、困ったことに私の番は何処もかしこも柔らかい。身体も、匂いも、表情も、性格も、命すらも何もかも。幾重にも結界を張らなければ、転んだだけで崩れ去ってしまいそうだ。守らないといけない。



■■■



竜族は番の傍に居る時が一番心が安らかになれる。私もそれに違わず、番のウララの傍でそれを享受していた時だった。

『湖にお貴族様の豪華な馬車が停泊している』

そんな人族の声が聞こえてきた。此方に危害を加えようとする汚い気配の数は23。

早急に息の根を止めても良いが、私の番は血を見るだけで取り乱し、気を失うのだ。彼女に残酷なモノを見せるわけにはいかぬ。

雄の一人が此方に来る。汚い雄をウララに見せたくなかったので彼女を背中に隠す。

後は適当に殺気で散らすか、と構えた瞬間聞こえてきた。


『女が3人いるぞ。小せえ方はそのまんま売って大きい女は俺達で暫く楽しめるな』

『あ~、一月ぶりの女だ!やべえ、売りもんなのにやり過ぎて壊しちまうかもしれねえ!』


それは茂みの方向に在った気配が発した言葉。

殺そう。

私の結界があるうちは、決してウララに雄どもの手が届くことは無いが、私の番に対してそのようなことを考えただけでも万死に値する。

ウララに「待っていてくれ」と伝えると、すぐさまその気配の元へと向かい、言葉を発した雄2人の首をへし折る。この場には他に3人の雄がいた。一瞬の事で呆然としていた雄共も同様にしてやろうと目を向けたが、背後でウララの前にいた雄の笑い声が聞こえてきて、意識を其方に向けた。


『女を置いて逃げるたあ、情けねえ男だ。まあ怖がりさんな、ワシら紳士だからよ、嬢ちゃん別嬪だし全員で優しくしてやるからよお!』


咄嗟に首をへし折った雄を、ウララを追いかける雄に投げつけていた。


投げた瞬間、失敗したと思った。

私としたことが、ウララに嫌なものを見せてしまった!

舌打ちすると、その場にいた雄たちに追撃は加えずに彼女の元へ向かった。


「シグラ!」

青い顔をしたウララの目は涙で潤んでいた。

大切な番の傷ついた顔に、胸が痛む。不甲斐無い…!

もうこの原因を作った者どもに手心を加えれそうにない。


居住空間にウララ達を入れ、扉を閉めさせる。

それから今張っている結界の上から、防視、防音の結界を追加で張り、そして木や湖が干上がればウララが驚くだろうから、それらにはブレス用の結界を張る。


『貴様ら、魂すら残ると思うな』


人の形をしている今出せる最大限の火力を籠め、ブレスで辺りを薙ぎ払う。

青味の掛かった白色の炎が輝き、目標物は一瞬にして消え去った。

煙すら出ない。


ああ、少しは憂さ晴らしができた。そう思っていると、小うるさい時空の概念が私の前に現れた。

『加減を覚えて下さい。また時空に穴が開きます』

『それは悪かったな。だが、脆いのが悪いのだ』

『……この世界が崩壊しかねません。貴方にとってはどうでも良い事かもしれませんが、ウララさんは悲しみます』

くっ、番を出されると竜族の雄は弱い。

『……今度から気を付けよう』

『そうして下さい』

番に頭が上がらなくなるドラゴンの本能とは厄介なものだ。


「ん…?」

血の匂いがするかと思ったら、鼻血が出ていた。

この程度の力で悲鳴をあげるとは、人間の身体は本当に柔いな。



まだ愛を知らないドラゴンの話。

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