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血筋

遂にシグラは観念し、ぽつりぽつりと話し始めた。

それはパルやライ達の事を主とした、ここ数日の出来事だった。


「……15年後の未来からきた子供……」

向かい側に座るレンを見る。

「この子も……」

「うん。みらいのしぐらと、すこしだけ、じょうほうきょうゆう(情報共有)したから、まちがいないよ」


レンはにこりと笑った。


「~~~~っ!!」

無言でスマホを構え、ぱしゃぱしゃと連打する。

「くっ!明るさが足りなくて綺麗に撮れない!」

明日ライ達が戻って来たら、改めて写真を撮らせてもらおうと心に誓った。


「レン君、ちょっとこっちにおいで」

スマホを置くと、レンに向かって手を伸ばす。レンは小首をかしげたが、言われた通りテーブルの下を潜って私の膝の上に来てくれた。

「どうしたの?」

「頭撫でさせて欲しいんだけど、良い?」

「良いよー」

「可愛い……」

シグラにそっくりな髪質を何度も何度も撫でる。

一方、レンは不思議そうにペタペタと私のお腹に触れていた。

「卵、産まれたの?」

「ん?」

「みらいのうららは、おなかに、こどもがいるって、いってたよ」

「そうなの?」

結構な子沢山だ。15年後もシグラと仲が良いようなので、嬉しい。

「弟かなあ、妹かなあ」

嬉しそうに笑いながらレンは胸に頬擦りしてくる。本当にとても可愛い。


可愛いから、余計に思う。


「……シグラが言いたくない事は無理して聞くつもりは無いけど、でも子供達の事はきちんと聞かせてほしかった」

「うらら……」

「だって、私はこの子達の事は実家の近所の子供だと思っていたし、10年経てばきちんと元の世界に戻してあげられると思ってたんだから」


でも未来に戻すなら別の手段を考えなければならない。


「ごめんね。うららに、きぐろう(気苦労)を、させたくなくて。……らいたちのことは、うららには、ないしょで、しぐらだけで、うごこうとおもっていたの」

何とも彼らしい理由だ。

でも私の気苦労とかどうでもいいくらいに子供達は大変な事に巻き込まれているのを、少しは考慮して欲しかった。一応私がこの旅の舵取りをしているので、私に内緒で行動するとなると、かなり制限されるだろうし。


