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愛とは:シグラ視点

時空の概念やロノウェに勧められた数冊の本が、私の手元にはある。

恋愛小説という、人間の番達の観察記録だ。


―――「あ、愛して、るの……」

それはウララが顔を赤くして言った言葉だ。


奴らに勧められた恋愛小説が正しいのなら、交尾の許可という意味で間違いないのだが、どうやらウララの言う“愛”はそういう意味ではないらしい。


『教えろ』

「ひょっひょっひょっ、儂に教えを乞うか、シグラよ」


一寝入りした後、ウララが眠る寝室と私の足に抱きついて眠るレンに防音の結界を張り、アガレスに話しかけた。


『愛とは何だ』

「さてさて、愛には色々種類があるが……簡単に言えば愛は与えるものと良く言うなあ」

『何を与えるのだ。身体か?』

「お主、変な本を勧められておらぬか?」

『……』

どうやらロノウェを燃やす理由ができたようだ。


「そうじゃのう、言ってみれば全てじゃ。じゃからその本も間違ってはおらぬ。見返りなど求めず、相手の為に何かをしてやりたい、喜ぶ何かを与えたいという気持ちはまさしく愛じゃ」

『……』

「何はともあれ、感情など自分で感じて納得するほかない。まずは自分の中の愛を感じてみてはどうじゃ。どれ、折角儂を頼ったんじゃ、物差し代わりの物を提示してやろう」

『何だ』

「結界じゃ。ドラゴンは皆結界を張る事ができるゆえ、イメージしやすかろう。そしてそれは、張るべきだと望むと発生してしまうものじゃ。それこそ見返りを求めない愛といえる。さて、いつもどんな気持ちの時に嫁御に結界を張るのじゃ?」

『……ウララを見ていたら、気が付いたら増えている』

最初は増える度に結界を見る事が出来るアウロが驚いていたが、今ではもう何も言わなくなった。

「嫁御を見たら、どんな気持ちになる。別に言わんでいいぞ、その感情が愛というものじゃと覚えておくがええ」


色々な感情が混ざって、今にも溢れだしそうな、うずうずする感覚だ。言葉では完璧に再現できそうにない。


『……ウララも私を愛してくれているのか』

私を見て同じような気持ちになってくれているなら、それはとても嬉しいことに思えた。


「愛しておると言われたのじゃろう。それに、先程の結界の話を嫁御にも当てはめたら良い」

『ウララには結界を張る力が無い、参考にはならん』

「結界は張れんが、似たような事はしておろう」

『似た事?』

「お主、心配されておったじゃろう。無理をするなと怒られもした。あれは嫁御がお主を守る為にしておることじゃ。いわば、言葉の結界じゃな」

『言葉の結界?』


ウララに身体を粗末に扱うなというお願いは何度もされてきた。先程もそうだ。

あれが、私を守ろうとする言葉?


「……例えばお主、ブニに数年間は動けぬ程の痛手を負わしたであろう?姿も鳥にしてしもうた。お主がそのブニと同じ状態になっても、嫁御は今と変わらず何年でも何十年でもお主の傍に居てくれるかのう?そしてそこに見返りを求める気持ちがあると思うか?」


ウララの事を思い浮かべる。


『ウララなら私の傍に居てくれるだろう。それどころか、毎日飽くことなく世話をしてくれるのが容易く想像できる』

そこに見返りを求める気持ちは……きっとない。

『夫の世話をするのは当たり前だと、やつれた顔で彼女なら軽く言いそうだ』


ひょっひょっひょっ、とアガレスが笑う。

「ともすれば、独りよがりの考えと笑われそうな答えじゃ。じゃが、あの嫁御なら真実その通りにしそうじゃのう。……そして、そこまで淀みなく答える事がでるのは、お主に嫁御の愛が浸透しておる証拠じゃ。お主は気づかんうちに嫁御の結界に守られておるぞ」


口元を抑えた。


「お主は嫁御に大事にされておる。嫁御に何か見返りでも求められた事はあるかのう?」

『なにも……あ』

一つだけあった。見返りなのかどうかわからないが。


『責任をとれとは言われた事がある。身体に沢山触れた責任をとって、結婚して欲しいと。……これは妖精草の騒動前の話だ』

「ふむう?それは見返りかのう?儂は爺ゆえに乙女心はよくわからん。それでお主、その時は何と答えたんじゃ」

『……覚えていない。ウララに結婚する相手に自分の初めてを全て捧げると言われ、かなり動揺したのは覚えている』

ウララは甘い言葉を沢山与えてくれるので、あの時の私は幸福過ぎて冷静ではなかった。まあ、幸福過ぎるのは今もだが。しかし、冷静さを欠き結婚話を先延ばしにしたがゆえの妖精草騒ぎだ。ウララの為にも気を引き締めていかねば。


