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その頃王都では:セラン視点

『……は?黒竜?』


昨日までプルソンルラ付近で目撃された金竜対策会議をしていたので王宮に泊まり込みが続いていたが、今日こそは屋敷に戻れると思った夕方。嫌な情報が執務室に齎された。

ちなみに金竜に関しては目撃情報も少なく、何より被害が無かったので鳥か何かを見間違えたのではという結論に至り、会議は解散となった。


「ジュジラの街にほど近い海岸に現れたそうです。参議達で対策会議を開くようにと下命がありました」

部下の男が報告書を無慈悲に読み上げる。


『ジュジラ……。南の辺境伯爵の御膝元か』

『先日の金竜目撃情報があった場所からそこまで離れていない場所ですね』


部下の手前、努めて困ったような表情を作るが、内心ではどうせこの黒竜はシグラ殿の妹のビメだろうと見当がついていた。


根拠は私の弟(ルラン)がドラゴン夫婦を連れて南の紛争地に任務に行っているからだ。ビメであれば前回同様、悪さもせずに去ってくれるだろう。対策会議など無意味だ。

『……はあ』

思わず溜息が零れる。

わかってはいても、ドラゴン夫婦の事はゴーアン家の一部しか知らない情報ゆえに、他者に説明しようがない。王にすら報告していないのだ。


―――まあ、万一黒竜がビメでなかったら対策が後手に回る事になる。会議には真面目に参加するとしようか


後でルランに黒竜の正体を問い合わせようと思いながら、会議が行われる大広間に向かっていると、廊下で私と同じ参議の男と出くわした。


『またドラゴンが出ましたね、ノーク卿』

『ええ。今度は西ではなく南ですが』

『確か、ジュジ領にはノーク卿の弟君が派遣されておりましたな。ノルンに引き続き運の無い事で。そう言えばゴーアン領のフラウでも紅竜が現れたという噂が……』

『ははは』


運が無いわけではない。あいつが伝記に載っているようなドラゴンと一緒に行動しているせいだ。

眼鏡の位置を直しながら、どう返したらいいものかと考える。ああ、辺境地と言えば神託があったな。


『……今回は南の辺境地だ。西の辺境地に続き、精霊オリアスの神託通り辺境地で騒動が起こっていると思いませんか?』

『そうそう、精霊オリアスの神託ですがな、また新しい神託があったそうですぞ。ご存知で?』

『ああ、確か“暴風に備えよ”という神託があったとか』


そう、最近またオリアスの精霊教会が神託が下ったと大騒ぎしだしたのだ。

言葉の意味通りの『暴風』なのか、はたまた比喩的なものなのか。そして何処でそれが起こる?どのタイミングで?

信者共はぼんやりとした神託をありがたがっているが、私にはそのありがた味がほとほと理解できない。もっと!的確な!神託を出せと言いたい!これでは無駄に不安を煽っているだけではないか。

結局“辺境の地で希望の種が死に瀕している”という神託はどうなったのだ?無事に回避できたのなら、回避できた旨を教えてもらいたいものだ。


大広間に近づいてくると、ちらほらと参議達の姿が見えだした。皆疲れたような顔をしている。

昨日まで金竜対策の会議をしていたのだから当たり前か。多分私も同じような顔をしている筈だ。


『おや、あれはネスト卿では?病気は快癒したのでしょうか』

同僚が指さした方向には、栗色の髪の毛の男が歩いていた。ネスト卿も我々と同じ参議だが、金竜対策会議には病欠していた。以前はぽっちゃりとした体格の男だったのだが、今はかなりやつれた様子なので、相当酷い病気だったようだ。


