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ジュジ辺境伯爵領

ドラゴンのケンカの仲裁に行ったシグラが、気を失った3人の子供を抱えて戻って来た。騒ぎに巻き込まれた被害者だそうだ。


金髪の中学生くらいの男の子2人と幼稚園児くらいの赤みを帯びた金髪の女の子。

男の子達は何と言うか……凄く見覚えのある校章がついた制服とジャージを着ていて、女の子の方は浴衣を着ていた。


シグラが言うには、ジャージを着ている子がライ、制服を着ている子がコウ、女の子はライとコウの妹でリュカという名前らしい。

シグラは少しだけライと会話したそうだ。極度の疲労と助かったという安堵で気が抜けたらしく、すぐに目を回してしまったらしいが。


3人は泥まみれだったので、アウロの風魔法でそれを綺麗に払い、今はバスコンの寝室に寝かせている。


「あの男子の服の校章、近所の中学校の校章に似てなかったか?」

「あ、やっぱりそうだよね。私もそれ思ってたところ」


キララの言葉で確信した。やけに見覚えがあると思ったが、私が3年間通った中学校の校章だ。つまりこの男の子達は実家の近所の子達なのだ。


「中学生が異世界召喚か。完全にお助け下さい勇者様パターンじゃないか。しかも金髪だぞ……何だか負けた気がする。私らはごく普通の黒髪小学生と社会人ペアだからな」

「何に負けたんだか。取り敢えず移動を開始するよ」


シグラによって締め出されていたアウロとルランとククルアを呼び戻し、私は車のエンジンをかけた。



■■■



ジュジ辺境伯爵領に入ると、カラフルな木々が出迎えてくれた。こんなカラフルなモノはゴーアン侯爵領では見かけなかったので、恐らく南の地方だけで生育している植物たちなのだろう。


ちなみに関所を越える時、身分証を持たないレンには意識を失っている子供たちと共に寝室に隠れてもらった。王宮から承った任務中なので、提示する身分証は代表者のものだけで事足りるから大丈夫だとルランに言われたが、まあ一応。

後でまたルランに頼んでこの子達の身分証を作ってもらわないといけないだろう。


さてジュジ辺境伯爵領だが、舗装されている道からゆらゆらとした陽炎が見えた。

アルク伯爵領やガビ子爵領は標高の高い場所だったので、そこまで暑くなかったが、ジュジ辺境伯爵領は夏真っ盛りだ。


しばらく走ると、海が見えて来た。


「姉、水着あったっけ?」

「あるよー。でも浮き輪はないよー」


キラキラと水面が輝き、空には入道雲がある。ああ、夏だなあという光景だ。

「浮き輪ないのかー」

少しがっかりするキララ。水着も川遊び用に持ってきただけだから、浮き輪なんて考えてもいなかったよ。


「はしゃいでいる所悪いけど、暫くは遊べないからね」

「どうしてだ?ノリが悪いぞ」

「どうしてって、ルランさん達を送って行って、そのあとに暫くの滞在先も確保しなきゃだし。買い出しとかも……」

とにかくやる事は多い。

それにドラゴンの喧嘩に巻き込まれたと言う中学生達のケアも必要だろうし、そもそもこれから危険な場所に行くルランの傍で陽気に浮かれる気にはなれない。


キララにぶーぶーと言われつつ、暗くなる前には目的地であるジュジ辺境伯爵家の御膝元・ジュジラの街へと辿り着いた。同じ辺境伯爵家の御膝元ノルンラの街も城郭都市だったが、ここも似たような物のようだ。

ただしここは海があるので、山間の重厚なノルンラと比べれば陽気な雰囲気だった。


そして、ノルンラとは違う物がもう一つ。門の前にちょっとしたスラム街のような物が出来上がっていた。


街に入る順番待ちをしている間に何となく観察をしていると、アウロが「多分難民ですね」と教えてくれた。そう言えば南の方は群雄割拠地が近いせいで難民が多いと、フラウに居る時に聞いたっけ。


街に入る手続きは簡単に済み、私はアウロに「大通りをまっすぐ進んで下さい」と指示された。


「大通りの先に支部があると、ルランさんが。ウララさんさえ良ければ、滞在期間中はそこを使ってくれと仰っています」

「え?」


滞在先はルラン達を降ろしてから適当に探そうと思っていたのだけど……。

そして案内されたのは、見るからに豪華そうな屋敷が多く立ち並んでいるエリアだった。ここにはジュジ辺境伯爵の身内や寵臣達の屋敷もあるらしい。そんな場所に建つ、青い屋根の大きなお屋敷の前で一旦車を停めた。


