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序ー4話

挿絵(By みてみん)

 日が西に傾き始めたころ、藤十郎たちは目を覚まして動き始めた。


「さて今後の事だが、吉野。結界を張れるか?」


 藤十郎が、吉野に訊ねると懐から札状の紙を出して数え始めた。


「5、6、7……。ギリギリどすな」

「張れるならどこか広い場所を聞いて、張ってきてくれ」

「せやけど……、それしてしもたらあての札が後1枚だけぇ? 戦力にならへんけどよろしゅうおすか?」


 吉野に問われた藤十郎は、少し瞑目して考えながらも頷いた。


「致し方ない。それでも今回は事足りるはずだからな」

「藤十郎はんが、そう言わはるならそうしますけど……。結界は一度張ったら二度と動きまへんから、しっかりと誘導しておくんなはれ」

「それくらい分かってる。誘導できなければ、負けが確定するだけだ」

「せやかて難儀どす。あないすばしっこいの捕まりまへんえ?」


 彼らが捕えようとしているのは、先ごろ山で遭遇した鵺だ。

 本当であれば、山で探し出して捕まえる予定だった。

 だが、実際には魑魅魍魎があまりにも多く、消耗してからの戦いで手傷を負わせただけでも御の字だったのだ。

 そして、手傷を負わせたことで彼らに一縷の望みが生まれた。

 それは、鵺の生来変わらぬ性分というものだ。

 鵺は、恨みを持った相手を必ず滅ぼすまで追い詰めたり、また迂遠な方法で恨みを晴らそうとする。

 今回なら、恐らく鵺自身が藤十郎たちを殺しに来るだろう、と踏んでの待ち伏せの作戦なのだ。


「ほな、あてはここの使用人にどっか広いところを教えてもろてきます。藤十郎はんはその間どないするんえ?」

「まぁいつも通り、魑魅で困っている病人の相手だな。それも倒魔師の仕事だ」


 藤十郎がそう言うと、二人はそそくさと着物を整えて準備を始めるのだった。

 そんなおりに、見計らったようにふすまの前から声がする。


「起きられましたか? もし宜しければお願いを、お聞きいただきたいのですが……」

「ご主人か? 世話になったな。もし魑魅で困っている者が居るなら世話しよう。それもご領主様の依頼だからな」

「へへぇ、ありがとうございます。村の吉治と勘助という者が、村医者が匙を投げた病人ですので、診て頂けますでしょうか?」

「分かった。案内を頼む」


 身支度を整えた藤十郎が応えると、主人は早速とばかりに道案内を始めた。

 一方の吉野も、近くのひらけた場所を教えてもらいそれぞれ移動するのだった。

 そんな二人の様子をいぶかしんだのか、屋敷の主人は案内の途中で訪ねた。


「倒魔師様、お連れ様はどちらに?」

「あぁ、あれには別の仕事の準備をさせようと思ってな。あと、今晩不気味な声が聞こえるかもしれぬが、一切外に出ぬように」


 藤十郎がそう言うと、主人は少し身を縮めて見返してくる。

 そんな主人の顔など素知らぬふりで、藤十郎はさっさと歩いていくのだった。

 主人に連れられて歩くこと、約一町。

 一つのあばら家の前で、主人が止まり戸を叩き始めた。


「勘助! 勘助は居るか!? 倒魔師様がおいでくださったぞ!」


 無遠慮にドンドンと戸を叩いていると、不意に戸が開いて痩せこけた顔がのぞいた。


「村長……、そんなにドンドン叩かれたら……ゴホッゴホッ!」

「あぁ、すまぬすまぬ。ただ、倒魔師様が来られた。是非見てもらいなさい」


 主人はそう言って、勘助を奥へと押し戻しながらずかずかとあばら家の中へと入っていく。

 その遠慮のない態度に何となく藤十郎は引きながらも、中へと入るのだった。


「ふむ……、これは中々」


 藤十郎がそう言って辺りを見回すと、締め切り暗くなった部屋からは瘴気にも似た嫌な空気が充満していた。

 そして何よりも目についたのが、暗がりに見えるおびただしい量の吐血のあとだ。


「勘助と言われたか? 病気になってどれくらいか覚えておられるか?」

「病気になって……、恐らく半年ほどかと」

「半年……、ご主人。少し窓を開けて頂けますかな?」


 藤十郎がそう言って窓を開けさせると、辺り一面の空気が少し変わる。

 瘴気が流れ、薄まってきたのだ。


「こちらの窓は、誰が閉めるように言われたので?」

「……確か、村医者に。寒くなると風邪を引いて悪くなるからと」

「なるほど、では今後昼間は窓を開け、夜は閉めるようにしなさい。そうすれば良くなるだろう。後はこの……」


 そう言って藤十郎は、背中に背負っていた薬箱の中から封のされていない棚を開けて薬を入れた薬包紙を渡す。


「これを湯か水でふやかして飲みなさい。吐血で消耗した力を戻してくれるはずだ」


 藤十郎がそう言って渡そうとすると、勘助は薬包紙を押し返した。


「倒魔師様、私にはお支払するものが何もございませぬ……」

「安心いたせ、これはご領主様からだ。私は依頼でここに来ているのだから、遠慮をせずに」


 突き返そうとした勘助の手に、藤十郎は薬包紙を握らせた。

 そして、後ろに居た主人に向き直ると頷いて家を出た。

 家を出て少しすると藤十郎は、はたと足を止めて主人に話始める。


「ご主人、あの者だが……」

「間に合いませぬか?」

「いや、後は本人の気力次第だろう。あの薬は、血を作ろうと最初に激痛が走る。その痛みに耐えきれれば、彼の体は良くなる」

「……わかりました。明日様子を見ておきます」


 話が終わると、藤十郎と主人は次の患者の所へと無言で歩き始めるのだった。

次回更新は1時間後。


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