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少しだけ未来の魂達:(後半からシグラ視点)

「大気が不安定じゃのう」


もうすぐジュジ辺境伯爵領だという時。アガレスがそんな事をぼやいた。


「嵐の季節だからじゃないですか?」

「何かのう、作為的な不安定さなんじゃよ」

アガレスの能力は物を振動させる事だ。大気の振動などにも敏感なのだろう。


「シグラは感じんか?」


シグラは助手席で膝にレンを乗せ、2人で手遊びをして遊んでいた。名指しされ、顔を上げると「うーん」と唸った。

「つよい、ちからを、かんじる。たぶん、どらごん。けんかを、してるのかも」

「ドラゴン同士のケンカ?」

シグラは「うん」と頷いた。


「ひとつは、しぐらと、おなじくらいの、ちから。ひとつは、びめと、おなじくらいの、ちから。それと……まだあるみたいだけど、ふたつのちからが、つよすぎて、ここでは、くわしくは、わからない」


ダイネットから「はあ?」とキララの声が上がった。

「シグラとビメのケンカの時は、シグラが一方的に勝ったけど、あれ災害級だっただろ」

あの時はシグラが檻の結界を張っていたので、周りに被害は出なかったが、結界の中はキララの言う通り災害級だったと思う。


「しぐらと、おなじくらいの、ちからは、なんだか、ようすが、おかしい。すごく、おこっているのに、こうげき、してない……あ……」

「どうしたの?」


変な所で言葉が途切れた彼を不思議に思い、横目で見る。するとシグラは目を見開き、宙を見ているようだった。

何かあったのかと車を停め、シグラの頬に触れる。するとシグラはハっと瞬きをした。


「シグラ、どうしたの?」

「……うらら、ちょっと、いい?」


シグラは膝の上にいたレンをダイネットの方へ移し、そして何故か私を抱き寄せた。



■■■



―――この世界に未来から来た子供らがいる


それを教えてくれたのは未来の私だ。

私と同程度の力を感じると思ったが、どうやら少し未来の私の力だったようだ。


未来の私はこの世界に実体はなく、子供に結界と言う形で自身の力を纏わせ、この世界に干渉していたようだ。その力が消えそうになり焦った未来の私が、力を振り絞って私を見つけて今しがた魂に触れてきた。


そのせいで一瞬だけ未来の私と魂が繋がってしまった。強制的に感じさせられたのは、実体がこの世界にないために、満足な援護を子供らに出来ない焦り。そして、子供らを殺しにきているドラゴンへの殺意。あと、ウララの傍に行って抱きしめたいという願望もあった。

……願望の方は早々に満たす。


未来とはいえ、ウララの子供らだ。助けなくてはならない。

私に抱きしめられて目をぱちくりさせているウララに、喧嘩をしているドラゴンの仲裁に行くことを告げる。

彼女は心配そうな顔をした。

「危険じゃない?」

「だいじょうぶだよ。うららは、ここにいてね」


ドラゴン同士の戦いになると、どうしても暴力的なものになる為、ウララには車の中で待っていてもらおう。と言う事で、アウロ、ククルア、ルランは締め出した上で、誰もあの車に入らぬように檻の結界をこれでもかというくらいに分厚く張った。


まあ、一応アウロ達にも結界は張っておく。


「早く帰ってきてくださいよ」と言うアウロの言葉を背に、私は一人で人目のない森へと向かい、そこで翼だけ出して飛翔し、ドラゴンの気配のする方へと向かった。



あれか。


青竜がブレスで木々や地面を抉っている姿があった。周囲に人の気配は無い。ドラゴンが暴れているのだから、当たり前か。子供らはどうしただろうと気配ではなく魂を視て探ってみる。


…………いた


地中10メートル付近に3つの魂が視える。未来の私と情報共有したからか、あれが子供らの魂だと確信できた。

あれくらいの深さだと、ここで私と青竜が戦えば下手をすれば巻き添えを喰らうかもしれない。そして大きな戦闘音で怯えさせるのも可哀想だ。


青竜を子供らから離さなければ。


そう言えばあの青竜には見覚えがある。恐らく弟のブニではなかろうか。何が因果で未来の私とウララの子供らを殺そうとしているのか。


―――まあ、奴の事情など私には関係ない。何があろうとも、ウララの子を殺そうとした事は許されない事だ


ドラゴンになろうか?いや、止めておこう。

今、ドラゴンの姿でブレスを吐いたら、時空に穴が開きそうだ。それくらいに私は怒っている。


腹に力を溜め、ブニに向かってブレスを吐く。ブニは咄嗟に避けたが、翼に穴が開いた。


≪その力、兄上ですか!?≫

≪久しぶりだな、ブニ≫


ブニの目の前にいけば、何故か奴は私に向かって手を伸ばしてきた。

私を捕まえる気か?奴の意図はわからないが、まあ良い、好都合だ。これで楽にコイツを子供らから離れるよう誘導する事が出来る。


≪兄上逃げないで下さい!私の番の命令なのです!≫

≪貴様の番の命令など、知ったことか≫


そろそろ良いだろうか。


くるりとブニに振り向くと、また腹に力を溜め、奴の胸目掛けてブレスを吐いた。翼に穴が開いて動き辛かったのだろう、狙い通り胸にブレスが命中する。しかし、やはり人間の姿でのブレス一発ではそこに穴を開ける事は出来ず、真っ赤に爛れただけだ。


