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魔石

「偶に賢者が貴女方のように王宮から逃亡し、姿を消すと言うのも聞いたことがあります」


ひええええ!!何それ怖い!!

それ確実に消されてますよね!


「わ、私達の場合は召喚儀式を経ていないので、王宮とは関わり合いないのですが…」

「そうなのですか。ああ、そう言えば時空の概念と名乗られた精霊が一緒に居られましたよね」

私は頷くとパルを呼んだ。

「彼女は時空の概念です。便宜上パルと呼んでいますが」


『召喚儀式の話ですが、それは眉唾です。『世界と異世界を繋げる事』には多くの危険を伴います。危急なことが無い限りしません』


テーブルからにゅっと現れたパルが反論する。ああ、姿を見せていなかったけど、話は聞いていたんだね。

「何だー…嘘かー…」

キララはがっかりしてテーブルに突っ伏した。

まあ、そうだよね。パルを介さずそんな事でき……


ふと隣を見る。


居たわ。力を使って無理やり世界と異世界を繋げちゃったドラゴン。

「もしかしてシグラみたいな存在が他にもいるんじゃないの?」

『過去には存在しましたが、現在の時点ではシグラさん以外認識しておりません』

「でもさ、今のパルからその記憶がこぼれ落ちている可能性もあるよね」

現在のパルはトカゲのしっぽのような状態だから、自分から何の記憶が無くなっているのかすらわからない。

『確かにそうですね』



そこで召喚に関しての話が途切れたので、私はちらりとロナに目を向けた。


「あの、ロナちゃんはドワーフと聞きましたが、この子は精霊魔法は使えるのですか?」


話の軌道修正だ!私、水魔法に凄く興味あるんですよ!


「ロナはエルフとドワーフのハーフですが、ドワーフの血が色濃く出たからか、精霊魔法は使えません。精霊ロノウェの力も…」

そっか…水、出せないのか。それにアウロとは違って会話も出来ないということか。

「ですが先程も言った通りロナはドワーフの能力を使えます」

「ドワーフの能力とは?」

「物づくりの力です。今はまだ幼いゆえに作れるものは少ないですが、ゆくゆくは武器でも家具でも上手に作ることができるようになるでしょう」


へえ、それはそれでかなり便利な力だ。


「このバスコンが故障したら直してもらえたりします?ここの世界とは違う世界の乗り物ですが」

「さて、どうでしょう。どのような仕組みになっているかわかりませんが、故障個所にも因るのではないでしょうか」

まあ、そうだよね。

まだ壊れてないし、この話は今は良いか。


時計を見ると、そろそろ10時に差し掛かっていた。このまま話していたらまたお昼を越えるかも。

それなら移動を開始した方が良いだろう。


「…それでですね、話は変わりますがそろそろ移動しようと思っているんですよね」

食料の事やお金の事を話すと、キララとアウロは頷いた。

「確かに外貨を稼ぐのは賛成だが、問題があるぞ姉よ」

「やっぱ言葉が通じない問題?」

「それもあるが、人前でこの車を出すわけにはいかないぞ。アウロが言っていただろう、別の世界から来た事がバレると監禁生活が待っているやもしれん」


そうだった!!