「お、大きいですね」


ルラン達の任務に関して、ジュジ辺境伯爵も王宮からルランに手厚い支援をするようにと命じられているそうだ。それにジュジ辺境伯爵にとっては多民族に襲撃を受けているのは他でもない自分の領地なので、言われなくとも支援は惜しまないつもりらしい。


それにしても、こんな一等地のお屋敷を貸し出すとは。


「我々が使うだけではないですから。支部としてゴーアン家の兵士が数名詰めて連絡のつなぎなどをするそうですよ」

私が気後れしている事に気付いたのか、そうアウロはフォローしてくれたのだが……。

「私達、邪魔になりませんか?」

そもそもフラウの屋敷を出たのだって、何もせずに滞在するのが後ろめたかったからだ。

仕事の邪魔など、とんでもないことである。


「姉はフラウから此処まで運転手として働いただろ。暫くは休日だと思えばいいんじゃないか?」

「そうですよ、ウララさん。長旅お疲れさまでした、ゆっくりと休んで下さい」

「う、うーん……?」

キララとアウロに言い包められているような気がしてならない。

だがキララ達の後ろでルランが困ったように笑っているのに気が付き、一旦引き下がらざるを得なかった。あまり騒いでもルラン達の迷惑になり兼ねないだろうから。


でも罪悪感が溜まって来たら、何か仕事をさせてくれと頼もう。正直、私が耐えられない。



■■■



馬車用の小屋に駐車し、私達はマレインに先導されて屋敷の中に入った。


ちなみにバスコンの寝室に寝かせている保護した3人はそのままにしてある。シグラが車に檻の結界を張ってくれたので、熱中症などの心配はないだろう。念のために“シャワーやトイレはお好きにどうぞ、水やお菓子類は好きに飲んだり食べてもらって結構です、待っていて下さい”という旨の手紙も置いてきたから、大丈夫だろう。


屋敷には5人の使用人が既に入っていて、整列して私達を出迎えてくれた。内訳は、1人が執事(60代の灰髪の女性)、1人がコック(40代前半のオレンジ髪の大柄な女性)、3人が家事使用人(10代後半~20代前半の女性達)である。全員女性なのは、男性が多い場所に私を置く事を嫌うシグラに配慮した為のようだ。

ただ、庭師など常駐しない者達の中には男性もいるらしいけど。


執事はリグンと名乗り、屋敷の案内をしてくれることとなった。


屋敷は2階建てで、1階は大広間や応接室や晩餐室など、来客を持て成す為の部屋ばかりのようだ。

「この辺りは兵士さん達が使う事になりそうだね」

大広間は本来ならパーティーを行ったりする場所なのだろうが、今回は会議室のようなものになるだろう。

2階には寝室や書斎などがあり、住人用のプライベート空間だと教えて貰った。

主人の部屋が一番大きく、リビング、書斎、バスルームも完備されていて、フラウのゴーアン家の屋敷で使わせてもらった部屋並みの大きさがあった。

主人の部屋以外の部屋は4つ。主人の部屋に比べると狭いが、それでも私からするととても広く、寝室と書斎とバスルームは必ずセットになっていた。


また、屋敷の傍には使用人の住居用に建てられた別棟があるそうだ。だが屋敷の地下に使用人の居住スペースがある為、別棟は今は使われていないそうだ。屋敷の地下と言えば、厨房やランドリールームなどは全て地下にあるらしいけど、そこまでは案内されなかった。屋敷の住人や客人が立ち入るような場所ではないそうだ。