―――もしかしてドラゴンは子供に対して淡泊なのかな


普段の、じゃれ付いてくるレンへのシグラの態度を見る限りそうでもないと思うが、子供達の事が二の次になっている現状、そう思ってしまう。


シグラに「ライ君達の事を大事に思っているの?」と訊いてみる。

「もちろん、だいじだよ」

即答してくれた。しかし次の句は“だって、彼らは未来のウララの大事な子供だから”だった。やはりシグラは私の事が何よりも一番優先されることのようだ。


「早くライ君達を未来に返してあげないと未来の私が泣いちゃうよ?」

すると“未来のウララも大事だが、今の自分のウララの方が大事”と返って来た。

未来のウララを第一に考えるのは自分ではなく未来の自分だろう、ということらしい。


「頑固なんだから」


確かにいきなり自分の子供だと名乗る子供が4人現れたら、確実に戸惑うし混乱する。そして彼らを無事未来に帰すという途方もない方法を一生懸命に考えて頭を痛めるだろう。

更に、プルソンルラに落としたというパル入りの瓶を回収することも、王宮に乗り込んで賢者召喚の詳細を聞くのも、困難な事に違いない。だけど、だ。


「未来とは言え私達の子供なんでしょう?親として彼らの力になってあげないと……ううん、そうじゃないね」

シグラは子供の力にはなろうとしている。ただ、二の次なだけで。


「私と一緒に、子供達の力になってあげよう、シグラ。人間は、夫婦で協力し合って子育てするものなの」


少し言い方を変えてみる。此方の方が適切だろうから。

シグラは目をぱちくりした後「わかった」とふんわり笑って頷いた。


「でも、うららが、しぐらのいちばんなのは、かえられないからね?」

「う、うん」

少々不謹慎かもしれないが彼の言葉が嬉しくて、頬が赤くなる。


「じゃあ、ちょっといってくるね」


「え?どこに?」

急にシグラがシートから立ち上がった。

「いまから、らいたちを、つれてくる。びめには、まかせておけないから」

「え?」


彼の言葉を私が理解する前に、シグラは身を翻してバスコンから飛び出して行ってしまった。


「ええ?!待ってシグラ!外、嵐だよ!?」


慌ててレンをシートに座らせて追いかけようとしたが、檻の結界が張ってあってバスコンから出る事ができない。

「シグラー!危ないから戻っておいでー!」

必死に声を出したが、嵐の音で聞えないのか、彼は翼を出して飛んで行ってしまった。


私はあわあわしながら、ひたすらに結界を叩く。

「ど、どうしよう……こんな嵐なのに、シグラにもしものことがあったら……」


半泣きになっていると「お母さん」とスカートを引かれた。


「怒らないであげて。お父さんは一生懸命なだけだよ」

「え?怒ってないよ、心配して……」


眉を八の字にして今にも泣きそうになっているレンの顔を見て、ハッとなった。

余裕のない私の姿は、子供から見たら怒っているように見えるのかもしれない。


深呼吸をして努めて平静を装い、しゃがんでレンと目線の高さを合わせた。


「怒ってないから、安心して?」

「本当?お父さんの事、いつものように、ちゃんと撫でて褒めてあげてね」


……未来の私達、子供の前で何やってるんだろ……

一瞬真顔になりかけたが、にこりと笑って「うん」と頷いた。


レンがぎゅっと私のスカートに抱きついた。

結界が発動しないのは、この子が私の子供だからだったんだなあ、と実感した。



ダイネットでトランプマジックをしながらシグラの帰りをレンと待っていたが、ふわあ、とレンが欠伸をした。

時計を見ると、そろそろ寝る時間だった。

「もう遅いから、レン君は寝る支度をしようか」

「うん!」


レンはアウロ達がバスコンにいた時に一緒にシャワーを済ませていたので、寝床を整えるとすぐに寝ても良い状態だ。ダイネットのテーブルを綺麗に片付けると、ベッド仕様にして布団を敷いた。

「此処で寝るの?」

「そうだよ。雨の音凄いけど、眠れそう?」

「……わかんない……」

「だったら……」


添い寝して背中をぽんぽんと叩くと、あっという間にこてんっと寝落ちしてしまった。……血筋か。



それから暫くレンの寝顔をぼーっと眺めていると、外が嵐以外の音で騒がしくなったのがわかった。

窓から外を見ると、シグラが戻って来たようだった。……子供達の入った、檻の結界を抱えて。


「あっ」


シグラの方に何人かの男性が駆け寄って行くのが見えた。

シグラが飛び出して行った時に私が騒いだから、納屋に泊まっていた他の御者達が起きていたようだ。そして今、檻の結界の中の子供達を見てただ事ではないと思ったのだろう。


「ごめんなさい、何でもないんですー!お騒がせして、すみませんー!」


シグラがバスコンの方の結界を解除したので、私は慌てて外に出てシグラ達に駆け寄った。



■■■



寝室をラウンジ仕様にし、私とシグラ、ライ、コウで緊急会議をしていた。

ちなみにキララとリュカは先程の騒動にも拘らずずっと夢の中だったので、バンクベッドに寝かせておいた。


「あー……、やっぱりバレたんだ?」

「隠す必要ないのに変に隠すから、拗れるんですよ」

コウが呆れたような声を出し、ライは冷たい視線でシグラを見ていた。


「一応確認しておくけど、ライ君達は未来から来た私達の子供で間違いないんだね?」

改めてライとコウの顔を眺めた。シグラに瓜二つなレンはその顔だけで説得力があるのだが、この2人は私にもシグラにも似ていない。私の両親にも似ていないし、何なら祖父母にも。シグラの方の親戚に似ているのだろうか。


ライとコウは顔を見合わせた後、私の方に向いて頷いた。


「はい。シグラさんに黙ってろって言われたので、黙っていました」

「ウララ先輩が戸惑うだろうからって黙ってたんスよ。悪気は無かったんで、シグラさんの事許してあげて下さい」

「別に怒ってないよ」

私の隣に座っているシグラはほかほかしている。嵐でびしょ濡れだったので、問答無用でシャワールーム送りにしたのだ。

「……シグラに隠し子がいるのかと思った時は、心臓止まるかと思ったけど」

「っ!?うらら、そうなの?」

シグラはこの世の終わりのような顔をして「ごめんなさい」と謝ってきた。


そんなシグラを見てライは溜息を吐いた。

「隠し事をするなら完璧に隠し通すべきだと思う。良心の呵責に負けるくらいなら、最初から隠すべきじゃなかったんだ」

彼はちょっとシグラに対して棘のある言い方をする。中学生だし、丁度反抗期なのかな。


「シグラさんに関しては、女性遍歴はウララ先輩のみだと思いますよ。ドラゴンは、番以外は本当に興味ない種族だからさ」

「シグラに関しては……って?」

妙な言い回しで引っかかっていると、言った本人のコウは「あ、やべ」と口に手を当てた。そんなコウに軽く肘打ちして、ライが「実は……」と話してくれた。

「……うちの父は母以外の女を番にしています」

「へ?」

本気で心臓が止まるかと思った。

身体から力が抜けた私を、シグラが「しなないで!」と半泣きで抱きしめる。


「ライ、言い方があるだろ!」

「いやでも事実だし」

「ぐふっ!」

「きをしっかりして、うらら!」

追加ダメージを喰らわせるのは本当勘弁してほしい。


「これはあくまで自分達の両親の事だから、気にしないで下さい」

「ライ君達の両親って私達でしょ?」

「僕らの知る過去とこの世界はかなり変わっているんです。もう別の世界だと言って良い程に。シグラさんから聞いてませんか?」

「みらいのできごとは、らいたちが、いままきこまれている、もんだいと、かんけいないとおもったから、はなしてない。しぐらも、あまりくわしく、しらないし」

「えっと……それって、未来的には大丈夫なの?」


もしかして私達の行動次第ではライ達が消える事もあり得るのでは。

それとも多世界解釈のように、私達の世界が変わってもライ達の世界には影響しない?


わからない……パルに訊けば何かわかるかもしれないけど……。


「……一応聞いておきますか?うちの両親と番の話」

「え……うん」


ライの申し出に少し迷ったけど、聞いておかないとモヤモヤすると思ったので、頷いた。



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