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ルランによれば、この廃村は『土地が痩せすぎて作物が何も育たなくなった為、近くの村と統合して廃村になった』という経緯があるそうだ。

特に何のいわくも無いと知り、キララも落ち着いてくれたのだけど……。


食事を終え、車内でシグラと一緒に食器を洗っていた時のこと。キララ、アウロ、ロナ、ルラン、ククルアはダイネットでのんびりとしていた。


「でも意外ですねえ。キララさんは幽霊とか好きそうなものなのに」

「好きなのは好きなんですよ、ただ怖いだけで。ね、キララ」

遊園地では真っ先にお化け屋敷に突撃して後悔しながら帰ってくるし、友達と一緒にこっくりさんをやって「変な終わり方しちゃった、どうしよう」と顔を真っ青にして相談に来たこともあった。


「パルさんの事は怖がっていませんでしたよね」

「パルの事は妖精か何かかと思ったからなあ……」


つんつん、と肩を突かれる。

「うららは、ゆうれい、きらい?」

「私?霊によるとしか言えないかな。悪霊は怖いけど、善良な霊は怖くないし」

「ずるいぞ、姉!私だってそう言うのは怖くないぞ!罰として姉は今からジャパニーズホラーを観る刑に処すぞ」

「えええ……」

何がずるいんだか。

でも私は意味も無いスプラッタ系の映画に比べたら、幽霊に同情するエピソードが用意されているジャパニーズホラーはそこまで苦手ではない。怖いと言うより、ただただ可哀想になってくるんだよね。

……でも夜に観るものじゃないよね。

ノリノリでDVDをセットするキララとロナに、盛大にため息が出た。



「……お姉ちゃん、絶対に先に寝ないでよ……」

「そんなにひっついたら、寝返りした時にキララの事潰しちゃうよ?」


寝室に入った途端、キララは私の背中にひっついてきた。


私がダイネットでホラー映画を観ている間、キララとロナは寝室に籠っていたらしい。でもカーテンで区切られているとは言え、同じ空間なんだから音が普通に漏れ聞こえていたみたいで。

DVDは私への罰だった筈なのに、見事に自爆する結果になっていた。

ちなみにロナも怖くて仕方なかったのか、今夜はバンクベッドの方に行ってしまった。今頃父親のアウロとククルアに挟まれて眠っていることだろう。


「お姉ちゃん、起きてる?」

「起きてる、起きてる」

キララがあまりにもくっついてくるので、身体を反転してキララを抱きしめた。そして背中をぽんぽんと叩いてやる。

「これ、キララにするのは久しぶりだね」

「全然落ち着かないぞ」

「えー」

「ぎゅっとしろ!ぎゅっと!」


叩くのを止めてご要望通りぎゅっと抱きしめたが、まだ足りん!と叱られた。


「なあなあ。シグラの事、此処で寝かせて良い?」

「いや、それはちょっと。こう言う事はきちんとしておかないと……」

「フラウでは同じベッドだったじゃん!私が真ん中になるから、お願い!」

「うーん……」


少し葛藤した後、カーテンをはぐった。


「ふふふ」


寝室に呼んだシグラはとても嬉しそうに身体を横たえた。

「シグラの奴、昼からやけに機嫌が良いけど、どうかしたのか?」

「私にもわかんないけど、別に構わないで……わっ」

「わぷっ」


シグラが腕を伸ばし、キララごと私を抱き寄せた。


私の胸に頬を押し付けているキララに「苦しくない?」と訊ねると、こくりと頷いた。

「大丈夫。これで、寝れる……」

ほうっと息を吐いて、キララは目を閉じた。


―――全く、人騒がせなんだから


でも落ち着いてくれてよかった。

すやすやと寝息を立てだしたキララから目線を上げると、シグラと目が合う。

いつもの優しい目、というより嬉しくて仕方ないような、そんな目で私を見ていた。彼は私から視線を外す気はない様だ。

頬が熱くなる。

キララへの心配がなくなった途端に、シグラへの恋情が湧いてきてしまう。

そもそも婚姻前の同衾という時点で、私の余裕は殆ど無いのに。


こんな時こそ、背中ぽんぽん1分コースだろう。さっさと寝てもらおう!

そう思って手を伸ばしたが


―――と、届かない……!


