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オーロラの夜

見慣れない紋章のついた馬車の前に小さな女の子と、男装の麗人の騎士が立っている。


「姉、姉。めちゃくちゃ可愛い奴がいるぞ」

「あの子、子爵家のお嬢様なんだってさ」

「写真を撮ってもいいだろうか?」

「本人に確認……は止めておいた方がいいか。スマホの事バレたら困るし」


姉妹でこそこそと話をしていると、アウロが「私が訊いて来ましょうか?」と申し出てくれた。

「写真ということは伏せて、簡単にスケッチをしたいのですが良いですか、と訊ねてきましょう」

「おお、名案だ。上手く騙してきてくれ」

「騙すって……もうちょっとマイルドに言いなよ」


子爵家のお嬢様の傍に寄って行くアウロをドキドキしながら見ていると、すぐに彼は話を付けてくれたのか、此方に来るようにと手を振ってくれた。

どうやら子爵家のお嬢様・マディアは、彼女の傍付きの侍女を治療したアウロに好感を持っているようだ。

何だか好意に付け込んだ気がしてソワソワしてしまうが、キララがとても喜んでいるので、見て見ぬふりをしようと思う。


そんなマディア御一行だが、どうやら命を狙われている節があると、ルランから聞いた。その為、予定を大幅に変更し、私達がマディアを子爵家に送り届けることとなった。

ルラン達がそれで良いのなら、私に異存は無い。

しかし既にバスコンは馬車を一台牽引していて、更にマディア達の馬車までというのは流石に怖い。そんな事情により、彼女たちの馬車は関所を越えた先にあるガビ子爵領の街に預け、そこから彼女達には現在マレインやナギが乗っている私達の馬車の方に乗って貰う事にした。


それに伴い、マレイン達は馬車の荷物置き場の方へと移って貰うことになり、今は彼らに荷物を整えてもらっている。

荷物置き場とは言え、まだそこまで積んでないから余裕で2人くらいは眠れるだろう。

……怖い狼(ナベリウス)怖い炎(アミー)がいるけどね。


ちなみにこの馬車の上には5人の傭兵達が入った檻の結界が括りつけられている。彼らは重要な参考人ということで、暫くはこのまま連れて行くことになるだろうとマレインが言っていた。


同行者が8人増えたから、食料を買い足さないとなあ。


マディア撮影会を堪能するキララを見ながら、そんな事を考えていると、スッと影が私に掛かった。

「シグラ?」

「うらら、まだ、おこってる?」

もじもじしながら、彼は私の顔色を窺っている。

「怒ってないよ。ただシグラが心配なだけで」


事の発端は、シグラが傭兵5人を捕らえる為に大きな檻の結界を張った事だった。本人は大丈夫だと一貫していたが、彼の胸に手を当てると、心臓が忙しなく鼓動していた。鼻血こそ出さなかったが、負担が掛かっている事に違いなかったのだ。

なので、無理をするなと懇々と話したのだが、それが怒られているように彼は感じたようだ。


「しぐら、からだ、じょうぶだから。だいじょうぶだよ?」

「丈夫だからって自分を適当に扱っては駄目です」

「ごめんなさい」


しゅんっとしてしまった彼の頭を撫でる。


「穏便に済ませてくれるのは凄く嬉しい。ありがとう、シグラ」

「うん」


頭を撫でられるのが気持ち良いのか、彼は目を細めて私の手にじゃれ付いてくる。

……絶対に反省してないだろうなあ。

シグラは大抵の事は聞いてくれるが、無理をするなという言葉はあまり聞いてくれない。

ただ、彼ばかりを責める事は出来ない。そもそも私のメンタルが紙装甲なのが原因だし。


―――シグラの前で泣いたり、倒れたりしてるからなあ……


私に対して際限なく優しいので、ついつい甘えてしまう。彼の負担にならないように、きちんと律していかないと。



■■■



そろそろ黄昏になる頃。

夕飯の準備を今日も外に整えて、皆でテーブルを囲む。


昨日と同じ寂しい廃村ではあるが、マディア御一行が加わった事もあり、キララとロナは本来の明るさを取り戻していた。……まだ古井戸に近づくのは躊躇っているみたいだけど。