「え、どうしよう。でもバスコンを捨てる選択肢はあり得ないんだけど」

「外見を変えればいい。ロナに頼めばなんとかならんか?荷馬車のようなハリボテで囲うとかな」


皆の視線が向いたのに気が付いたのか、ロナはくりくりとした目を此方に向けた。



■■■



外に出て、バスコンの外壁をぺたぺたと触っているロナを横目に、私はアウロに水の補給口を見せる。


「ほう。此処に水をいれると、車内で使えるわけですな」

「はい。大丈夫そうですか?」

「あと数日時間を下されば、これを満たす事が出来る程の力が戻ります。ですが恒常的に溜めておきたいのなら、水の魔石を入れておけばどうでしょう?」

「水の魔石?」

ああ知りませんでしたか、と苦笑して彼は懐から何かの石を取りだした。何か淡く光っているようだ。

「これは?」

「光の魔石です。明り取りに使っていましてね」

魔石とは文字通り魔力が溶け込んだ石の事だそうだ。魔脈の鉱山という場所で採取できるらしい。

光の力が溶け込んだ石はずっと光り続ける魔石となり、水の力が溶け込んだ石はずっと水が湧き続けるらしい。

「水が溢れませんか?」

「魔石の品質やサイズによって湧き出る水の量は異なります。そうですね…例えば普通の品質でこぶし大の石ならこの大きな入れ物をいっぱいにするには二日くらいですね」

それなら溢れる前に使うから問題ないか…。

「それ欲しいです。普通にお店に売っていますか?」

「ギルドの直営店に売っていますよ。それか水の魔脈の鉱山か」


「うらら、ほしい?」


ずっと黙ったままだったシグラが話しかけてきた。


「えっと…パルちゃーん。シグラに水の魔石持ってるのか訊いてくれないかな」

パルの通訳を聞いているシグラを見て、アウロは「あの」と話しかけてきた。

「彼はウララさんとは違う言葉を使っているのですか?」

「ええ。言っていませんでしたね、シグラはドラゴンなんですよ」


「ドラゴン!?」


アウロが驚く傍で、パルが『シグラは住処に水の魔石があると言っています』と教えてくれた。

「あ…そっか。シグラはこの世界の住人だもんね。ちゃんとお家あってもおかしくないか」

『水の魔石が必要なら一度住処に戻る。でも他の雄が居る場所に貴女を置いていけないから一緒に行きたいと言っていますが』


どきっとしてしまう。

シグラは必ず私の事を大事な女性扱いしてくれるから、嬉しい。

でもシグラの言ってる事って、シグラのお家に私と二人きりで行くということなのでは。男性の家で二人きりだなんて!それはまだ心の準備ができてないし、キララに1年間は様子見って言われてるし!

わかってるよ、シグラは別に疚しい思いなんてないってこと。

でもどうしても意識してしまうのが止められない自分が恥ずかしい…。


「ちょ、ちょっとキララに話してくるね」


落ち着く時間が欲しくてキララをダシにその場を離れる。

キララはバスコンの中で本を読んでいた。


「水の魔石?そんな便利なものがあるなら、取りに行けばいいだろう」

「でも、シグラと二人っきりになるんだけど…」

「昨日の事を気にしてくれて嬉しいことだ。しかし私が言いたかったのは、シグラの人となりを知れと言いたかったんだ。一緒に行動するなとは言ってない」


相変わらずクールな事を言う。それにしても我ながら妹に恋愛ごとを訊きに行くなんて何と情けないことか…。


駆け足でシグラとアウロの所に戻ると、二人は何かを話していた。

ああ、アウロは精霊魔法でどんな言語の人とも喋れるんだったっけ。羨ましいなあ。


私が戻った事に気が付いたシグラは、にこっと笑いかけてくれる。

ああああ、心臓が、心臓が…!!


「キララにも話してきたから、ちょっと私達水の魔石を取りにシグラのお家に行ってきますね。何かありましたら、バスコンの中に逃げて下さったらシグラの結界が守ってくれますから」

「わかりました」


シグラ、と名前を呼ぶと彼はひょいっと私を横抱きにして背中から大きな翼を生やした。

す、凄いけど貫頭衣破けちゃってない?

まあ、後で繕ってあげればいいか。


シグラがとんっと飛ぶと、あっという間に森の木を見下ろす位置まで飛び上がる。


「た、高…!!」

地面で生きる生き物の本能なのか、ぞわっと震えがやってくる。

それからぐんっと強い風圧を感じて思わずシグラの肩に縋りつき、目を固く瞑った。

きっとシグラが移動を始めたのだろう。


「うらら、ごめん」


シグラのその言葉とともに風圧が無くなる。

はっと目を開けると、私の周りに何かの膜が張られていた。

これも結界か何かなのかな?


良くわからないけど、むき出しの状態ではなくなったので幾分か恐怖心は緩み、縋りつく力を抜いた。

すると今度はシグラの腕の力が強くなり、さっきの体勢よりも密着しお互いの胸がくっつく。

「シグラ…」

高さの怖さも相まって、更にドキドキしてしまう。これが俗に言う吊り橋効果なのかな…とどうでも良いことばかり頭に浮かんだ。


多分、色々な情報がどばっと私の中に入ってきて、頭が処理できず…現実逃避しているんだろう。

本日もう一本アップします。

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