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切っ掛け:ナベリウス視点

強いものに惹かれるのは生物としては当たり前のことであり、どうしてもブネ殿の番になりたかった。


だが……

ブネ殿の結界の中に捕らえられてから、私に運ばれてくる食料。

ブネ殿は何も言わないが、匂いであの嫁殿が用意している事はすぐにわかった。


私は嫁殿を殺して強さを示し、ブネ殿の番になるために来たのだから、彼女の恩は受けたく無かった。

恩を受けて何も返さないというのは、私の信条に反する。ましてや、殺すなど出来なくなるからだ。


しかし私は我慢が出来ずに食べてしまった。甘味は…………大好物なのだ。


とは言え、すんなりと嫁殿を認める事はできなかった。やはり私よりも弱い者がブネ殿の番になるのは納得できなかった。



■■■



ブネ殿の結界が解けた時、傍にはドワーフの少女と気味の悪い炎がいた。


―――この炎は消し飛ばさなければならない!


直感的にそう思った。

炎からは弱い者が触れると気が狂うような、そんな危険な臭いがする。

何故ブネ殿はこれを消さなかったのだ?……炎ゆえにブネ殿とは相性が悪かったのか?


炎は私が飛び掛かると分裂して馬車の窓から飛び散った。


思わず舌打ちが出る。

嫁殿にあの炎を触れさせるわけにはいかない。私はすぐさま外へ飛び出したが、それは杞憂で、あの炎の臭いは拠点から遠ざかって行った。


一先ずホッと胸をなで下ろす。だが外にはブネ殿とよく似た匂いをもつ少年達がいた。


彼らには私が嫁殿の命を狙っていると疑われ、戦いになってしまった。私は戦うつもりはなかったのだが、少年達は思った以上に強く、楽しくなってつい反撃をしてしまった。


その後、私は少年の一人に運ばれている最中に我に返り、慌てて人へと擬態した。


嫁殿と同じ種族に擬態することで、敵愾心は無く話し合おうと言う意思表示をしたつもりだった。それに元の姿よりもこの姿になると力は大幅に抑えられるので、少年も少しは安心してくれるのではとも思った。


しかし、いきなり人間の雌に擬態したからか、少年は驚いて口を開け、私を落とした。


敵愾心が無いと示したかったので、擬態は解かずに律儀に人間の姿のまま落ちた。

頑丈なので死にはしないと思っての行動だったが、流石にあちこちに怪我をしてしまい、それを見た少年は慌てて私を元の場所へ連れて行ってくれた。そしてエルフに治癒を頼んでくれたのだ。


『ご……ごめんなさい……』

私を怪我させた負い目なのか、少年達は少し態度を軟化してくれた。

私にとっては有り難い事だが、少々もやっとした。確かに私は敵愾心は無いと示したが、それでも先程まで戦っていた相手なのだ、態度を軟化するのが早すぎる!

お小言の一つでも言おうと思ったが、その前にエルフが少年達に注意をしていた。

気の利くエルフだが、ロノウェの臭いがするのはいただけない。私は奴が嫌いだ。奴のあのねっとりとした視線には鳥肌が立つ。


エルフの判断により、激しく動けば傷口が開く程度の絶妙な状態の所まで治療され、漸く私はエルフに見張られながら少年達と会話する事が出来た。


そこで少年達に害意を弾く結界を使ってもらいながら、なんとか彼らの誤解を解く事に成功した。そして訊けば、彼らは未来のブネ殿と嫁殿の子だと言うではないか。

なるほど、だからまだ生まれて十数年という、我々からして見れば赤子のような存在なのに、あの強さなのか。

彼らは相当な潜在能力を持っている。……まあ、流石に将来ブネ殿より強くなるかどうかは知らないが……。


しかし、良い切っ掛けにはなると思った。

私は強い者が大好きだ。将来の婿候補だと思えば、彼らの母親である嫁殿に悪感情を抱かずに済む。



その後、ここが異世界である可能性や過去・未来の世界である可能性の事も説明され、その話が一段落ついたところで馬車から逃げた炎の事を話した。

『それはアミーさんだと思います』

エルフのアウロが少し焦ったように説明をしてくれた。アミーという名は知らないが、名のある精霊らしい。消すのが面倒なのもあったし、更にアガレスの助言により、封印という措置をとっていたそうだ。


『その逃げたアミーはこのまま放置するとヤバいんスか?』

少年・コウが疑問を口にした。

『私はアミーという存在は今日初めて知ったが、放置はお勧めしない。あれは悪意で出来た炎だ。あの炎に触れれば弱い者はすぐに心が悪意に染まるだろう。この世界に人間がいるのなら、厄介な事になるかもしれない』

