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日本:シグラ視点

靄に包まれながらも必死にウララの気配と魂を探る。すると、数個の光が私の目に飛び込んできた。

全てウララの気配ではなかったが、何となく彼女に似た気配だと思った。だから、躊躇なくそれに手を伸ばした。



やがて世界が変わった。そこは森の中だった。

すぐさまウララの気配を探ったが、残念ながら彼女の気配はなかった。

気配など探っても精々数キロ範囲しかわからないが、ドラゴンの雄にとって番の雌の気配は特別だ。どれだけ離れていても磁石のように惹かれるので、大抵の方角はわかる。しかし、この世界にその感覚が無いのだ。


ならばウララは別の世界に飛ばされてしまったのだろう、すぐに時空に穴を開けて――


『し、シグラ様!ブレスをしたら、時空に穴が開きますよ!!』

『何をするつもりだ!紅竜!!』


ぎゃんぎゃんと懐かしい声が聞こえた。

靄の中にいる間に、彼女に似た気配だと思って伸ばした手の中には、2人の雄がいた。


右手にはルラン、左手にはトランクを持ったジョージだ。


『……何故貴様らがここに居る』

『貴様が俺を掴んだんだろうが!俺は馬車で移動中だったんだぞ』

『俺も作戦会議をしていると急にシグラ様の手に掴まれました』


私は遠くにいる者を掴む能力など持っていない。ならば、原因はあの靄だ。あの中は空間の距離がおかしくなるのかもしれない。


しかし、何故こいつ等を掴んだのだろう?


こいつ等の共通点は何だ。雄?貴族?

そう言えばルランはニホン公爵家と濃い血縁にあり、ジョージは賢者の孫、だったか。

あの数個の光はウララと気配が似ていると思ったが、どうやら地球に関係する人間の魂だったようだ。

その中でも、私と縁がある者を引き寄せたらしい。


まあどうでも良い。

こいつ等の事よりも、今はウララだ。


『いけません、シグラ様!ブレスを吐けば穴が……』

『穴を開けるつもりで吐くのだ』

『時空が壊れます!』

時空などどうでも良い。ウララを探しに行かなければならない。

私が本気だとわかったのか、ルランは辺りをきょろきょろと見回す。

『シグラ様、奥様は……』

『別の世界に飛ばされた。今から探しに行く』

『シグラ様の傍にいらっしゃらないのに、時空が壊れれば、奥様の身が危ないです!!』


はっと我に返った。

それもそうだ。私は他の時空に穴を開けて逃げ込めるが、ウララ1人では時空の崩壊から逃げる事は出来ない。そんな簡単な事を見落とすとは。

ウララを見失った事で、私は冷静ではなかったようだ。


『……シグラって事は、やはり貴様はウララの番のドラゴンか?何となく気配が似ていると思ったんだ』


私とルランが静かになったタイミングで、ジョージが言葉を発した。ジョージが“ウララ”の名を口にしたゆえにルランがびくりと身を震わせた。

『シグラ様と奥様を知って……?その襟章、貴方はユーケー公爵の関係者ですか?』

『そう言う君の襟章は、ゴーアン侯爵の関係者のようだな』

『俺はゴーアン家の次男で……』

なれ合いだした2人に苛つき、手を放した。ただでさえ私はウララの事で気が立っているのに!

尻を強かに打ち付けた2人は揃って腰を擦る。


『何をする!貴様、無理やり巻き込んでその態度か!!』

『私は貴様など知らん。紛らわしい魂をしている貴様が悪いのだ』

『貴様、ウララの番だから見逃してやっているのに!討伐して……』


ガシャン!!


