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穀倉地帯・ジュアの村

ドラゴン騒ぎで暫くジュジラの街の門が開かないとアガレスから聞いた私達は、此処から一番近い集落へ向かう事になった。

寝る場所には困らないが、食料を確保しなければならない。

何せ、シグラ同様、ライ達はかなりの大食いなのだ。手持ちのものでは到底足りない。


昨夜、交尾の誘い云々の話があったので、少し気まずい雰囲気になるのではと身構えたのだが、今日もシグラは助手席で膝の上にレンを座らせ、普段通りにこにこ笑っていた。

あまり引き摺らないタイプなのだろうか?だったら、私も普段通りにしないと。


ダイネットからは軽快なメロディーが聞こえてくる。キララとコウがゲームをしている音だ。

この車には私とシグラ、キララ、コウ、レン、ククルアが乗っている。ロナは馬車で作業をしていて、アウロはその傍にいる。リュカは馬車の二階でライとビメに遊んでもらっているらしい。


「ウララ先輩、ウララ先輩。ずっと気になってたんスけど」

コウがルームミラーを指さした。

「それ、お守りか何かっスか?」


それは紐で括られ、ルームミラーに吊るされた青い鳥の人形だった。最近になってが吊るされるようになったのだが、実は私も気になっていた。……だって、確かに色は綺麗なんだけど、人形にしてはあまりにもリアルすぎて気味が悪かったから。


「キララでしょ、これ吊るしたの」

キララは雑貨屋巡りが好きなので、今回もそれだろうと思った。だがキララは「私じゃない」と首を振った。

「えー?じゃあ、誰が……」


ふと隣を見ると、「あ」という顔をしたシグラがいた。


「シグラが吊るしたの?」

「うん、わすれてた」

忘れない様に視界の範囲内に吊るしたらしいが、その気遣いも虚しくすっかり忘れていたらしい。

「それで、これは何なの?」

「ぶに、だよ」

「ぶに?」

ぬいぐるみの名前か何かだろうか。


「これ、しぐらのおとうとの、ぶにだよ。すてるか、もっていくか、うららにきこうとして、わすれてた」

そう言えばシグラにはブニという弟がいると聞いたっけ―――


「「「……って、はあ!?」」」


私・キララ・コウの声がハモる。


「シグラの弟?じゃあ、この鳥(?)はドラゴンなの?というか、人形じゃないの?生きて……るの?」

「どらごんだけど、あぶなくないよ。しんぞうが、はいになってるから、すうねんは、うごかないから」

「サラッと怖い事言ってる……!」


私の“怖い”という言葉にシグラは慌てて「かしじょうたいだから、しんでないよ?」とフォローをした。十分物騒である。


シグラの膝の上に居たレンの手によって、紐で括りつけられていたブニは救出された。

何故鳥になっているのかなどの事情はまたシグラに訊くとして、取り敢えずシグラの弟さんなのだし丁重に扱わないと。


「これどうするの?」

そう言って首を傾げるレンに「てきとうに、あつかっても、しなないよ」とシグラが答える。


「……後できちんとした寝床を作るから、今はせめてタオルで包んであげて」

はあ……と溜息が出た。



■■■



ジュジラの街から一番近い集落は、街ではなく農村だった。広大な麦畑と葡萄畑に囲まれ、こじんまりと人家があるような、そんな場所だ。恐らくジュジラの街を支える穀倉地帯だろう。


村にも門はあり、そこでアウロが身分証を見せた。身分証提示は代表者だけで事足りるようだったが、何故か門番は私とビメをじっと見て、身分証提示を迫って来た。


「ど、どうしよう。私は身分証があるけど、ビメさんは……」

私があたふたとしていると、ビメはとても落ち着いた様子で門番と話しだした。

何を話しているのだろうと気になっていると「どうやらビメさんは身分証があるそうですよ」とアウロが教えてくれた。


―――あったんだ!?