キララが間にいるので、私の腕の長さではシグラの背中に辛うじて指が掛かるくらいだ。

どうしよう、脇腹ぽんぽんでも大丈夫かな。


「うらら」

「は、はいっ」


思わず身体が震えた。

大きな声も出てしまい、キララを起こさなかったかと慌てて妹の顔を見る。……良かった、寝てる。

「だいじょうぶ。きららには、ぼうおんのけっかい、はってるから」

「そ、そう」

シグラの大きな手が私の頬を撫でた。

「し、シグラ……そ、そんな……」

胸の鼓動はドキドキを通り越してドドドと激しくなっている。


「うらら」

また名を呼ばれ「ひゃい」と小さく返事をした。


「きょうは、うららが、ねむくなるまで、おはなし、できるね」

「お、お話?」

「うん」


にこにこ顔の彼に、ほー……っと脱力する。

一人で舞い上がってしまって、恥ずかしい。


私は思わず苦笑が出てしまい、一方のシグラは“ふふふ”と、笑った。


「……今日はご機嫌だね、シグラ。何か良い事あったの?」

私がそう言うと、彼は更に目を細める。

「いいこと、ばっかりだよ」

「良かったね。昨日は大変だったから、神様がご褒美くれたのかもね」

「かみさま?」

シグラは不思議そうな表情をする。


あ、もしかしてこの世界には神様という概念がないのかな。

教会は()()教会だし。

というより、この世界の人達の信仰対象が名のある精霊だとしたら、シグラが神様のポジションなのでは。

「神様って言うのはね、見守ってくれてる存在のこと、かな?心の拠り所って感じで……」

宗教によっては大分扱いがや解釈が違うと思うけど。

「こころのよりどころ?こころのささえ、あんしんできるところ、という、いみかな?それなら、しぐらのかみさまは、うららだね」

「えええ?」

顔が熱くなる。

嬉しいけど、なんだか恥ずかしくて話題を変える事にした。


「シグラの教会もあるってナナーさんから聞いたけど、シグラを護ってくれるエルフや聖騎士もいるのかな?」

「さあ?しぐらは、しらない」

「名のある精霊である事すら知らないって言ってたもんね、シグラは」


「シグラの教会は、それなりに規模が大きいぞい?」


うわ、アガレスさん。

声だけだから仕方ないけど、急に話しかけられたらびっくりする。


「アガレスさん、夫婦の時間の時は自重して下さるんじゃなかったんですか?」

「ふふーん。そんな約束しておらんもん」

「くるま、ぜんたいに、ぼうおんのけっかい、はろうか?」

「年寄りを仲間外れとは酷いのう。愛を語らう雰囲気でもないんじゃから、ええじゃろうが」

あ、愛……。さっき一人で舞い上がっていた事を揶揄われているようで、恥ずかしい。


こほん、と咳払いを一つ。

変な方向に行く前に、話を戻さないと。


「あの、シグラの教会の事、もう少し教えて下さい」

「うん?そうじゃのう。シグラのところはエルフは少ないのう。聖騎士は多いが、殆どが年老いた者じゃ。人間の信者は結構な数がおって、これも殆どが年老いた者じゃ。しかし金に糸目をつけん者が多いのか、シグラの教会は綺麗なもんじゃぞ?」


シグラって、もしかしてお年寄りにモテる系ドラゴンだったのかな。孫ポジション……とは到底思えないけど。あ、いつもにこにこ笑ってて可愛いからかも。


「嫁御よ、穏やかな暮らしをしたいなら、シグラの郷に行けば良かろう。あそこは静かじゃぞ?」

「まるで老後に住んだら天国みたいな場所ですね」

「シグラの能力を求めるのは、大事な者と死に別れた者ばかりじゃからのう」


能力かあ。

そう言えば、シグラがどんな特殊な力を持っているのか知らないなあ。

名のある精霊と言われるんだから、普通のドラゴンとは違う能力を持っているだろうけど。


「シグラは、どんな能力を持っているの?」

「んー……。いかく、ぶれす、けっかい。あと、まほう」

「それはドラゴンとしての能力でしょ?そうじゃなくて……」


「嫁御よ、シグラは意識しておらんようじゃが“魂を視る事が出来、それと対話する力”を持っておるぞ」


魂を視る……って。

「幽霊が見えるの?」

霊能力者だ!キララがめちゃくちゃ興奮しそう。……あれ?


「シグラ?」


シグラの表情が翳ったので、慌てて彼の名を呼ぶ。

「どうかしたの?」

「……ん?なんでもないよ」

そうは言うけど、明らかに元気が無くなっている。もしかして幽霊を見る能力というのは、彼にとって好ましい事ではないのかもしれない。


頬に当てられている彼の手に、自分の手を重ねた。


「何か心配事とかあるなら、遠慮なく言って」

「うらら」

「私が出来る事は少ないけど、私はシグラの妻だから―――



―――辛い事は共有しようよ」


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― 新着の感想 ―
[一言]  ウララは普段「妻」や「夫」と言う割には、婚姻はしていない感覚なのですね。  日本で婚姻届を出すのは(日本に戻れたとしても戸籍上は)無理ですし、挙式したら「結婚した」と思うのでしょうか?  …
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