甲高い金属音が響き、そちらを向くと足元に何かの機材をばら撒いた人間の雌がぽかーんとしながら立っていた。

「え、何?これ、特撮?撮影してた?」

よくよく探れば、周りにもちらほら人間の気配がある。

「うわ、ヤバっ。写真撮って良いですか?俳優さん2人とも格好いいし、ドラゴンのクオリティーがヤバい」

雌はスマホを取り出し、私達の方へ向けた。


『おい、マズくないか?ドラゴンが現れたとなると、民衆はパニックになるぞ』

『シグラ様、此処から離れましょう!人が集まってきます!』


面倒だが、あまり目立つような事はするなとウララには日頃から言われている。ここはこいつ等の進言通り立ち去った方が良いだろう。

ルランとジョージを掴みあげると、雲に紛れるように思い切り飛び上がった。

そして身を隠せるくらいの深い森を見つけ、下降する。

手元でジョージが叫び声を上げていたが、無視だ。


森の中に入ると、すぐに人間へと擬態した。

足元でジョージが頭を抑えながら痛いと言っているが勇者だから大丈夫だろう。


『シグラ様、服を……』

ルランが着ていた自分の物を差し出そうとすると、先に私の頭に服が投げつけられた。

『俺の着替えだ。それでも着ていろ、見苦しい』

真っ青な顔のジョージは頭を抑えながら、持っていたトランクを漁っていた。

移動中だったと言っていたから、旅に必要な物は一通り持っているのだろう。

『あった』

奴の目当てのものは水色の粉が入った瓶だったようで、手に粉を出して一舐めしていた。回復魔法が溶け込んだ魔石の粉だそうだ。

あの程度の飛行、ルランはケロっとしているのに、勇者とは軟弱だな。


渡された服を身に付け、ふと首に巻くリボンタイが無いのに気が付いた。

そうか、ウララが傍に居ないから……。

……ウララに会いたい。ウララ……


『おい、見たことのない花が咲いているんだが。貴様、俺を何処に連れてきた?』


『……日本の可能性がある』

座り込んで小さな花を見ていたジョージががばっと顔を上げて私を見た。

『に、日本だと!?しかし、それは異世界に……!』

『先程私とウララ達は金竜に未知の攻撃を受けたのだ。それが原因で恐らくだが異世界に飛ばされたのだと思う。ここが日本の可能性があると言ったのは、先程の人間の雌が日本語を喋っていたからだ。服もウララが最初に着ていたものと酷似していたしな。もう少し判断材料が欲しいところだが』


私が持っている日本に関する知識は、まずは言語。そしてウララから貰った3つの記憶と、以前彼女から見せてもらったスマホの写真、あとは車の中にあった雑誌やDVDを見たくらいか。そう言えば車に掛かっている曲も日本の曲か。……ああ、ウララが作る料理も日本でよく食べられているものかもしれない。

ウララ……ウララの作る食事が恋しい。


『ここが奥様の故郷なら、俺達の国のように文明がある筈です。山を下りて街に行きませんか?フィルマ王国に戻る為の情報があるかもしれませんし』

『そうだな。ゴーアン殿に賛成だ』

ジョージはトランクを持つと、剣で草を薙ぎながら歩き出す。

『おい、その剣は隠せ』

奴はちらりと此方を見て『何故だ』とぶっきらぼうに返した。

『地球、日本には銃刀法というものがある。武器を持ってはいけない法律だ。警察という組織に捕まる』

これはアウロが好んで観ている刑事ドラマの知識だ。

ジョージは難しそうな表情で手元の剣を見る。

『剣は大事な物だから置いていけない』

『だから隠せ。布でも巻いておけ。警察に捕まったら大事になるから、とにかく絶対に捕まらないようにしろ』

極力目立たないようにする。ウララとの約束は絶対だ。


ジョージは少し考えた後、コートを脱いでそれを剣に巻きつけた。



■■■



「いやあ、助かったよー、お兄さん達ー」


ルランの背におぶさった小太りの雄が額の汗を拭きながら、笑う。

こいつは下山している途中で拾った人間だ。人の気配があると思って向かえば、ちょっとした崖の下で足を挫いて蹲っていたのだ。


「ここ、にほんで、まちがいない?」

「イエース、イエース。正真正銘の日本だよ。お兄さん達外国人みたいだけど、ヨットとかで来ちゃったの?冒険家?ロマンだねえ、僕も似たようなものだけどさ」

雄は“小寺”と名乗った。

小寺は大学の准教授で、フィールドワークの途中だったそうだ。

「ふぃーるど、わーく?」

「ああ、現地調査のことだよ。僕はプラズマ研究をしていてね、先日から学生の何人かを連れて麓の街に来ていたんだ。この山は昔からよく正体不明の光が目撃されていることで有名でね。昨日の昼とそれから先程も光ったんだよ」


小寺の指示通りの道を進み、ついに山を降りきった。


『な、何だこれは……』

ジョージが声を震わせた。


目の前には真っすぐな、黒い道が通っていた。そして時折、車がスイスイと走って行く。

私やルランはDVDでよく見た光景なのでそこまで驚かなかったが、ジョージは完全なる初見だ。


ふらふらと車道の方へと行くジョージの首根っこを掴む。


『車に轢かれれば悪目立ちする。自重しろ』

『車……やけに早い、馬車。いや、馬が居ない。どうなっているんだ。そう言えば祖父様がガソリン自動車というものがあって、買うのが夢だったとか言っていたような……』


混乱しているジョージを引き摺りながら、私達は小寺が拠点にしているという宿屋へと向かった。


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