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ブネ:シグラ視点

「後ろにいる無駄にキラキラした奴らはブネの連れか?」


キララは髪を掻き上げながら、早足で私の前に来た。彼女の身長はウララよりも高く、我々が知っているキララの姿とは余りにもかけ離れていたので、覚悟していた筈の私もルランも少し戸惑ってしまった。


「お前らはブネの友達なのか?」

キララは腕組をし、ルランとジョージの方を睨んだ。

「身重の嫁がいて、更にまだ手の掛かる子供が4人もいる男を連れ回すのは非常識だぞ。そしてブネ」

今度は私を睨む。

「嫁を閉じ込めて自分だけ遊ぶとは良い度胸してるなあ?」

「あの、きらら」

「何だ。言い訳があるならお姉ちゃんにしろ。それにライ達はどうしたんだ?お前と一緒じゃないのか?」


言葉を続けるキララの肩をがしりと掴んだ。


「な、何だ?」

「はやく……」


戸惑う事もあるし、何から話したらいいかわからないが、


「うららのところに、つれていって!」


とにかく、ウララだ。



■■■



キララの後ろに乗せてもらい、バイクで道を走って行く。

落ちないように身体にしがみ付いていろと言われたが、キララの身体は華奢で、しがみ付けば骨が折れそうだったので、バイクのグラブバーという場所を握ることで勘弁してもらった。


ちなみにバイクは定員2名のため、ルランとジョージは宿屋に置いてきた。明日三崎に送ってもらえば良いだろう。


「きらら。めだたないところに、きたら、とめて。しぐらが、どらごんになって、とんだほうが、はやいから」

「……わかった」


街灯が一つも無い場所に差し掛かると、キララはバイクを止めた。


「なあ、お前やっぱり様子がおかしいぞ」

頭の被り物……ヘルメットを取ったキララはまだ怪訝な顔をしていた。

「そうだね。しぐらは、きららがしっている、ぶねじゃ、ないからね」

「どういう事だ?」

私も強制的に被せられていたヘルメットを取り、キララに渡す。


「しぐらはね、かこのせかいから、きたんだよ」

「は?」


キララが信じようが信じまいが構わなかったので、誤魔化さなかった。

バイクごとキララに檻の結界を張ると、擬態を解いた。


「そんなことより、いまはうららのそばに、いかなきゃ!どっちにとべばいい?」

「お前……お姉ちゃんが初めてお前を家に連れて来た時も、ドラゴンだとか異世界だとかぶっ飛んだ紹介をしたけど、今度は過去の世界って言ったか?」

キララは“はあ……”と溜息を吐いた。

「……まあ、お姉ちゃんへの執着はいつもと変わらないようだから、細かい事情は今は不問とする。取り敢えず、あの山の方向に飛べ」

「わかった」

キララは見た目は大きくなったが、柔軟なその思考は健在らしい。

話が早くて有り難いと思いつつ、キララの入った結界を持ち、地面を思い切り蹴り上げた。



キララの指示通り飛ぶこと数十分。異様なものが見えて来た。

「あそこがお前らの家だぞ」

「……なに、これ」

山の中腹あたりに木で出来た大きな建物と、その傍に小さな別棟があるのが見えた。建物の方は何ともないのだが、別棟の方に檻の結界がこれでもかと言うほどに何重にも張ってあった。