『ここだけの話、ネスト卿はキャリオーザ王妹殿下と懇意にされているとか』

『王妹殿下と?』

もう一度ネスト卿を見る。

しかしキャリオーザ王妹殿下と懇意にするとは……。

『ネスト卿は急進派な考えの方だっただろうか?』

『さて、保守派だったと思いましたが。王妹殿下の毒牙にやられたのやも』


急進派とは今の社会を根本的に変えようとする者の集まりで、保守派はその反対で伝統を重んじる思想を持つ者の集まりだ。


王妹……キャリオーザ王女殿下は幼い頃から自分こそが国王になるのだと言って憚らない王女だった。誰にも傅く事は無く、今の国王陛下――王女からすれば実の兄――に対しても常に対等以上の姿勢をとっている。

その態度が許されているのは、先代の国王陛下が娘のキャリオーザ王女殿下を大層可愛がっていたからだ。流石に王座まではやれなかったが、それ以外の物は全て言われるがままだった。

今の国王陛下への無礼な態度は、王女殿下の力が今も健在なのだという印である。


そして急進派筆頭がキャリオーザ王女殿下であり、保守派筆頭が王太子殿下だ。


私の父は保守派で、私もそうだ。

王太子殿下はキャリオーザ王女殿下に対抗する為に色々な政策を打ち出していて、特に新しい賢者には期待をしていた事だろう。それがまさか扱い辛い賢者が来るとは、王太子殿下こそ運が無いと思う。


『!失礼』


身に付けていた懐中時計からピリッとした電気が走った。何かメッセージが届いたようだ。

同僚に軽く手を振ってそこで別れ、廊下の端に寄って懐中時計を開く。


『……青竜だと?』


それはプルソンルラで青竜が暴れたという報せだった。しかも、それは黒竜出現よりも数日前の事で、丁度金竜の目撃情報が出た直後のようだ。


今の今まで青竜の話題は一切なかった。

プルソンの信者達が隠蔽したのか?調査とは言えプルソンの聖地に外部の人間を入れたくなかったから?

しかし、信者達だけでそんな大それたことが出来るだろうか?

ドラゴンの情報は様々な手回しをしないと、容易く外部に情報が漏れてしまう。シグラ殿がドラゴンの姿でフラウに来た事も、相当慎重に情報を潰していったが、それなりに漏れてしまっているのだから。


何か嫌な予感がする。



■■■



結局黒竜に関しては実害が無いために、今後被害などがあった時の処理についてだけの話をして、今回の会議は終わった。ドラゴン目撃情報が多発しているので全員慣れてきている為か、かなりスムーズな会議だった。


そして、青竜の事は一切議題に上がらなかった。

私も話題にはしなかった。


不気味だと思いながら自分の執務室に戻ったのは、もう夜だった。また泊りか……いや、絶対に今日こそは屋敷に戻ってやる。


『閣下、研究所から報告書が届いています』

椅子に座ると、すぐに部下が封をされた封筒を持ってきた。

ドラゴンの血液の詳細を調べるように依頼した件だろうか。封を切り、中を検めるとやはりドラゴンの血液についてだった。


―――加護が付く量は個体差による……か


精神力の強い個体は耐性があるらしい。

また、老化を止める血液量も個体差があると書いてある。

ルランは10年老いなくなる方法を知りたがっていたが、個体差があるのなら服用は難しいだろう。代替え案として、見た目だけの若さを得るのであれば水で薄めた血を肌に塗るだけでも効果があるとも書いてあった。


後でルランに報告書の内容を伝えてやらないといけないな。このままの書類を送るのではなく魔道具で伝える事になるが。

報告書を封筒に仕舞い、鍵付きの机の引き出しに入れる。


首をぐるりと回すとごきごきと嫌な音が鳴った。

『お疲れですね、閣下』

『最近緊急会議が多いからな……ふあ……』

欠伸が出て、涙をぬぐう。

そう言えば涙などの体液には治癒効果は無いのだろうか?

例えば汗や涙は血液とほぼ成分が同じだと聞いた事があるが……。


ふわああ、ともう一度大きな欠伸が出た。


『仮眠されますか?』

『いいや、今日は屋敷で休みたい。目を通すべき書類があるなら全て机に置いてくれ』

『畏まりました』


部下は容赦なく書類の束を机に置いてくれたのだった。



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