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キララ、加護を得る

シグラにしがみ付くように抱きついていると「どうしたの?」「だいじょうぶ?」と心配そうな声をかけられ、背中をぽんぽんと緩く叩かれた。


「シグラ……」

「どんなきおくを、みたの?」

「……」


言い辛くて黙っていると、シグラは彼が受け取った私の記憶の事を話しだした。

それは何の変哲もない、私の日常の記憶だった。マダオに関する記憶に関しては、シグラがそれを知って不快になっていないか心配になって、彼の顔を見上げた。すると彼は何故かしゅんっとしてヘコんでいた。

「ど、どうしたの?」


ヘコむ要素あったかな?シグラがマダオに劣っているところなんて、何もないと思うけど。


「であったころのこと、おもいだしてた。しぐらがうららのことを、たくさんさわってたら、うららは、ひめいをあげてたでしょ?あのときは、りかいできなかったけど、いまならわかるよ。うららのいやがること、しちゃったんだなって……」

出会った頃……裸のシグラに服をはぎ取られて湖に引きずり込まれ、身体を洗われた時の事を言っているのかな?

確かに当時の私にとってかなりショックな出来事だった。そしてとにかく責任を取って貰わないとと思った事を覚えている。

「あの時の事はもう、気にしなくていいよ」

「でも、あのときのうららは、きずついた、でしょ?」

「衝撃が強すぎてパニックにはなってたね」


私の身体に添えられているだけの彼の左腕をとって、手のひらをむにむにと揉む。


「私も、シグラに謝りたい事があるの」

半泣きのシグラは首を傾げ「うららに、いやなこと、されたことないよ」と呟いた。

「私に流れてきた貴方の記憶は、住処でのんびりしてた記憶と、子爵領でビメさんと戦った時の記憶。そしてこれはブネさんの記憶だと思うけど、ブネさんが王女様と番になった直後の記憶と、ブネさんが王女様に苛められている記憶の4つだよ。ブネさんのは凄く……悲しい記憶だった」


シグラは私に流れてきたブネの記憶には心当たりがないようだ。シグラが言うには、今はその記憶は沈殿しているが、何かの切っ掛けで浮上して自分も知る事になるかもしれない、との事だ。出来れば一生沈殿していて欲しいと思う。


「ブネさんは王女様に異性を弾く結界を解けと命令されて、凄く嫌がってたの。……私も貴方に異性を弾く結界を解いてくれと言ったことがあったでしょ?確か、アウロさんを助けに行く時の事だったと思うけど」

「……うん」

「ごめんね。あの頃の私はその結界の大切さを知らなかったから……」

ブネの記憶は、結界を解けと言われた時のブネの気持ちを私に克明に知らせてくれた。

だからシグラも絶対に傷ついたはずなのだ。

「でもけっきょく、とかなかったよ?だから、きにしないで、うらら」

「……うん。ありがとうシグラ。……シグラも私に沢山触った事は気にしなくていいよ。貴方は私が止めてくれって言ったら止めてくれたでしょ?」

「うららのいやがることは、したくない」


彼の左腕を抱きしめる。


「お互いさまって事でいいかな?何も知らない頃のミスは仕方ないと思うし」

「……うん……いやなことがあったら、すぐにいってね、うらら」

「シグラもね」


お互い顔を見合わせ微笑みあうと、頬にキスをし合った。



■■■



「きららに、かごがついてる」

「「え!?」」

私とキララの声がハモる。


翌朝は納屋にバーベキューコンロを広げ、4合炊きの飯ごう3つを4度使い回して、ご飯を炊いた。

それでも足りなさそうだったので、追加でパンを焼いた。


シグラやロナも凄いが、ライ、コウ、レン、リュカも結構食べるのだ。


おかずは具だくさんの味噌汁とサラダを用意した。もっと手の込んだものを作ってあげたいが、如何せん、作る量が多すぎて朝はこれ以上は手が回らない。


シグラがキララに向かって「かごがついてる」と行ったのは、テーブルと椅子を出して朝食をとっている時の事だった。


「加護って、昨日の夜に言ってたやつ?」

コウはひょいっとキララの顔を覗き込んだ。そして「目の色がちょっと変わってる」と指摘した。

私もキララの顔、というより目を凝視すると、元は茶色がかった黒色だったのに今は確かに少し緑がかった黒色になっていた。

「キララ、聖水飲んじゃったの?」

「え?知らないぞ。神殿で出してもらった晩ご飯の時に水は飲んだけど……」

多分それだろうなあ。

「……どうしようシグラ」

シグラの方に振り向く。


「かごは、もっとつよい、かごをうけたら、ぬりかえられるよ」

「解除する事は出来ないの?」

「自分自身が加護以上の力を付けたら、加護は消えますよ」

アウロはそう言いつつも「難しいでしょうけどね」と苦笑した。


小学生(キララ)が聖女に勝てるかどうか……多分無理だろうなあ。


キララは自分の手のひらをじっと見て、そしてぐぱぐぱと手を開いたり握ったりしていた。

「なあ、加護って付いてたらちょっと強くなれるんだよな?」

「そうですね。でも魔法は使えませんよ?」

「私は強くなったのかな?目に見えてわかることじゃないから、実感がないんだが」


首を傾げるキララを見て、シグラは手のひらを私に向けた。

「うらら、おもいっきり、たたいてみて」

「え?私が?」

「ふつうのにんげんが、うららしかいないから。ひかくしたいから、おもいっきりね」

シグラを叩くのはかなり抵抗感があったが、比較の為なら、ここは意を決して……!

