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お迎え:シグラ視点

ガチャン、と公衆電話の受話器を小寺が置く。

「駄目。留守にしているのか、全然つながらない」

山荘のブログに書かれていた電話番号に宿屋の玄関にある公衆電話から電話をしてみたが、通じない。

「こでら、じゅうしょ、おしえて」

「今からいくのかい?もう夜だよ?」

「だいじょうぶ」

小寺は一枚のメモ用紙を渡してくれた。それには数字と住所らしき文字が綴られている。

「この数字が電話番号。でこれが住所なんだけど、シグラ君は読める?」

「……ちずが、ほしい。そこに、しるしをつけてくれたら、わかるから」

「地図かー……。コンビニにあるかもしれないけど、縮尺がとんでもなく小さい日本地図か、もしくはこの周辺だけの地図しかないだろうし……」


もどかしい。

「はやく、うららに、あいたい。ほうがくだけでも、わかったら、いい」


小寺は後頭部を掻きながら「うーん」と唸った。


「流石に方角だけで辿り着くことはできないよ、シグラ君」

「じゃあ、私が連れて行ってあげようか」

背後から三崎が話しかけて来た。彼女はポケットから鍵を取り出して見せた。

「私、車で来てますし、イケメンには優しくしろというのが持論です」

「フィールドワークの途中だよ、三崎さん」

「だから私が行くんですよ。小寺さんは他の皆の監督責任あるし」

「君も僕が監督すべき学生の一人なんだけどね」

「じゃあ、フィールドワークは途中離脱しまーす」

あははは、と笑いながら三崎は手に持った缶ジュースを仰いだ。

「ただまあ。これを見てわかると思うけど、お酒飲んじゃってるから、車を出せるのは明日になるんですよね」

そう言いながら、缶を振って見せた。あれはジュースではなく酒らしい。

どうやら酒を飲むと運転が出来なくなるようだ。


「もう夜だし、シグラ君達はこのままこの宿に泊まればいい。お金は僕が立て替えておくから」

「……」


場所さえわかれば、ドラゴンに戻って飛んでいけるのに。

そうだ、住所がわかる小寺か三崎を連れて飛べば万事解決ではないか?


“あまり目立っちゃ駄目だよ、シグラ”


……私の頭の中のウララがやんわりと窘めて来る。来るが!!


「ねーねー、シグラさーん」

背中に雌が抱きついてきた。三崎とは別の雌で、これも学生だそうだ。

「こら!シグラさんに先に目をつけたのは私なんだけど」

「知らなーい。ジョージさん達も格好いいけど、私英語は苦手だから話せないし。一緒にお酒のもうよ、シグラさーん」

三崎と雌がぐりぐりと身体を擦り付けて私に臭いを付けようとしてくるので、身体を振るって奴らと距離を取る。

「こらこら、三崎さんも綾瀬さんも。この人は奥さん一筋なんだから、そういうのは止めるんだ」

私は小寺に名前以外の自分の情報はあまり話していないが、私が寝ている間にジョージが色々と話したようだ。

「うら若き乙女2人に口説かれて、嬉しくないわけないでしょー。ねえ、シグラさん、私達の部屋に来てよ。それで一緒にお酒のもー」

「奥さんは君らと全然タイプが違うみたいだから、諦めなさい。ほら、部屋に戻ろうシグラ君」

小寺が私の背中を押して、部屋に戻るように促した。

「えー、奥さんってどんな人なんですか?ミサキ(三崎)ちゃん知ってる?」

「奥さんってウララさんの事でしょ?写真だけしか見てないけど顔は可愛い系で巨乳だったよ」

「……マジで私らとタイプ全然違うじゃん。でも、白米ばっかりじゃ飽きるから、偶にはパンや麺も食べたくなるでしょ?それに巨乳って見ようによってはデブ……きゃっ?!」

移動する私になおも追い縋ってこようとする雌に軽く威嚇する。


苛々する。

もう、我慢できない。ドラゴンになって飛んでいく!


