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救援:ライ視点

「ヤバい、ヤバい!!ライ、結界ヤバい!」

「こ、怖っ!!何だあの人達!」

魔法反射と物理反射の結界で虹色武器の攻撃を弾く事は出来た。出来たのだが、ナベリウスさんの色仕掛けが効きすぎたのか、自警団の連中は狂戦士化してしまったらしく、攻撃が苛烈になっていた。

しかも連中は口々に下品な言葉を吐き出し、気色悪い笑みを浮かべている。それらは聞くに堪えないモノであり、視覚の暴力であった。

……正直、ナベリウスさん以外の女性達が全員寝ていて本当に良かったと思う。


それに比べて僕達は、ナベリウスさんのせいで動揺してしまっているようで、防音の結界ですら上手く張れない状態になっていた。

あんな攻撃を相手に、僕達の張る結界はそこまで長くもたないだろう。早く新規の結界を張らなければならないのだが、全然形にならない!


「くそっ!いざとなったら、俺はウララ先輩とキララちゃんを背負って逃げるから、ライはロナちゃんとアウロさん頼む!」

「リュカとククルアさんは?」

「リュカはレンに任せる。ククルアはナベリウスさんに任せよう!」


本当は車ごと持って逃げれば良いんだけど、多分人間に擬態したままでは、僕らでは持ち運べないだろう。


僕はアウロさんとロナさんの元へ行くために車から降りる。

フガーフガー!!と鼻息荒く、口の端から泡を飛ばしながら大槌や十手で僕らの結界を殴りつける男達に思わず身体が委縮した。

「気持ち悪……」

興奮する男達よりも青竜の方が何倍も恐ろしかった筈だが、何と言うか、恐ろしさのベクトルが違うというか……。


バリン!!


「!」


―――魔法反射の結界が割れた!


虹色の武器が帯びる魔法の力が物理反射の結界にも直接伝わり始めたので、こちらの結界が割れるのも時間の問題だろう。


全く!ここは日本出身者が作った街なんだろう?どうしてこんなに友好的じゃないんだ!


とにかく馬車に急がないと、と一生懸命に足を動かした―――その時。


『ぎゃあああ!!』


男達の野太い悲鳴が聞こえてきた。何事だと思いすぐに悲鳴があった方に目を開けると、結界を取り囲んでいた男達がその場に尻もちをつき、更に数名は旋風に吹き飛ばされているのが見えた。


『あれは、風の魔法?』


ヒビは入っているがまだ檻の結界が機能しているので、此方には風魔法の影響はない。

やがて風は治まり、1人の白い鎧を着た人間が此方に近寄ってきた。鎧の兜からは緩く三つ編みにしたこげ茶色の髪がはみ出し、その体つきもほっそりとしていて、見た目は女性のようだが気配からして男性だろう。


そして、彼が身に付ける白い鎧には見覚えがあった。

幼い頃、ブネルラでよく僕とコウの遊び相手になってくれていた老騎士達が身に付けていた鎧と同じだ。


彼は車を庇うように立ち、自警団の連中に向けて腰の剣を抜いた。

『くれぐれも失礼のないようにお願いすると言った筈だが?』

声も男性にしては少し高い。


『……貴殿は?その白い鎧は聖騎士だとお見受けするが』

カンベの声がしたのでそちらを向くと、彼は宿屋の壁を背にして立っていた。車から少し離れた位置だったので、旋風の餌食にはならなかったのだろう。


『私は精霊ブネを祀る教会の聖騎士、テラン・ゴーアンラ・ゴーアンだ』

カンベは目を見開いて『ゴーアン侯爵家……!』と呟いた。


『今度は此方の問いに答えて貰おうか。何故この方々を取り囲み、危害を加えようとしたのだ!』

『危害を加えようとしたわけではありません!保護をするつもりだったのです』

彼……テランさんの目が旋風によって無力化された自警団連中に向く。そして地面に散らばった虹色の武器を視界に入れ、もう一度カンベを見た。

『結界を壊そうとするなんて、穏やかではない。これで危害を加えるつもりは無かった、というのは些か無理があるだろう』

『くっ……』

二の句が継げなくなったカンベは押し黙った。


『ゴーアン家の一員として、彼らの保護なら私が受け持つ。貴殿らは退かれよ』

畳みかけるようにしてテランさんが言うが、カンベはテランさんのペースには流されずに首を横に振った。

『いいえ、ここはニホン公爵領です。我らが保護をするのが道理でしょう』

『彼らの身分証は我がゴーアン家が発行している。つまりゴーアン家の民である。それを助けるのはゴーアン家の役目だ』

『しかし』

『貴殿がそこまで彼らに拘るのには、何か理由があるのか?』

『……』


テランさんとカンベは睨みあっていたが、やがて折れたのはカンベの方だった。


『主を待たせているゆえ、一旦失礼します』

『その辺りに転がっている者達も全員連れて行ってくれ』

『承知しました』


先程まで変に興奮していた自警団の連中も、風に吹かれた事で頭が冷えたのか、それとも貴族家の者が現れた事で我に返ったのか、すっかり大人しくなっていた。カンベが退却の指示を出すと、少々後ろ髪を引かれつつも、全員この場から立ち去って行った。