「ここからだと、別棟は見えませんね」

2階の窓から外を見るが、別棟は木々で隠され、屋敷の窓からは見えない様になっているようだ。

「別棟は兵士さん達の住居にする予定だとルランさんが仰っていますよ」

「え?屋敷の2階の部屋を使われないんですか?」

「2階の部屋は我々が使うようにと、ルランさんが」

「うっ」

胃が痛くなって来た。

申し訳なさメーターが徐々に上がっていく。お仕事をしている人こそ、快適な空間で暮らして頂きたい。


「あの、アウロさん。私は屋敷ではなく別棟の方にいさせてもらえませんか、とルランさんに言ってもらえます?」

「ウララさんなら、そう仰ると思いました」

アウロは苦笑しながら、ルランに伝えてくれた。

ルランも或る程度私の小市民さを理解してくれていたようで、屋敷にも一部屋だけ私達専用の部屋を用意するのを条件に、別棟に滞在する許可をすんなりとくれた。


屋敷を一通り案内され終わると、今度は別棟に案内してくれることとなった。


別棟も二階建てだが、屋敷のように一階の天井が高くない為か、屋敷に比べるとかなり高さが低い。

とは言っても、中に入ると日本の家屋よりも余程広く感じた。少なくとも日本の私の下宿先のアパートよりは……。

別棟の1階には食事をとる為の食堂、厨房、貯蔵庫、ランドリールーム、浴室があった。食堂は20畳程度の広さはありそうだ。

2階は6畳程度の部屋が4つあり、10畳程度の部屋が1つある。6畳部屋にはそれぞれに二段ベッドと机が備え付けられていて、10畳部屋には大きなベッドが一台と机、そしてソファセットがある。更に10畳部屋にはバルコニーがあった。


階段の傍には更に上へ繋がる階段があり……。


「おお!屋根裏部屋がある!私、此処の部屋がいい」

「しゃおしゃお!」

「え?ロナも此処がいいのか?」


屋根裏部屋は元々物置として使用される想定だったらしく、此処にはベッドは無いとのこと。しかしキララは気にしないのか、ロナと共に屋根裏部屋へと行ってしまった。まだまだこう言う所が子供だなあと、ついついほのぼのと見てしまう。だが、そんな余裕もすぐになくなる事となる。


「ウララさんはシグラさんと同じ部屋を使われるんでしょう?でしたら、広い部屋をどうぞ」

「え?」


アウロに言われて、ハッと気づく。


「き、キララー!お姉ちゃんと一緒の部屋にしようよー!」

呼ぶと、屋根裏部屋へと繋がる階段にキララが座った。

「えー、私は屋根裏部屋が良いぞ」

「でも!」


今まではキララもいたので、シグラと同室でも何とか乗り越える事ができたのだ。それがキララ無しとなると、とてもじゃないが緊張して寝られる気がしない。

かと言ってシグラは私の傍から離れたがらないだろうし。


「じゃあ私とシグラも屋根裏で寝る!」

「悪いな姉。ここは2人用なんだ」

「いじめっ子が良く言うセリフ!」

と言いつつも、別に意地悪でキララが言っているわけではないのはわかる。屋根裏部屋はそこまで広くなく、此処に大人2人が加わるのは流石にキツいだろう。


「まあまあ。ベッドは別々にすれば良いですし、何なら天蓋付きのベッドを用意してもらうという手もありますよ」

天蓋付きのベッドなら、カーテンで区切られる。バスコンでの寝室と然程変わらないだろう。

……でも、わざわざ用意してもらうのも心苦しい。でも……でも……!


「……じゃあ、お手数ですがそれでお願いします」


あまり我が侭は言いたくないが、こればかりは仕方がない。ルランに頭を下げると、彼は恐縮したように頭をぶんぶんと縦に振った。


「うらら」


「どうしたの、シグラ。部屋を勝手に決めちゃったけど、別の所が良かった?」

シグラは“ううん”と首を振った。

「しぐらは、うららの、そばなら、どこでもいいよ。それでね、れんも、いっしょが、いいって」

シグラの足に抱きついたレンが、甘えるように私を見上げていた。

それがとても可愛くて、思わずポケットの中にあったスマホで写真を撮ってしまう程だった。

キララには見捨てられたが、天使はここにいた。


「私は構わないけど、レン君は男の子だよ?シグラは嫌じゃないの?」

「れんなら、かまわないよ」


態度の軟化もそうだが、シグラはレンの事をとても気に入っているようだ。


少し揉めたものの、部屋割りは決まった。

屋根裏部屋にキララとロナ。

10畳部屋に私とシグラとレン。

6畳部屋の1つにアウロとククルア。(ククルアの目が見えないので、介助が必要だろうとアウロが申し出てくれた)

あと6畳部屋は3つあるが、これは今車で眠っている子供達で分けてもらうことになったのだった。



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