≪ガアアっ!!≫


奴もブレスを吐いてきた。だが渾身のブレスには程遠いヌルいものだ。

そう言えば顔が焦げているので、口元が痛くて吐けないのかもしれない。子供らの誰かのブレスに当たったのか?いや、流石に幼いドラゴンのブレスでブニを傷つけるのは無理か。大方、未来の私の結界で反射された自分のブレスが当たったのだろう。


ブニのブレスを躱し、カウンターのようにブレスを叩き込む。


痛みに呻き、隙だらけになったブニの胸の近くに行くと、赤く爛れたそこに何度も至近距離でブレスを喰らわせていく。穴が開こうとも、心臓が灰になろうとも許さなかった。

心臓が灰になったところで、ブニならば死なないだろうし、そのうち再生させるだろう。ただし、心臓が機能しなくなれば血の巡りが著しく落ち、回復速度も落ちるはずだ。


子供らが無事だったので命まではとらないが、数年は再起不能にする。それで手打ちにしてやる。


ブニは息も絶え絶えに、しかしなおも私に手を伸ばす。


≪ブネ、兄、上……何故……≫

≪シグラという名を番に付けてもらったゆえ、既にブネはいない。貴様が殺そうとしたドラゴンは私の子だ≫


ブニは目を見開くと、震えだした。そして静かに≪私を殺して下さい≫と呟いた。


≪最悪、な番……を、得てしまい、ました。もう、生きているのが、辛い、のです。あ……の、女の、命令とはいえ、兄上の子ま、で襲ったとなると、私は……≫


子供らを殺そうとしたのは、番の命令だったか。

≪どの道、貴様は暫くは動けぬ。その最悪な雌は貴様が死んだと誤解し、他の雄と番うだろう。まあ、真の死別ではないゆえ、貴様を煩わせる番関係は継続状態だろうが。死を望むなら、最悪な雌と新しく番となった雄に殺してもらえ≫

≪あの女、は、すでに多くの、番を所有して、おります。兄、上……おきをつけ、ください。あの女は、兄上を、狙っております≫


……?多くの番を所有?

変なことを言う。ブニは他の夫共を始末しようとは思わなかったのだろうか。私ならウララに触れる雄など許さないが。


それよりも、私を狙いに来ると言う言葉は看過できない。言い換えれば、ウララが害される可能性があるということだ。


―――今からブニの番を殺しに行くか


だが、番がいる場所を訊く前にブニは気を失ってしまった。心臓が機能していないから仕方ないか。コイツが目を覚ますのは、数年後だろう。

長期に渡ってここに置いておいたら勇者に止めをさされるかもしれないが、それはそれでこいつも本望だろう。


……いいや……。

ふとある考えが過った。そう言えば似たような事が少し前にあった。あれは、ビメが攻撃してきた時の事だ。


ビメの時ウララは妹なのだから助けてやれと言っていたが、もしかしたら今回も放置はしない方がいいのではなかろうか。


少し考えたところで、ブニに一滴だけ血を飲ませてやる。虫の息に変わりはないが、頬を叩くと、少しだけ反応した。

≪擬態しろ。人間か、犬か、鳥か。小さいなら何でも良い≫

私の言葉が聞こえたようで、ブニは青い鳥となった。

一応これを持って帰ってウララに指示を仰ぎ、捨てて良いなら捨てよう。


ブニを拾うとアガレスを呼んだ。


「なんじゃい、シグラ」

『子供らに地上へ戻ってくるよう伝えろ。日本語でな』

「子供?はて、何処に居るんじゃ?」

『ここから西に5キロ向こうの地面、10メートルほど下だ』


さて、私も子供らの元へ行こうか。そう思い、とん、と地面を蹴った。



地面が動き、ぽこりと少しだけ地面が持ち上がった。周囲を警戒しているようだ。

「だいじょうぶ、でてきて」

そう声を掛けるとびくりと土塊が動き、金髪の頭が見えた。


私の姿を目に入れたのだろう、ソレは勢いよく飛び出した。

「うあああっ」

涙で濡らした顔は私にもウララにも似ていないが、私に飛びついてくる仕草はウララに似ていると思った。



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