賑やかに食事をとっていると、空がふわっと明るくなる。


「うわあ、何だあれ」

「オーロラみたいだね」

七色にキラキラと光る夜空に釘づけになった。昨日はあんなもの無かったのに、何かの前兆だろうか。


「あれは魔石ですね。誕生日の前夜ということで、伯爵家が行っているのでしょう」

アウロが夜空を見上げながらそう言った。

光の魔石を砕き、それを風魔法で空に舞い上がらせているという。

ただのパフォーマンスであり、特に怖い事はないそうだ。


純粋に楽しんで良いモノならばと、食事を終えて片付けた後も私達は車には入らずに綺麗な夜空を見ていた。


マディアとイーデは彼女たちの馬車の傍で。ナギは傭兵5人を閉じ込めている檻の結界の上で。

ルランは私達の傍に座り、アウロとロナとククルアは少し離れたところで地べたに座っている。……マレインだけは馬車の中に入っている。あまり興味がないらしい。


そして私達も。

夏とはいえ夜は肌寒いので、私はタオルを下に敷いて地べたに座り、足の間にキララを座らせて抱きしめる。それをシグラも真似て、地べたに座り私を後ろから抱きしめてくれた。とても温かく、嬉しくて頬が緩む。


「綺麗だな」

「うん。私、北欧やカナダに行ってオーロラ見てみたかったんだよね」

これはオーロラではないけど、似たような光景なんだろうなあ。


「うらら、これ、きにいった?」

「ん?うん、綺麗だよね」

「そう」


シグラは空ではなく、私の事をずっと見て微笑んでいる。彼にとって、この光のショーは特に感動するようなモノでは無いようだ。


「シグラはアレを見て綺麗だなーって思ったりしないのか?」

「にたようなやつ、さいしょの、すみかで、いつも、みてたから」

似たようなモノといえば、やはりオーロラだろうか。

「最初……、生家ってこと?オーロラが見える場所にあったんだね」

子供の頃の彼は魂のお喋りのせいで、ずっと寝不足だったと言っていた。だから、見飽きる程見ていたのかもしれない。


「実家か。そう言えばシグラの親って生きてるのか?家族構成とかどうなってんだ?」


それは私も気になる。

あと、ビメは人間の私を(シグラ)の嫁として(多分)認めてくれたけど、ご両親はどうなんだろうとずっと気になっていた。


「おやは、もういないよ。きょうだいは、いもうとと、おとうとがいる」

「あ……ご両親は亡くなっているんだね」


「シグラは一番上か。えーっと、妹はビメの事だろ。弟の名前はなんだ?」

「なまえは“ぶに”……だったかな。あおい、りゅうだよ。あいつのたましい、みかけないから、たぶん、まだいきてる」


シグラは紅竜でビメは黒竜。そしてブニは青竜……

「色が全然違うな」


「うーん。ちちおや、ぜんいん、ちがうから」


ビシっと私とキララは固まった。


「しぐらは、ははおやに、にてる。びめたちは、ちちおやに、にてる」

「へ、へえ……」


こ、これは普通のことなんだろうか?ドラゴンの夫婦事情がいまいちわからない。

しかし、夫婦に関する事でわからないままにしておくのは悪手だ。そう思ってシグラに訊ねてみると―――


「どらごんの、おすは、よく、しぬから」

「ええ!?」


更に詳しくシグラに訊いたところ、ドラゴンはほぼ不老不死の生き物だが、番を得たドラゴンの雄は番の雌に酷い扱いをされる為に、過度の疲労とストレスのせいで大抵が短命なのだそうだ。


……パワハラ……モラハラ……過労死……。


シグラにもっと優しくしないと。久しぶりにマッサージしてあげようかな。


「シグラの父竜は白竜でな。強いドラゴンじゃったわい」


突然アガレスの声が聞こえてきて、姉妹揃ってびくっと身体を震わせる。もう、本当にアガレスは心臓に悪い。


「アガレスさんはシグラのお父様の事をご存知なんですか?」

「うむ。儂、こう見えて結構歳が上なんじゃ」

「顔知らんし、声だけじゃん」とキララが呟いた。


「奴はシグラと同じで強すぎて嫁になる者がおらんかったんじゃ。数千年待って漸くシグラの母竜となる紅竜が生まれてのう。それはそれは喜んでおったわい」


シグラとは違って、きちんと強い番を得たんだもんね。喜びも一入ひとしおだっただろう。

何だかシグラに申し訳ない気持ちになる。


「私はズルして貴方の番になっちゃったから……ごめんねシグラ」


私を抱きしめる彼の腕の力が少し強くなった。

「うららが、つがいで、しぐら、すごく、うれしいよ」

「でもドラゴンは強い番を……」


更に力が強くなる。


「はくりゅうと、しぐら。ぜったいに、しぐらのほうが、しあわせだと、おもう」



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― 新着の感想 ―
[一言]  紙装甲メンタルは障子紙レベルな気が(笑)
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