アガレスがまた笑った。

「嫁御の全てを貰う代わりに結婚をしろ、という事じゃな。うむ、これはしっかりと見返りを求めておるわい。この事に関しては愛ではないのう」

『そうなのか』

「どういう場面で言われたか知らんが、これは恋の駆け引きじゃろうよ。恋とは求める物と言われておっての、お主が欲しいゆえの言葉よ。それで、お主は凄く嬉しかったんじゃろう?」

『ああ。仮にウララが本気で無かったとしても、その言葉だけで十分だ』

「何を言うておるんじゃ、15年後には4人も子がおるくせに。きちんと嫁御がお主に好きにさせておる証拠じゃ」

それもそうか。

これに関してはまるで想像がつかない。まだ未知のものゆえか。

「何じゃお主、めちゃくちゃ幸せな生活を送っておるようじゃな」

『それは認める』


ひょっひょっひょっ……

アガレスは一頻り笑い、ところで、と話を切り替えてきた。


「話は変わるが、外が何やらおかしいぞい」

『寝る前にドラゴンの気配を感じたが、それに関することか?』


アガレスは「おそらくのう」と肯定する。


「成体のドラゴンが15頭おるぞ。気配を感じぬか?」

15か。人里でそれは多い。

『檻の結界を強化しているから、外の気配は遮断しているのだ。……そう言えば強化前にビメが何も見えないが気配だけはすると言っていたが、おかしな能力を持ったドラゴンの可能性があるな』

「儂は目で見るのではなく、音の反射で物体を把握しておるからのう。じゃが、なる程、見えておらんのか。海岸には多くの人間がおるのに、誰一人としてドラゴンに気付いておる様子がないから、おかしいと思ったんじゃ」

あとな、とアガレスが言葉を続ける。

「ドラゴン共を指揮しておるのは人間の女じゃ。どうやら、15頭のドラゴンと番関係にあるようじゃぞ。そんな事出来るんじゃなあ」

『何だと』

そんな事は、早々にない。まずはドラゴンの雄同士が雌の奪い合いを始める。その際、雌が争うなと命令すれば奪い合いは止めるかも知れないが、そもそもドラゴンの雌は複数の雄を番にはしない。ただでさえドラゴンの雌は自分よりも弱い存在(番の雄)を近寄らせる事を嫌うのに、それが複数となると耐えられないだろう。

しかしこれはドラゴン同士の番の事情だ。異種の番ならば、あるいは。


―――≪あの女、は、すでに多くの、番を所有して、おります≫


ブニの言葉を思い出す。

『……アガレス、その女の名はわかるか?』

「ちょっと待っておれ。…………、キャリオーザという名じゃな」


キャリオーザ、一応覚えておこう。それがブニの番ならば、ウララに危害を加えてくる可能性のある者だ。


早急に殺したいところだが……。


寝室の方からは気持ちの良さそうな寝息と心音が聞こえてくる。起こすのは可哀想であるし、かと言って、彼女を置いては行けない。アウロとククルアを車から締め出してウララをここに置いて行くのも手だが、これをやるとウララに怒られる。


仕方ない、放置だ。


それに海岸にはビメのせいで人間共が集まっている。そこで戦闘などしたら更に大騒ぎになるだろう。

きっとウララが望むことではない。


足元にいるレンの首根っこを掴んで枕元に寝かせ、私も並んで横になる。


「放っておくのか?」

『ああ。何か危険な予兆があれば報せろ』

「年寄り使いが荒いのう」


それにしても、人間は複数の番を得る事もできる種族だったのか。

ウララが全くそのような素振りを見せないから、一夫一妻だと思っていた。

ウララはいつも真っすぐに私を見ている。


……多分、またウララに張っている結界が増えただろうな。



■■■



「シグラー、朝だよー」

目を開けると、オレンジのストライプ柄のワンピースを着たウララがいた。


あれからアガレスもビメも何も言ってこなかったので、何も危険な事は無かったのだろう。少し檻の結界を緩め、気配を探れるようにする。特にドラゴンの気配は感じなかった。


「私、今からキララとリュカちゃんの支度を手伝うから、その間にシグラも服着替えて。こっちの支度が済んだら、シグラの髪の毛とリボンタイ結んであげるね」


伸びをしながら「わかった」と返事をする。

と、その前にだ。

「うらら、おはよう」

彼女の腕を引き、頬に口付けた。


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