背中を押す小寺の首根っこを掴むと、宿屋の外へ駆け出ようとした。

だが、その前に三崎が「あ、シグラさん。キララって人知ってます?」と話しかけてきたので、足が止まった。


「……きらら?」

三崎の方に振り返ると、奴はスマホを弄っていた。

「いやあ、さっきシグラさん達を撮った写真をSNSにアップしてバズったんですけどね。今見たらキララという人から意味深なDMが来てたんですよ」

三崎の口から出る単語は殆ど意味が解らないものだったが、要約するとキララという人物からメッセージが届いたということだった。


「きららは、うららのいもうと」

「あ、そうなんですね。“赤髪の男はうちの姉の旦那なので、まだ近くにいるなら今すぐ帰って来いと伝えて下さい。姉が困っています”って……」


ウララが困っている?

これは、意地でもウララの元へ行かないといけない!


小寺を離すと、三崎に詰め寄った。

「きららに、むかえにきてもらう!きららと、れんらく、できないの?ねんわは?」

「ねんわ……ああ、電話のこと?ちょっと待ってて、オンライン通話誘ってみますね」


三崎はソファに座ると、忙しなくスマホを操作し始めた。それをジッと眺めていると、奴は私にスマホを渡してきた。

「どうぞ。会話できま「―――おいこら!放蕩野郎!―――」


三崎の言葉に被せて、キララの声が聞こえて来た。


「きらら?」

「―――……んだこら!身重の嫁を放って何処にいるんだ!ライ達も昨日から戻ってないし、姉は結界のせいで居住スペースから出られないしで泣いてたぞ!―――」

「!!うらら、ないてるの?いますぐ、いかなきゃ……きらら、しぐらを、うららのそばに、つれていって!」

「―――ん?お前、ブネだよな?―――」


あ。


「……まあ、うん。ぶねだけど。いまは、その、しぐらでね。それで、うららのそばに、いきたいんだけど、いけなくて、こまってて……」

「―――は?何言ってるんだ?飛んで帰って来れば良いだろ―――」

「それが、どこにいえがあるのか、わからないの。きらら、むかえにきて」


スマホの向こうのキララが少し無言になる。


「―――ちょっとビデオ通話にしてくれないか?―――」


ソファに座って私を見上げていた三崎にスマホを取られ、そして何かしらの操作の後、また私に渡してくれた。

すると画面には大人びたキララが映し出されていた。髪の毛は短く切られ、化粧もしているようだ。


「―――言ってることが変だから別人かと思ったけど、やっぱりブネだな。お前、今何処に居るんだ?何かトラブルにでも巻き込まれたのか?何か喋り方もおかしいし―――」

「どこって……」

私は隣に居る小寺を見る。私の視線に気づいた小寺はこほん、と一つ咳払いをして、スマホに向かって話しかけた。


「あの、お話し中すみません、私は菊理(くくり)大学で准教授をしている小寺と申します。今現在ですね、シグラ君達は―――……」


小寺が淡々とこの土地の住所を話していく。キララは黙って小寺の話を聞いた後、「わかった」と頷いた。


「―――そこなら、高速を使えば1時間で行ける。ちょっと待っていろ―――」


キララと通話を終えると、すぐに部屋に戻ってルランとジョージを外に引っ張り出した。

『キララと連絡が取れた。迎えに来てくれるらしい』

『……キララ殿ですか?』

ルランが微妙そうな顔をする。まあ、我々が知っているキララは子供だから仕方ない。


『スマホで先程キララの顔を見たが、ウララとそう変わりない年頃になっていた。ここは恐らく10年以上先の未来の世界だ』

『10年先の未来……』


少し不安そうな顔のルランとジョージ、そして小寺と三崎と共に宿屋の外に居ると、暫くして見た事も無い乗り物に跨った雌が走り込んできた。いや、少し形状が違うが、これはドラマで警察官が乗っていた白バイに似ている。


雌は乗り物から降りると、頭を覆っていた被り物を脱いだ。

辺りが暗くて顔はよく分らなかったが、この気配はまさしく……。


「おいこら!ちゃんと事情を話せ、馬鹿!」


キララだった。




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