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山賊

午後―――――


モノ作りが好きなロナは無心で木を彫っていた。

道具は使いやすいように改造したとはいえ、ペグハンマーと薪を作る用の小さな鋸と鉈くらいしかないので、今回は馬の形に木を削ることしか出来ない。しかも作り物の馬なんてすぐに見破られるだろうから、その馬の彫刻に馬衣を着せてあたかも馬がいるように見せ、更にシーツやタオルを繋ぎ合わせて幌を作って車体に被せると言う苦肉の策をとることにした。

ロナが馬の形に木を削っていく音を聞きつつ私はアウトドアチェアに座って、シーツだった布にチクチクと針を刺していく。

「ふー…普段してない作業って結構疲れるなあー…」

とんとん、と肩を叩く。


シーツの替えももう無いし、村に行ったら布を沢山買った方が良いね。

ちゃんとした大工道具も欲しいし…食料も。

あとは服。私の足元に座って雑誌を読んでいるシグラの旋毛を見ながら、彼はどんな服が似合うだろうと想像する。

夕陽色の長髪を一つの三つ編みに結って垂らすシャツは、白か黒か。翼を出すのが前提なら、ちょと改良してあげないと。

スラックスは黒かな。男性ものの服っていまいちわからないけど。

私が勤めていた観光バス会社のおじ様で、ストライプ柄のベスト格好良かった方が居たなあ。でもベストはネクタイがないと魅力半減しちゃうかな?

この世界の…というより、このフィルマ王国にネクタイってあるのかな。


「私は釣り人になるべくして生まれてきた逸材かもしれない」

満更でもない顔でバケツを持ったキララが此方に寄ってくる。

食材確保に今日も釣りをしてくれていたけど、バケツから大きな魚の尾びれがはみ出している。

「ありがとう、キララ。夕飯は煮魚にでもするよ」

「煮魚だったら白飯が食いたくなるなあ。まだ米は大丈夫か?」

「今日の分くらいなら大丈夫だよ。明日から暫くはパスタ生活になるけど」

シグラとロナの食べる量が多いからなあ。


ぷつん、と糸を切って針箱に針を仕舞うと、馬衣に加工したシーツをバサバサと振るう。

「こんな感じでいいかな?」

「さあな。まあいいんじゃないか?要はハリボテの馬を適当に隠せれば良いんだから…ん?」

「あれ?どうしたの、シグラ」

いつの間にか立っていたシグラが、私を背に隠すように動く。彼の目の先は、湖の対岸。距離にして20メートルくらいだろうか。

意味が解らずに私とキララが顔を見合わせていると、暫くしてガサガサと対岸側の森に人影が現れる。


ボサボサの茶髪にターバンを巻き、目つきが悪そうな30代くらいの男だ。肌は浅黒く、戦い慣れした体つきをしている。

弓を持っていて、腰には短剣が差してある。

「……山賊?」

ぽつりとキララが零す。うん、私も第一印象それだった。

「どうしよう、危ない人かな…」

心臓がバクバクと打ち始める。


男はニヤつきながら此方に近寄ってきて、ロナと同じような「しゃおうしゃおう」という言葉を発している。

アウロがいれば通訳してくれただろうが、今彼は大事を取ってバスコンで休んでいる。

「パルちゃん、彼は何を言ってるの?」

言うとすぐに目の前のシグラの背中からにょんっとパルが現れたので、少し驚き、そして知らず知らずのうちに自分が彼の大きな背中に縋りついていた事に気が付いて手を放した。

「ごめん、シグラ…」


「ふっは!!しゃおおう!」

ターバンの男がいきなり笑いだし、語気を荒げて何かを要求しているような雰囲気になる。

「パルが現れてからあいつのテンションが変わったな」

キララも警戒しているのか、私の服を握りながらターバンの男を見ている。


「それでパルちゃん、彼は何て言ってるの?」

『お貴族様、お助け下さい。ペリュトンの群れに襲われて怪我人が出ているんです、と言っています』

「お貴族様?私達の事?」

「このキャンピングカー、やっぱり外見からして珍しい物なんだろうな」

キララは顔を顰めながら「でも、」と続ける。

「助けてくれって言ってる割には余裕そうだし…顔もニヤけてないか?」

確かにアウロのような悲壮感は皆無だと思う。

でもどうしよう、と迷う。単に人相が悪いだけの善人の可能性だってある。だったら助けてあげたい。

ちらりとシグラの横顔を見ると、思わず息を飲んだ。

彼は今までに見たことのないような険しい顔をしていたからだ。

「シグラ、どうしたの?」

声をかけると彼は弾かれたようにこちらを見て、そして逡巡し……


「すこし、まってて、うらら」


そう言った瞬間、彼は目の前のターバンの男から視線を外し、別の方向に駆け出して森の茂みに飛び込んでいってしまった。

彼の様子からして何かあったのだろうが、どうしたのだろう、と彼が飛び込んで行ってしまった方向を見つめていると、品の無い笑いがまた聞こえてきた。


何かを言いながらターバンの男はいやらしく笑いながら腰にさしていた短剣を持ち、私達を値踏みするような目で見ている。


言葉がわからないけど、この人やっぱり本物の山賊で、私達の事を売り払おうとしてる…?


この場に居る唯一の男だったシグラが居なくなったので、本性を現したのか。

男が浮かべる醜悪な表情に、私の体が凍り付く。

ああ…、なんて気持ち悪くて怖い目をするんだろう。こんな邪な目に子供たちを晒してはいけない!

そうは思うが委縮してしまっていて体が思うように動かない。

「き、らら!ロナちゃんを連れてバスコンに!パルちゃん、キララとロナちゃんをバスコンに誘導して…!」

「ふっは!ふっは!」

私が悲鳴のような声を上げたからか、男は調子付き獲物を追うように駆け出してくる!

「ひっ!」


「しゃおおおああお―――――ぐぎゃッ!!」


何かの言葉を叫びながら襲いかかってくる男。だがすぐにその横っ面に何かの塊がぶつかり、カウンターを喰らったように吹っ飛んだ。

ぶつかった塊は人間の男のようだった。


次いで聞こえてきたのはウウウウウウ…と低い唸り声。シグラの声だ。


「シグラ!」

名を呼ぶと、彼はすぐに私の元に駆け寄ってきてくれる。

「ごめん」

「え?」

何が、と訊く前にシグラは固まっていた私を抱き上げてバスコンに押し込んだ。

「すこし、まってて」

先程と同じ言葉。

ああ、あの山賊の仲間はまだ大勢いて、シグラはそれを追い払うつもりなんだ。

そう思ったので、大人しくシグラの言葉に従い、子供たちと共にダイネットのシートに座った。

「姉、大丈夫か?」

「……え?ああ、ごめん。なんでもないよ」

自分が小刻みに震えているのをキララに指摘されて気づく。

シグラがいてくれるから大丈夫だと思う。でも、やはり怖いモノは怖い。あんなにいやらしい視線や悪意、今までぶつけられたことがなかったから…。

私の様子を見て幼いロナはきょとんとしているし、キララさえ私に気を使ってくれている。

駄目、こんなんじゃ駄目。何かをして気を紛らわさないと…。


「温かいお茶でも淹れるね」

「……そうだな」



それからシグラが戻ってきたのは数分後のことだった。

恐る恐る外を見てみたけど、もうそこには何も無かった。


本日もう一本アップします。

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