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怒り:シグラ視点

暴風雨と雷の音に交じって不協和音が響く。

これは恐らく複数のドラゴン共の威嚇が合わさっている音だ。


「な、何だこれ!あ、姉ぇ!」

「大丈夫、大丈夫だよ……!」


キララがウララに引っ付いた。ウララはそんなキララとついでにリュカを抱き締める。ウララの肩は小刻みに震えていた。

リュカはぽかんとした顔をしていて、何故ウララが震えているのか理解できていない様子だ。

私も一瞬どうしたのかと思ったが、ウララに抱かれているキララが耳を押さえているのを見て慌てて防音の結界を張った。

檻の結界の中なので威嚇の効果は無いが、この不協和音がウララにとっては恐怖の対象だったらしい。防視よりもこちらの方が重要だったようだ。

ウララは雷の音には怯えていなかったので、油断してしまった。

「うらら、だいじょうぶ?きづいてあげられなくて、ごめんね」

「あ……シグラのせいじゃないよ」

ウララは震えながら顔を上げる。その顔色は真っ青で、目には涙が滲んでいて……瞬きをすればぽろりと涙がこぼれた。


それを見た瞬間、カアっと胸と頭が熱くなる。


「し、シグラ―――」

私の表情を見たウララが何か言おうとしたようだが、それを大人しく最後まで聞く程冷静では無かった。

気が付けば車を飛び出し、嵐の中に出て空を見上げていた。


ドラゴン18頭の姿を確認すると、更に怒りが込み上げて来る。


―――アレが、ウララを泣かせた者共か!!


目の前が真っ赤になる。

街が消えればウララが心を痛めるので、街全体に結界を張らなければならない。時空に穴を開けない為にも、冷静さを欠いている今はブレスを吐かないようにしなければならない。その2つを考えるので精いっぱいだった。


後は、怒りに突き動かされるがまま、行動した。


≪ ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!! ≫


ドラゴン共に向かって威嚇すれば、3頭が下に落ちてきた。他のドラゴン共も動きがぎこちなくなっているので、威嚇が効いているのだろう。

そのうち1頭、紺竜が逃げるようなそぶりを見せたので、奴ら全員を囲むように結界を張った。


≪逃げられると思うな!!≫


逃げ惑う紺竜目掛けて飛ぶと、それを妨害するように目の前に紫竜と茶竜と青と白の斑の竜が立ち塞がる。

3頭は私に向かって威嚇してきたが、それが何だと言うのだ。


茶竜に体当たりし、尻尾を掴むと何度か振り回してから下に向かって投げ飛ばした。

次に斑の竜の肩に噛みつき、砕く。斑の竜は絶叫したが、容赦はしない。

≪彼を放せ!≫

私が攻撃している隙に距離を詰めた紫竜が私の翼にしがみ付いてきた。翼を捩じ切ろうとしているようだが、この程度の力でどうにかなるほど私は柔ではない。羽ばたきをすれば簡単に紫竜は振り落とせた。


次に紫竜に倣って別のドラゴン4頭が束になって両翼にしがみ付いてきた。


ぷっ、と斑の竜から口を離す。


翼に圧し掛かってきたドラゴン共は、翼の柔い部分に牙を突き立ててきた。穴を開けて下に落とそうという作戦か。―――いや、私に振り落とされないように(くさび)代わりにしているだけか。


≪鬱陶しい奴らめ!≫


4頭に(たか)られ、振り落とすのに手間取っていると、背中に強い力を感じた。

ブレスだ。振り落とされないようにしたのは、ブレスの力を溜める時間が必要だったからか。


振り返る間もなく、翼の付け根に至近距離でブレスを当てられる。一発だけではない、私にしがみ付くドラゴン4頭分のブレスだ。

≪ガアアッ!≫

付け根が抉られ、翼が2枚とも千切れてしまい、浮力を失った。


―――いつもの癖で自分に結界を張るのを忘れていた


強烈な痛みが走ったが、しかしそれは一瞬だけだった。

バンッ!という風を切る音と共に新しい翼が再生する。


≪なッ!?≫


背中に圧し掛かる雄共が驚愕したような声を出す。

私自身ですらこの再生速度には驚いてしまった。

それなりに傷の治りは早いほうだったが、ここまでではなかった。


≪邪魔だ!≫


背中の上で呆けているドラゴンの首を次々と掴んでは下に投げ飛ばす。

結界の底に当たり、悶える奴らに再度威嚇をし、動きを封じた。下で伸びているのはこれで10頭になった。残りは……


≪グッ!≫

背中にまたブレスが被弾した。見れば、2頭のドラゴンがブレスを吐いていた。更にその隣で3頭、ブレスの為に力を溜めている最中だった。


“きちんと自分にも結界を張ってね。どんなに強くても、どんなに早く治ろうとも、怪我をした瞬間は痛いんだから”

そう言っていた時のウララが頭を過った。

結界を張っていなかったと知られたら、ウララに怒られる……!

今更ながら慌ててブレスと物理攻撃用の結界を張った。


≪ふー……≫


息を吐く。

暴れた事と、ウララの顔を思い出したことで少しは落ち着いてきたかもしれない。

ウララは大丈夫だろうか?

怯える彼女へのフォローを何もせずに出て来てしまったが、ライやレンが上手くフォローしてくれることを願う。


―――早くウララの元に戻ろう


力を溜め終えた3頭のドラゴンが私に向かってブレスを吐こうとしたので、それぞれ頭の周りにブレス反射の結界を張ってやった。


自分のブレスにやられて頭を吹き飛ばしたドラゴンが落下する。


これで13頭。残りは5頭。

先程私にブレス攻撃してきた2頭のドラゴンは、身を翻して紺竜の方へ向かった。まとまってくれた方が片付けるのに楽なので、2頭の事は敢えて見送った。


≪しかしおかしいな。残り5頭なのに、魂の数は6つある≫


丁度、紺竜の手の中に余分な魂があるのが見える。

気配を探れば、雌の気配がした。

あの紺竜は雌を握りしめているようだ。


≪兄上!≫


ビメとビメの番の黄竜が飛んできた。

私が冷静になったのを見計らって、声を掛けに来たのだろう。


確かに幾分か冷静になったが、しかしまだ気が立っていたので翼で風を起こした。こいつ等に傍に寄られるのは今は鬱陶しい。


≪巻き添えになりたくなければ、離れていろ≫

私の態度にビメは少し躊躇したが≪ご報告します≫と口を開いた。


≪私の番が言うには、人間の雌があの複数の雄共を番にしているようです≫

≪複数?≫

≪雄達には逆鱗が無いんだよ。ブネ殿は気づかなかった?≫

黄竜が不思議そうに言うが、先程までの私は頭に血が上っていたので、そんなもの気にもしていなかった。しかし、そうか。紺竜の手の中に居る雌が奴らの番なのだろう。


ふと脳裏にブニが過る。奴の番も複数の雄を番にしていると言っていた。

そんな珍しい番の形態が多くあるとは思えない。もしかしたら、アレらがブニの番とその夫達かもしれない。

ブニは自分の番が(ブネ)を狙っていると言っていた。アレがその番である可能性があるのなら、消してしまった方が良いだろう。


仮にブニの番でなくとも、ウララを怖がらせた報復は受けさせねばならない。


≪ビメ、ミク。貴様らは下がっていろ≫


そう言うと、今度はビメ達はすんなりと離れていった。

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