「あそこに、うららが、いるの?」

「おそらくな。あそこがお前らの居住スペースだから……あ、ほら。外に出てきた」


別棟の入り口が開き、腹を大きくした人間が出てきた。暗いからといって見間違うなんて愚かな事はしない。


あれは―――ウララだ。


「うらら……」

私のウララではないが、数時間ぶりに見た“ウララという存在”を見て、目から涙が溢れてくる。


「うらら、うららー!!」


彼女に呼びかけるが、彼女からの返事は無い。防音の結界が張ってあるようだ。

幸い、防音の結界は檻の結界の外に張ってあったので、すぐに破壊できた。


「うらら!」

「ブネさん!うわあああん!!」


ウララが悲鳴のような泣き声を出した瞬間、更に檻の結界が増えた。

つまり、ウララの声が聞こえる範囲にブネがいるのだ。探ってもブネの気配は無いので、探知妨害の結界を張っているのだろう。

気配ではなく魂を見てみれば、近くの森の中に大きな魂が1つあるのがわかった。きっとあれがブネだ。


私は開けた場所に降り立ち、キララを置くと、すぐに人間に擬態してウララの方へ駆け寄った。ウララも腹を庇いつつ早足で此方に近寄り、私達は檻の結界越しに向き合った。

可哀想に、ずっと泣いていたのだろう、彼女の目は腫れていた。


「だいじょうぶ?うらら!」

「ブネさん、今まで何処に行ってたの?!皆、いないの。ライ君もコウ君もレン君もリュカちゃんもいないの!!」

ウララはぼろぼろと涙を流しながら、どうしよう、どうしようと繰り返す。

「なかないで、うらら」

「ブネさんもいなくて、私どうしたら良いかわからなくて!お願いだからこの結界、解いて!探しにいかなきゃ!」

「けっかい……」


未来の私(ブネ)が張ったモノだから、私になら壊せる。しかしウララを守るという意志がブネにある限り、壊したところですぐに新しい物が構築されるだけだ。

一番簡単なのは、ブネに結界を解かせることなのだが……。


「うらら、ぶねに、けっかいをとくよう、いってみて」

「え?何を言ってるの?結界を解いて、ブネさん」

「しぐらは、うららのぶねじゃないよ。うららのぶねは、もりに、いるから、おおきなこえで、いってあげて」

「言ってる意味がわからないよ……」


ウララの目からぽろぽろと新しい涙が零れ始める。

駄目だ。彼女の涙を見ていると冷静な思考が出来なくなる。


「……うらら、ちょっとまってて。ぶねを、つれてくるから」

「え?あ、行かないでブネさん!」

ウララの悲しみを無くしてあげたい一心で、彼女の言葉を振り切り、ブネが居るであろう方向へ走った。



森に入ってすぐの所に、黒い球体が見えた。あれは防視の結界だ。魂はあの中にある。

一応用心しながら結界の中に入ると、

≪!≫

途端に昼間のような明るさに包まれた。


そして光の中心に翼を生やした赤毛の男が此方に背を向けて立っているのが見えた。


人に擬態したブネだ。


何故ウララを放ってこのような所に1人で突っ立っているのだ?

それに奴の周りには靄のようなものがあるようだが……


「あ、ああ?ブネが二人いる!!」


色々と疑問が頭の中に浮かんだが、私の後を追ってきたキララの素っ頓狂な声で全てが霧散する。


一方ブネも驚いたような顔をして此方を向いたが、それも一瞬のことで、すぐに私に対して警戒の姿勢を見せた。


≪……ドラゴンの気配だが、貴様は何者だ。何故私と同じ姿をしている≫

≪そんな事よりも早急にウララの結界を解け。彼女が泣いている≫

≪私の問いに答えろ。さもなくば、消す≫

≪……≫


ブネにとって私は得体の知れぬ存在だ。警戒するのは当たり前の事だろう。だが、今もウララが泣いているのだと思えば、心が焦り、この問答に苛つきを覚えてしまう。

そもそも何処から説明をすれば良いのかわからない。“過去の世界から来たお前だ”と言ったところで、こいつは信じるだろうか?


―――多分信じない


ブネを見る。開口一番に何者だと訊ねはしたが、あれは私が何者なのか興味がある顔ではなく、私をどう消してやろうかと考えている顔だ。

自分自身だから、奴が何を考えているか手に取るようにわかり、改めて説き伏せるのは面倒だと辟易した。


ふとブネを覆う靄に注目した。先程はキララの声で意識がそれてしまったが、あれは金竜の出した靄に似ている。


何故、ブネはそのような靄を纏っているのだ?


靄が濃い部分を見れば、何も無い空間にぽっかりと穴が開いていた。靄はその穴から出ているようだ。そしてブネはそこに手を突っ込んでいる。

もしかしたら、そのせいで奴はこの場から離れられないのか?


≪―――その靄は飲み込んだモノを異世界に飛ばす作用のある物か?≫

ブネは答えない。


≪私はその靄と同じものを作りだす存在を知っている≫

今度はぴくりと眉が動いた。


≪その存在とは金竜だ。私は、その金竜と戦い、靄に巻かれてこの世界に来た≫

ブネの目の瞳孔が開く。興味がある話題のようだ。


≪その口ぶりだと、貴様は異世界から来た存在だと言いたいようだな?≫

奴はようやく話題に乗って来た。


≪私は、貴様からすれば過去の世界から来た貴様自身だ。何なら、魂に触れても良い≫


ブネの目に力が入る。白竜の時に思い知ったので、私は極力他人の魂に触れたくないし、触れられたくもない。だが、ウララの為なら話は別だ。


≪ウララが今も泣いているんだ、さっさとしろ。貴様がしないなら、私が貴様の魂を触る≫

≪……ッ!≫


少しだけ奴の魂に触れた。


その途端に奴の記憶が私に入って来る。


ウララとの思い出、子供達との思い出。そして、青竜への憎悪。



≪……貴様は、()()ライ達の、親か≫


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