人間は力こそ弱いが、周りを巻き込む力を持っている。アミーに唆されると、取り返しのつかない事になる可能性がある。

『ですが、シグラさんの居ない今、アミーさんに拘るのは危険でしょう』

『私が消し飛ばす。問題ない』

『ですが……』

私とアウロの意見が反発するのを見て、“まあまあ”とコウが割って入った。

『俺も一先ずはアミーの事は様子見の方が良いと思いますよ。それより人間ですよ……。というか、ここ何処だ?ライは空飛んだろ、何か建物とか見えなかったのか?』

『ナベリウスさんを運ぶのに必死だったからな……それでも森しか見えなかったと思う。かなり深い森の中なんじゃないかな』

『さてさて、どうしましょうか?シグラさんが我々を見つけやすいように飛ばされた地点に留まったままの方が良いか、それともこの世界にも町や村があるなら、利便性の為に拠点地を移すべきか。最終的にはウララさんの判断を仰ぐ事になりますが、ひとまず我々で考えをまとめておいた方が良いでしょう』


ブネ殿……いや、シグラ殿か。シグラ殿ならこの世界に来たなら、我々が何処に居ても番の気配を辿ってくるはずだ。それだけドラゴンの番は絆が強い。

つまりどこを拠点にしようと構わないだろう。そう話すと、それもそうだなという空気になった。


『利便性という点も、前の村で大量に食料は確保したし、魔石のお陰で水が無制限に使えるし、ソーラー発電できるキャンピングカーがあるから暫くは町にいかなくても大丈夫だと思います』

ライがそう言うと、今度はコウが『つーか、道が無いと車は動かせないし。ここから動くなら、俺らがドラゴンになって運ばないといけないな』と言った。


2人の言葉に、“そうですね”とアウロは頷く。


『つまり、当面の間は切羽詰まった事はないと言う事になりますね。問題はこの周囲に凶悪な生き物がいるかどうか、ですかね』

『ならば、私が遠吠えしてやろう』


ライ達の言葉を待たず、私は喉を逸らして遠吠えした。

こうすれば私よりも弱い獣は寄ってこない。


遠吠えを終えると、ライ達3人は目をぱちくりさせていた。

『私より弱い獣は追い払った』

『名のある精霊のナベリウスさんよりも強い存在の方が少ないと思いますが……』

『あ、ありがとございます』

『でもやっぱり取り敢えず周囲の探索はしないといけないっスよね』


話し合いで、ライとアウロが周囲の探索に出かける事になった。ドラゴンのライなら何かあっても逃げるなり結界なりで防衛できるし、アウロはロノウェの加護でどんな言語でも対応できるからという人選だ。


怪我人の私は拠点地に居残りで、コウは私の一応の監視役となった。


『あ、そうだ。アウロさーん。車やウララ先輩達には俺らが結界を張るけど、ウララ先輩達には結界は張られてないよって話すつもりなんで、会話をあわせて貰えますか?』

『どうしてそのような嘘を?』

『シグラさんの結界に比べたら俺らの結界なんか玩具だから、油断して欲しくないんスよね』

『なるほど、わかりました』


“かたたたん”


奇妙な言葉が聞こえてきて、そちらを向けば、ブネ殿によく似た少年が立っていた。

『そいつはレンって名前だよ。俺らの弟なんだけど、日本語しか喋れないんだ』

コウとレンが目の前で日本語で会話をする。


“かたたた”“かたたた”という不思議な応酬を聞いていると、『レンはウララ先輩の事を攻撃したら駄目だよって感じの事を言ってるよ』とコウが教えてくれた。

『案ずるな、と言っておいてくれ』

『わかった。……一応警告しておくけど、害意を弾く結界が作動したら、ただじゃおかないからな』

『わかっている』

『玩具程度とは言え、先輩達には俺とライとレンでこれでもかってくらいに結界張ってるから、アンタの最初の一撃くらいは確実に凌ぐからな』

『ああ』


コウと話していると、レンは私の3歩後ろに立った。私が歩くと、レンもそれに倣って歩く。

相当警戒されているが、親を殺そうとした前科があるので文句は言えない。


暫くすると、コウがちょこちょこ歩くレンに何かを話しかけていた。そしてレンを馬車の二階に上がらせた。

『どうしたんだ?』

『後ろを歩き回るより、高い場所に登って見張ってたほうが効率が良いって言っておいた。小さい奴がうろちょろしても怪我するだけだし』

『そうか』



―――数時間後


飯の支度をしている時に、嫁殿が姿を現した。

嫁殿をまともに見たのは私が彼女を襲撃した日の夜以来だったが、相変わらず柔らかそうな雌だと思った。


そう言えばあの時、ブネ殿は嫁殿の顔に唇を寄せていたが、あれはきっと親愛の印だろう。

私の同胞やマルコシアスもたまに同じような事をするから、間違いない。

なので私も敵意は無いという意味で嫁殿の顔に唇を近づけたが……


とんでもなく拒否をされ、少し傷ついたのは内緒だ。


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