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もう一度、求婚を:シグラ視点

“理由”を全て話すには少し時間が掛かるからと、改めて彼女が選んだのは寝る前の時間だった。

アガレスに口を挟まれたくないので、防音の結界を張り、私とウララは布団の上に座って向かい合った。


そして私は全てを聞かせてもらった。ウララは私の不興を買わないかとおどおどとしていたが、全てを話し終えると、すっきりとした様子になってくれた。


ウララに結婚を約束した人間がいたことは知っていた。そして、反故にされた事も。

それは魔道具に慣れないキララがうっかりとルランに流してきた情報だ。


人間はそれを重く捉えるのか、ルランも今のウララのように遠慮がちに私に話した。私はドラゴンだから、ウララの心が傷ついていないのなら、問題視する事ではないと思った。……しかし、少しでも傷ついているのなら、その男をウララの前に跪かせ、謝らせたうえで八つ裂きにしてやりたいが。


しかしウララは男の事は最早どうでも良く、それよりも私に対して不安を覚えているようだった。


「もしもシグラよりも強い女性が現れたら、シグラはその人と番になりたいと思う?」

「おもわないよ」

絶対にない。断言できる。

「でも……ドラゴンは、強い雌が魅力的に映るんでしょう?」

確かに強い雌に我々雄は求愛し、隷属する。

だから、ウララと番になって間もない頃に心配した。こんなにも弱く柔らかい雌に隷属するのは、私の自尊心が反発するのではないかと。今となっては、全くの杞憂だったが。


「……たとえば、うららは、おうじさまに、けっこんしてって、いわれたら、しぐらを、すてる?」

「え?捨てないけど」

「どうして?にんげんの、めすにとっては、あこがれだって、きいたよ?」

子供(キララとロナ)に、だが。


ウララはハッとしたような顔をして、それから気まずそうに「ごめんなさい」と口にした。

「凄いなって思うけど、結婚したいとは思わない。……だって、私はシグラが……」


頬を赤くして俯いたウララを、衝動的に抱き寄せる。ウララは抵抗せずにそのまま私の腕の中に収まった。


「しぐらも、うららとおなじ、だよ。つよいめすがいても、きょうみが、わかない。だって、うららが、いるんだから」

「……本当にごめんね。ドラゴンは本能が強いから……そういうのに抗えないのかと思って……」

私の胸に顔を寄せたウララは「私はひ弱だから、シグラを引き留める魅力ないし」と頼りなさげに呟いた。

「うらら……」

彼女を慰撫したくて頭に頬擦りすると、石鹸の良い匂いと彼女の甘い匂いが香った。

ウララには何の心配事も無く、幸せでいて欲しいのに。


不安……か。

何かの書物で情報が少ないせいで不安になると読んだ事がある。


「……どらごんのおすは、つがいのめすに、れいぞくする。でも、こころのなかまでは、しばられないよ」


心の中は自由だ。だから白竜は紅竜のことを憎めたのだ。


「ふあんなら、めいじて。しぐらが、うららのこと、どうおもっているのか、きかせてくれって。つがいの、めいれいなら、うそは、ぜったいに、いえない」


最善策だろう。ウララになら、何を知られても構わない。

しかしウララは「できない」と首を振った。


「心の中は、シグラの大切な場所だから。暴く事はできない」

「……!」

心臓がきゅうきゅうと甘く締め付けられ、多幸感に包まれる。


ウララは「ねえ、」と話を続けた。


「もしもシグラより強い雌が現れて、その雌がシグラを番にしようと望んだら、どうなるの?」

「しぐらが、ころされるだけだよ」

「え?」

ウララがぱっと顔を上げる。

「どうして?その雌はシグラの事を望んでいるのに、どうして貴方が殺されるの?私がその雌に殺されるならわかるけど……」


求愛は雄がする事であり、ドラゴンの雌が雄を欲しがる事は滅多にないが、事例が無い事ではない。その際、欲しい雄が既に妻帯者だった場合は、その雄の番の雌と争い、勝った方が雄を手に入れる事が出来る。

だが、私の場合は―――


「しぐらは、うららを、まもるために、そのめすと、たたかうよ。このからだが、うごかなくなっても、さいごまで……」


そこまで言って、ふと思い当たる事があった。なので「ううん、と」訂正する。


「しぐらが、しぬまえに、うららを、くるしまないように、しなせて、あげないと、いけないね」


ウララの目が見開かれる。


「そうしないと、しぐらがしんだあと、うららが、めすに、くるしめられて、ころされるだろうから……」


私を奪う為にやってくる頭のおかしな雌だから、ウララのせいでそれが叶わなくなったと知れば、ウララは残酷な方法で殺されてしまうのは目に見えている。

それならば、私の手で苦しむ間もなく、ウララを死なせてあげなければならないだろう。


また心臓が痛んだ。先程までのきゅうきゅうと締められるような痛みとは違い、ギリリッと痛い。


「……あれ?」


ウララの顔が滲んで見える。頬に何か当たるので、手でそれを拭うと、涙だった。止まらない。

今まで泣くという行動は縁遠いものだったが、ウララと出会って、随分と涙もろくなってしまった。彼女が悲しい目に遭うと想像するだけで、涙が出てしまう。


ぐすっと鼻をすする音が聞こえ、瞬きをして腕の中に居るウララを見る。彼女も泣いていた。


「そんな、悲しい事しなくて良いよ。そうなったら私は自分で死ねるから」

「でも、うららには、くるしんで、ほしくない」

私なら、瀕死の状態であってもウララを綺麗に死なせてやれる事ができる筈だ。

しかしウララはふるふると首を振った。

「苦しんでいるシグラに、更に私を殺させるなんて辛い事させたくない……」


弱い私への罰か、と思った。

ウララは私への慈悲のつもりかもしれないが、私にとっては何よりも一番きつい罰だ。


「そんなことが、おこらないように、もっとつよくなる」

「……うん」


彼女の腕が私の背中に回され、抱きつかれる。だから、私も少しだけ力を入れて抱きしめ返した。


「シグラ……」


名を呼ばれたので、身体を離して涙目で潤んだウララの目をじっと見つめる。

彼女は何度か瞬きして涙を散らした後、微笑んだ。


「私、ちゃんとシグラの事、幸せにしてあげられるかわからないけど、一生をかけて頑張る」

「うん?」


「だから、私と結婚して下さい」

「え?」


少しの間、見つめ合う。そして「けっこん、してくれるの?」と私の口から掠れたような声が出た。

ウララはこくりと頷いた。

だからもう一度はっきりと「しぐらと、けっこん、してくれるの?」と問うと、やはりウララは頷いた。


頬が熱くなる。

正直、人間の風習なので、そこまで重要視していなかった。だが……


目の前の彼女がとても嬉しそうに笑っているから、私もとても嬉しくなる。


ロナに頼んでいる指輪の事を告げると、ウララが勢いよく私に抱きついてきた。


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