ぺしんっとシグラの手のひらにグーパンする。

次に彼はキララに同じように手のひらを向けた。キララもぺしんっと殴った。


「うららの2ばいくらい、つよくなってる」

「そ、そうなの?」

「おおおおお!!マジか!!聖女の加護すげええ!今度ゲーセンに行ったらパンチングマシーンやってみよっと」

妹に……小学生の女の子に負けるなんて……!ちょっと、いや、かなりショックだ。


「聖女の加護とかマジで羨ましいんだけど、俺も聖水飲んだら付くの?」

パンを食べながら、コウが聖水の入ったあの瓶を揺らす。

「こうはむり。こうのほうが、せいじょより、つよい」

「えー……残念すぎる」

まあ、ドラゴンだもんね。肩を落とすコウを、キララが「どんまい」と慰めた。


「昨日、先輩たちは加護がついたら困るって言ってませんでしたか?僕達はいまいちそういうのがわからないんですが」

「加護がつくとね、加護を付けた人に絶対服従らしいの。それで、私に加護がつけられたら、私を通じてシグラを思いのままに動かす事ができる危険があるのよ」

「ああ、確かにそれはヤバいですね」

「それな。聖女に服従とかヤバいよな。背徳感が半端ないっていうか」

「いや、僕が言ってるのはそう言う意味のヤバいじゃないからな、コウ」

同じ顔した双子なのに性格全然違うなあ、この子達。

「それにしても、強い相手の血を大量に飲んだら加護が付くと聞いていたんだけど、聖水というものもあるんだね……」

そうなると、水を飲むのも注意を払わないといけないのか……。


「キララちゃん、聖女にはあまり近づかないようにしなきゃだね。聖女に命令されたら背けないわけでしょ?」

「……そう言えば、神殿で沢山の人が掃除とか下働きしてたけど、まさか加護を貰った奴らだったのかな」

「さて。その可能性はあると思いますよ、キララさん」

アウロの言葉に、キララの嬉しそうにしていた表情が一転して、嫌そうなものになる。

「離れてたら命令はされないのか?それとも離れてる場所でも呼び出されたりするのか?」

「ためしてみようか?るらんに、なにかめいれいを……」

「止めてあげて。ルランさんはお仕事中なんだから」

「私はロノウェ様の加護を頂いていますが、旅をしている間に命令などされた事がありませんよ」


うーん……ロノウェが優しい性格の持ち主なら、普通に命令というものをしない気がするから、あまり参考にはならないかな。


朝食の後、ルランに魔道具経由で尋ねたところ、遠隔でも主人と同調することはあるけど、強制力は特に無いとのことだった。


ついでにルランはドラゴンの血の分析結果も教えてくれた。朝イチに届いた情報だそうだ。


「……ドラゴンの血を、薄めて顔に塗るの?」

ひくりと顔が引きつる。何と言う猟奇的な。

「ち、いる?うらら」

「要らない、要らない。今は大丈夫だから手首を噛み千切ろうとしないで」

でも小じわが目立ちだしたら、やらなきゃいけないのかなあ……。

悩んでいると「先輩先輩」とコウに肩を叩かれる。そしてそっと耳打ちされた。


「前に母さんは年取らない体質だって言ったでしょ?実は今の先輩と見た目が全く変わってないんですよ」

「え?」

「先輩はアンチエイジングだとか言ってたけど、多分アレ、ガチで老いが止まってる感じです」

「ええ!?」


「どうかしたのか、姉」

大きな声を出してしまったので、その場にいた全員の視線が私に向く。

「な、何でもないよー」

「ふうん?まあ良いけどさ。それよりライでもコウでも良いから、将棋の続き教えてくれ。電気が使えないから、唯一の娯楽だからな」

私が「暇なら勉強すればいいじゃないの」と提案したが見事にスルーされ、キララはライとコウとククルアを連れて馬車の二階に登って行ってしまった。

「全くもう」

「ははは、ロナは作業に夢中ですし、キララさんは遊び相手が出来て嬉しいのでしょう」


朝食の片付けが全て終わるとアウロはロナと共に馬車の中に入り、シグラとレンとリュカと私はバスコンへ入った。


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