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第一話:始まりは8月某日

―――子供の頃から結婚というものに夢を抱いていた


 私を全力で愛し大事にしてくれる夫を得て、そして私もその夫を全力で愛して大切にするという夢だった。



 赤い髪の毛を靡かせ、金色の目を細め、『彼』はじっと私を見下ろす。

 震えて立ち上がる事すら出来ない私には、彼の次の行動を待つ事しか出来なかった。



―――数時間前



「姉、荷物はどれくらいまでOKだろうか」

「結構大丈夫だよ~。だってバスコンだよ、バスコーン」

 へへへーっと笑うと、妹は呆れたように“はあ”とため息をついた。

「……無駄遣いだな。投資でもして増やすべきだったと私は思う」

「縁起悪いし、増やしたいお金じゃないから良いの。あ、キララ。布団も持ってきてよ。車中泊だから」


 8月某日。


 私の名前はウララ。読みこそ普通だが『雨雫』と書いてウララ……字面を見ただけでは読めない系のキラキラネームというやつだ。

 観光バスの運転手兼バスガイドの仕事をしている23歳の女。前はそれなりに長い髪の毛だったが、最近心機一転したい事があったのでセミロングにした。

 本日納車された私の城バスコン(バス型のキャンピングカー)をアパート前に横付けし、荷物を詰め込んでいるところだ。


 私の妹はキララという名前で、私と13歳差の小学校4年生。腰まである髪をツインテールにしている。最近反抗期なのか、それとも何かの漫画にハマっているのか知らないけど、口調が素っ気ない。でも私にとっては可愛い妹である。

 ちなみに姫雫と書いてキララだ。妹はもっぱらひらがなやカタカナで名前を書いているので、『姫雫』はお気に召していない様子。まあ、私も正式な書類以外には雨雫なんて書かないけど。


 余談だが何故『雫』で『ララ』と読むのだと親に訊ねた事があったが、『雨がららら~って歌ってるようだったから~』とかいう意味不明な言葉が戻って来た時には、笑いすら出なかった。まあ、両親の性格は至って真面目で、更に母の方はお堅い職業なので、子供が生まれた時だけ嬉しさでネジが吹っ飛んだのかもしれない。


 ところで私は“心機一転する羽目になったちょっとした事情”により長期休暇中の身だ。

 この事情は、このバスコンを手に入れた経緯が含まれている。


 実は私は順調に行けば1カ月後には“奥さん”になる予定だった。その関係で勤めていた観光バス会社から一旦寿退社をしていた。とは言え、後々職場復帰する予定なので、長期休暇という感覚ではあるが。


 ところが婚約者だった“まるでダメな男、略してマダオ”が先日どこぞかの社長令嬢と駆け落ちし、私の結婚は無しになった。


 その令嬢の父親である社長が、式場のキャンセル料もろもろと慰謝料を一括で払ってくれ、口止め料を含めた慰謝料だけで600万。婚約破棄だけにしては結構もらえたと思う。まあ、会社を寿退社したことも考慮された額なんだろうが。

 その後、マダオのご両親からも結納金として渡す予定だったという100万を迷惑料という名目で貰い、マダオという存在は計700万に化けてくれたのだ。


 そこで、ふっきるつもりでパーッと大きめの買い物をしようと思い、前々から気になっていたキャンピングカーを買うことにした。


 ただ、キャンピングカーというものは新車となると納車まで数年かかってしまうそうで、私はすぐに納車してくれる中古のキャンピングカーを買った。しかも、なんとバスコンである!

 バスコンも中古となればかなりお安くなるようで、更に前の持ち主好みに改造も色々されているからと600万弱で購入できた。そして残りのお金は良い感じのサブバッテリーなどのオプションやキャンプ用具購入で消えた。


 そんなこんなで手に入れたバスコンで、今日から暫く心機一転の旅行に出かけることとなった。

 お供は夏休み中のキララだ。


「夏休みの宿題、ちゃんと持ってきなよ~」

「……むっ……折角の旅行なのに……」

「8月の最終日に困るのは自分なんだから、こつこつやんなさいね」


 車の後方にある外部収納に大きめのキャンプ用品などを入れ終え、いよいよ生活雑貨品をバスコンに詰め込もうとエントランスドアを開く。


「「おおおおお~」」


 姉妹揃って目が輝く。


 エントランスドアを入ってすぐの左側に下駄箱。右側には備え付けの冷蔵庫とキッチンカウンターがある。カウンターには電子レンジがビルトインされていて、沢山の収納スペースもある。


「姉よ、冷蔵庫だ!冷蔵庫があるぞ!!」

 妹はハイテンションで冷蔵庫を開け閉めする。

「アイス入れれるのか?アイス!!」


 普段は大人ぶっている妹だが、やっぱり小学生だ。可愛い奴め。


「入る入る!設定次第で上側が冷凍庫で下側が冷蔵庫になるらしいよ」

「あいすー!!」

「途中でスーパーかコンビニに寄って買い出ししようね」

「おー!!」


 運転席のすぐ後ろ、エントランスとキッチンスペースの向かい側にはセカンドシートとサードシートがテーブルを挟んでの対面式で設置してある。セカンド・サードともに二人掛けできる大きさだ。ここがいわゆる食事をしたり寛いだりするダイネットという場所だろう。上にはキャビネットもある。

 家庭用のエアコンや大きめのテレビもついていて、本当に普通の部屋だ。

 ダイネットの後ろには大容量のパントリースペースがあり、そこで一旦アコーディオンカーテンで区切られる。


 そしてカーテンの向こうにはトイレルームと洗面場所を兼ねたシャワールームがある。その向かい側に収納スペースとクローゼット。


 シャワールームの先に二段の階段があり、それを登ると寝室だ。寝室の入り口には普通のカーテンが取り付けてある。

 寝室はかなり大きめの空間がとってあり、身長の高い男性でも3人くらいは余裕で眠れるだろう。そしてここは展開ができて、5人が寛げる広々としたラウンジに変えられる仕様なんだそうだ。


 寝室以外にも、運転席の上にバンクベッドがあり、ここにも3人くらいが眠れるスペースがある。

 セカンドシートやサードシートを展開させたらそこにも寝るスペースが出来るので、このバスコンは余裕で7~8人は眠れるということだった。

 今回は私とキララの二人旅なので、バンクベッドの部分は収納スペースになるだろうけど。


 まるで家だ。

 衝動買いとは言え、かなり大きな物を買ってしまったなあと、今更ながら乾いた笑いが出て来た。


 荷物を積み終えた私は運転席に座る。キララは興奮が冷めないらしく、セカンドシートに座ってきゃっきゃ、きゃっきゃとはしゃいでいた。


「じゃあ、出発するよー」

「うむ!安全運転でな」


 ウィンカーを出し、道へ出る。


「よーっし!最初の目的地へレッツゴー!」

「おおおー!」


 最初の目的地はアイスや細々とした日用品を買いにスーパーだ!


2話目も本日アップします。

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