ビメは身分証は持ち歩いていないので、子爵領のキーグに問い合わせるようにと話していたそうだ。彼女はシグラの教会の面倒もみているし、人間と接する機会が多いからか、妙に場なれしている気がした。

それにしても、どうしてキーグなのだろう?キーグと言えばビメと初めて会った街の名だけど……。


「考えたくないことだけどさ、その身分証って……」

「……うん。ビメさんの事だから、どっかで奪ってきたんじゃねえのって、俺も思った」

馬車の二階から降りて来たライとコウがひそひそ話している内容が聞こえて来たが、……まさかね。


「やれやれ、村に入っても良いそうですよ。しかしいくつか注意事項がありまして……」

少し手間取ったものの、無事村へ入る許可を貰う事が出来た。アウロはバスコンへ入ってきて、門番に言われたことを色々と説明してくれた。


まずは村の代表に会ってくれとのこと。

「貴族として入ったわけではないのに……」

「この村特有の風習のようなものでしょうね」


そしてこの村には宿屋は無く、滞在するなら村の代表の家になるそうだ。

「あの黒い屋根の屋敷が代表者さんの家だそうですよ」

「わかりやすいですね……」

ざっと眺めただけだが、この村には黒い屋根の大きな屋敷が1軒あり、その周りに小さな家が沢山あるという感じだった。


そして最後に、男性は髪の毛を下ろしている女性には絶対に声を掛けるな、ということだった。

「それってどういう意味なんですかね?」

「その……ウララさんは知らなくても大丈夫なことですよ」

アウロは“ははは”とわざとらしく笑ってお茶を濁した。

言い難い事を無理やり言わせるのも気が引けるので、追求はしない。アウロが知らなくても良い事と判断したのなら、ろくでもない事だろうし。



代表者の家は小高い場所に建っていて、緩い坂を上って行く。

道はとても広いが舗装されておらず、少しがたつく。


「何だか、凄く子沢山ですね」

道すがら、家の内外で洗濯や機織りなどの作業をする女性を見かけた。年頃の女性は必ず1人は子供を連れているようだ。多い人では背中と胸に1人ずつ赤ん坊を抱いて、更に周りに3人の子供を連れている猛者もいる。

「農村や林業を生業としている場所では、そこまで珍しくないですよ。働き手が必要ですからね」

アウロの言葉に「そうなんですね」と頷いた。


やがて黒い屋根の屋敷の前に着くと、サイドブレーキを引いてエンジンを切った。


私達が車から出ると、それを見計らったかのように50代ぐらいの、アッシュグレーの長髪を一つに結んだ女性が屋敷から出てきてお辞儀をした。

「しゃおおおしゃお、しゃおおしゃ。しゃおおしゃお」

「……何て言ってるんです?」

「ジュアの村へようこそ、歓迎いたします。私は代表の母のランティです、と仰っています」

アウロの通訳を聞き、私も慌てて頭を下げた。

「村の代表者に挨拶をするよう言われたのですが、息子さんは御在宅ですか、と訊いてもらえますか?」

アウロは頷くと、ランティに話しかけた。彼女と一言二言会話を交わした後、アウロは少し困ったような顔で「えーっと」と言った。


「代表者さんは昼には戻ってくるのでそれまで屋敷でお待ち下さい、との事です」

「お昼ですか。今何時だったっけ……」

「うらら」

シグラは通信用の懐中時計を取り出し、私に見せてくれた。今の時間は10時過ぎだった。

あと2時間はこのお屋敷で待たされることになるのか……。たかが挨拶一つで面倒な事だ。


「ルランさんもよく街の代表者へ挨拶に行ってましたけど、いつもこんな感じだったんでしょうね」

「でしょうね。でも決まりなら仕方ないですね。さて、私はちょっとロナを呼んできますね」


アウロの背中を見ながら、貴族も楽じゃないなあ、とぼんやり思ったのだった。


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