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ジュリの街

「目が痛い……」

泣いたつもりは無いが、涙が出ていたらしく、目の辺りが痛い。


昨夜は子供達を巻き込んで大騒ぎをしてしまった。

リュカには頭を撫でられるし、レンにはぎゅうぎゅう抱きしめられるし、大人として恥ずかしい限りである。

「はあ……」

そしていつの間にか眠っていたみたいだ。私にはきちんと布団を掛けられていて、リュカは私の傍でいわゆる“ごめん寝”状態で眠っていた。シグラは階段に座ったまま上半身だけ寝室に入れて寝落ち、レンはそんなシグラの頭を抱きかかえるようにして眠っていた。

カオスすぎて、どうしたら良いのかわからなかった。


呆然としているとシグラが身動ぎして、レンを乗せたまま起き上がった。

シグラも寝起きでぼーっとしていたが、「おはよう、シグラ」と声を掛けると、目をぱちくりさせた。


「しぐら、いつねたんだろ……。きのう、どうなったんだっけ?」

「……さあ……?」


その後レンとリュカも起きたのだが、2人とも昨夜は寝惚け状態だったらしく、さっぱり覚えていなかった。

大人の沽券に関わることなので、有り難かった。

朝ごはんには2人の食べたい物を作ってあげようと思う。



朝食を済ませると、私は移動を開始しようと運転席に座った。

ちなみに朝食はレンとリュカのリクエストでパンケーキだった。


「ジュジラの街はまだ閉鎖してるのかな?」

「うん。まだしてるみたいだよ」

懐中時計の通信機にメッセージがあったのか、シグラがそれを見て頷いた。

「だったら、まだこの村にいても……」

「それは止めておきましょう、ウララ先輩」

コウが真面目な声で言う。彼は今ダイネットでキララとククルアに将棋のルールを教えている。将棋やチェスなら目の見えないククルアでも出来るだろうと思ってのことのようだ。


「何処に行こう。アガレスさん、聞えてますか、アガレスさーん」

「聞こえておるよ、移動するんじゃろう?そうじゃのう、そろそろ嵐が来そうな雰囲気じゃ、あんまり人里から離れるのは推奨せんぞ」

嵐かあ。

「しぐらが、けっかい、はるから、だいじょうぶ。うららの、すきな、ばしょに、いけばいいよ」

「駄目駄目、シグラに負担掛かるところは駄目」

かと言って、ジュジラの街の門の前で待機もあまりしたくない。あそこはスラム街があるので、小さな子供連れで行くのは危ないだろう。人から預かっている子供なのだから、余計に気を付けなければいけない。


「一番近くの集落に行くかのう?この辺りは村が多いようじゃが」

この周辺はジュジラの街の穀倉地帯なので、村が多いのだろう。だが、村は駄目だとコウが反対した。

「変な風習があったら困るからね」

「村以外となると……うーむ。儂では調べきれぬ」

「あ、すみませんアガレスさん。こっちで調べてみますね、ありがとうございました」

アガレスは物知りだからついつい頼ってしまうが、彼はパルとは違う。その都度いちいち調べてくれているのなら、申し訳なかった。

実体が来てくれた時には、きちんとお礼をしなければいけないな、と思う。


村の門の手前で車を停め、地図を広げた。


「シグラとコウ君は文字読める?」

2人は「うん」と頷いた。

「だったら、町を探してほしいんだけど」


彼らは暫く地図を眺めた後、同じ場所を指さした。


「そこは?」

「ジュリ街って書いてあります。軍隊を示すマークがあるんで、多分兵士の為の街じゃないかな?」

赤い馬の絵が描いてあるが、これが軍隊のマークらしい。

ジュジラの街で戦いが起こった時に、後詰め(予備軍・援軍)を出す為の場所なのかもしれない。


兵士の質によって、街が規律が取れているのか荒れているのか二分されるけど……。

治安の悪そうな街だったら、また移動すればいいだろう。



■■■



車を走らせること30分でジュリの街に到着した。ジュアの村に比べると物々しい雰囲気だが、それよりも異彩を放つものが街の中央にあり、物々しさなど些末な物に感じられた。


そこにはギリシャのパルテノン神殿のような建物が建っていたのだ。


「聖女の神殿らしいですよ」

そう教えてくれたのはアウロだった。

手ごろな宿屋を見つけられたので、アウロが手続きをしに宿屋へ行ってくれたのだが、そこで色々と聞いてきてくれたようだ。

「「聖女!?」」

アウロの言葉に喰いついたのは、キララとコウだ。2人は目をキラキラさせながら会ってみたい!と言いだした。


「姉、姉!神殿行こう、神殿!」

「えーっと。アウロさん、神殿って精霊教会のようなものなんでしょうか?」

精霊教会には出来るだけ近寄りたくない。

「精霊教会とは違います。地球で言う所の病院のような場所で、恵まれない人には低価格で治療を施しているんです。運営費は寄付で賄っていると記憶しています」


おお、まさしく聖女。


「傷を癒す聖女は戦士たちの憧れの的なんですよ。なので、この街のように兵士が多い街はじゃんじゃん寄付が集まるので、神殿がよく建っていますよ」


……結構俗っぽい理由……。


ありがたみが薄れてしまいそうだから、あまり深く考えないようにしよう。


「先々行っちゃ駄目だよ、キララ」

暴走気味のキララとコウを先頭に、私とシグラ、ライ、レン、リュカ、ビメの8人で神殿への道を歩く。

ロナ、アウロ、ククルアの3人は留守番として車に残った。理由はそれぞれロナが作業の為に馬車に残るのでアウロも残ると言い、ククルアはあまり外に出たくないというものだ。ククルア曰く、兵士の街なので過酷な訓練でもしているのか、至る所で痛々しい意識が漂っているそうだ。


「うららも、しぐらから、はなれちゃだめ、だよ」


私達は手を繋いでいたのだが、シグラは腕を組むように催促してきた。

物騒な気配でも感じ取ったのだろうか?

断る理由も無いので、シグラの腕に自分の腕を絡めた。


「ほんとうなら、だきあげて、あるきたいんだけど……」

「うーん、街中でそれは流石に恥ずかしいから、別の機会の時にしてくれる?」


苦笑して返すと、後ろからライが「嫌なら断らないと駄目ですよ」と声を掛けて来た。

「ドラゴンはすぐに図に乗るんですから。はっきり言わないと、振り回されて疲れますよ」

「そ、そうなんだ。でも大丈夫だよ、嫌なわけじゃないから」

「なら良いです。……先輩たちの仲が良くないと僕も困りますし……」


彼はぷいっと顔を背け、キララとコウの所に走って行ってしまった。


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