カンベ達の姿が見えなくなると……。


『はあああー……!』

テランさんは大きく息を吐き、その場に膝をついた。そして兜を脱ぎ捨てて口元に手を当てた。

『だ、大丈夫ですか?』

結界越しに声を掛けると、彼はこちらに顔を向けた。その顔は美少女のような端正な顔だった。その綺麗な顔を真っ青にして……よく見れば震えているようだった。


『すみません、私はああいうのは慣れてなくて』

『ああ、わかります。気持ち悪かったですもんね、あの人達』

ナベリウスさんがとんでもない色仕掛けしたせいだけど、と心の中で付け加える。


『……というより、暴力全般がちょっと苦手で……ううっ』

そう言うと、テランさんは口元に手を当ててまた下を向いてしまった。


『人に向けて攻撃魔法を使ったのなんて、初めてなんです……』



■■■



テランさんの事を紹介する為に、車の中にいたコウとナベリウスさんとククルアさんを呼んだ。レンも呼んだのだが、あの子は先輩から離れたく無いようで、「嫌だ!」と断られてしまった。


『私はゴーアン侯爵家三男のテラン・ゴーアンラ・ゴーアンと申します』

テランさんは胸に手を当てて、僕達の前で綺麗なお辞儀をした。


『ゴーアン家って確か、味方なんだよな?ウララ先輩やアウロさんが頼りにしてたし』

コウの言葉に、テランさんはぱああっと顔を明るくする。

『ウララ様とは、奥様の事ですよね?光栄です。あの、ルランという名はご存知ありませんか?私の二番目の兄なのですが、シグラ様の加護を頂いているのです』

『すみません、僕達は最近合流したから、テランさんのお兄さんとはお会いした事はないと思います』

『あの、僕はゴーアン殿と面識があります。あ……僕はサラック男爵の甥で、ククルア・サラックラ・サラックと申します』

ククルアさんの自己紹介を聞いて、テランさんは一瞬だけ間を置いたが、すぐににこっと笑顔を作った。


『ククルア殿、とお呼びしても?』

『はい。えっと……』

『私の事はお好きにどうぞ。ああ、しかし家名だと兄と区別が付かないかもしれませんね。では、よろしければテランとお呼び下さい』

『はい、ありがとうございます。テラン殿』


テランさんはククルアさんと一通り挨拶を交わした後『それで……』と首を傾げた。


『あの、シグラ様は何処にいらっしゃるんでしょうか?私は長兄から此方にシグラ様がいらっしゃると聞いて来たのですが……。シグラ様や奥様には初めてお会いするので、ちょっと緊張します……』


「「あー……」」

僕はコウと顔を見合わせた。

どう言ったら良いものか。


『それより結界を解くので、中に入ってきて下さい』

テランさんは信用しても大丈夫な人だと僕達は判断した。

気配を探り、自警団らしき者は近くに居ないと確認してから、結界を解いた。


『コウ、檻の結界、今なら張れそうか?』

『そうだなー……。さっきのショックは結構抜けてきてるから、ちょっと頑張ってみるわ。あ、ナベリウスさん、髪の毛抜かなくて良いからね』


新規の結界の事はコウに任せ、テランさんを連れて馬車の傍に行く。彼の事は信用するが、先輩達とは初対面のようなので、地球産の車に連れて入るのは先輩達の判断を仰いだ方が良いと思ったからだ。


『事情があって今、シグラさんは此処にはいないんです』

『そうなんですか?あの、では奥様も?』

『いいえ、先輩……ウララさんはいます。いますが、ちょっと外に出られない状態でして』

『どうかなさったんですか?』


馬車の前方の扉を開け、テランを招き入れた。

馬車の居住スペース部分にはロフトがあり、その下にカウチソファが置いてある。ロフト部分にはロナさんが眠っていて、カウチソファにはアウロさんが横になっていた。

『あの……?』

テランさんが戸惑ったような声を出した。

『起きないんです』

『え?』

『先程のニホン公爵家の人間の仕業だと思うんですが、一部の仲間達が眠ったまま起きないんです。ウララさんも、前方のえーと……荷馬車?に寝かせています』


テランさんは目を見開くと、アウロさんの前にしゃがみ込み、彼を触診しだした。


『彼らが眠る前に何か兆候はありましたか?』

『ナベリウスさんが、変な臭いがすると言っていました。でも、その臭いは僕達には全くわかりませんでした』

『そうですか』


彼がアウロさんの顔部分に手をかざすと、手の部分がぽおっと淡く光った。

『何をされているんですか?』

『癒しの精霊に力を借りています』


“……これだけでは駄目みたいですね”などとぶつぶつと言いながら、今度は緑色の淡い光を出した。


すると、アウロさんの目が少し開いた。


『起きた!』

『いいえ、まだです』


アウロさんはぼんやりとしながら、上半身を起こす。そんな彼の顔の前でテランさんは手を振る。しかし、アウロさんは何も反応を返さなかった。


『寝惚けた状態です。私の魔法で完全に状態異常が解けないとなれば、恐らく薬か毒に精通している名のある精霊の仕業、あるいはその精霊の加護を持つエルフの仕業でしょう』

『あの、結局原因って何だったんですか?』

『毒です。それもかなり高等なものです』


毒……なら、もしかしたら!


『ドラゴンの血を飲ませれば治せますか?』


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