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05. 主従大戦 レイディ×メイド!

「冴えないオタク女が、黒魔術で金髪お嬢様を召喚しちゃった件」……なんてタイトルでラノベ投稿したら、「いいね」何個もらえる?


 そんな、どうでもいい妄想をしてしまうくらいに、そのときの私は混乱していた。

 だって、こんなことになるなんて思ってなかったんだもん! こんなショボいおまじないなんかで、ホントにホントの、お嬢様が召喚できちゃうなんて!


「ふう……」


 夕日が差し込む放課後の教室。机と椅子を動かしてスペースを作った床に、チョークでイビツな魔法陣が書いてある。私が書いたものだ。

 「午前0時になったら、自分が将来結ばれる相手が現れる」とかなんとか、そんな感じの怪しいおまじないを友達の誰かが言い出して、ジャンケンで負けた私が、実際に試してみようってことになっちゃって……。午前0時に学校に忍び込むとかは無理だから、せめて、放課後の誰もいなくなった教室でスマホゲーやりながら適当に魔法陣描いてみたら……。

 気付いたときには、この純白ドレスを身に着けた金髪の「お嬢様」が立ってたってわけ。


「……あら? あなたが、わたくしを呼び出したの?」


 私が知ってるどんなモデルやアイドルなんかよりもブッチギリで美人なそのお嬢様は、透き通った清流が流れるようなきれいな声で何か言った。

 おそらくは質問らしいその言葉に、私は返事を返さなくちゃいけないはずなんだけど……。彼女の姿に見とれてしまって、彼女の声に聞き惚れてしまって、(ついでに、彼女の方から漂ってくる芳しい香りに嗅ぎ惚れてしまって……)何もできずにいた。圧倒的な美人を目の前にして、思考が停止しちゃってたんだ。

 そんな、恍惚状態でボケボケしていた私に呆れたように、小さく「はあ……」と、お嬢様はため息をついた。

「なんだか、期待していたよりもずっと頼りなさそうね。大丈夫なの?」


 その言葉が何を意味しているかなんて、当然分からない。でも、その超絶美少女なお嬢様が私のことを見てくれているってだけで、私に話しかけてくれるってだけで、嬉しさで心臓が破裂しそうなほど高鳴ってしまって、そんなのどうでもよかった。

 しかも、その上……、

「とりあえず、さっさと『契約』だけは済ませてしまった方がいいわね……」

 なんて言ってから、そのお嬢様は魔法陣を抜け出して、私の方に近づいて来て……っ、っていうか! 私の両肩を掴んで、自分の顔を、私の顔に近づけて来た!?

「ちょ、ちょっと⁉」

「動かないで……すぐに終わらせるから……」

 見とれるほどに美しい顔が、だんだん私の方に近づいてくる。彼女のぷるぷるのクチビルが、私のカサカサのクチビルに、重なろうとする……!

 こ、これって、ア、ア、ア、アレじゃないのっ!? ぞ、ぞ、ぞ、俗に言う、世のリア充たちが毎朝毎晩飽きもせずやってるっていう……キ、キ、キ、キ、キッスってやつじゃないの!-っ?

「ス、ス、ストーップ! い、い、いきなり、何するんですかぁー!?」

 慌てて私は両手を突き出して、彼女の体を押す。強引な彼女のクチビルが自分と接触する前に、ギリギリで逃れることが出来た。

「何って……そんなの決まってるじゃないの」

 心拍数が、アップテンポなヘヴィメタルのドラム音くらいに早打ちしてる私とは対照的に、彼女はいたって普通の調子で言う。

「キスよ、キス。逆に、それ以外に何だと思ったの?」

「そ、そ、そ、そういうことじゃなくって! キ、キスとかそういうことは! お互いにもっと仲良くなってからって言うか! 二人がお互いを深く分かり合って、お互いがお互いを求めあって、『ああ……これからも、この人がそばにいて欲しいな』って思えたときに、その気持ちを確かめるようにどちらともなく自然な感じでやるもので…………って、何言わすんすかっ!? そうじゃなくって、私たち女同士でしょーがっ! それなのにいきなりキスするとか、変ですよっ! 普通じゃないですよ!」

「……」

 顔を真っ赤にした私の説得は、そのお嬢様には全く響いてないみたいだった。

 彼女はまるで、「こいつ、何言ってるんだ?」とでも思ってるみたいに、怪訝な表情で首をかしげていたんだ。

「あなた、何言ってるの? バカなの?」

 いや、実際に声に出して言ってるし……。

 っていうか「何言ってるの」はこっちのセリフだし……。



 でも、ホントに「何言ってるの?」な話は、このあとから始まるんだけどね……。



「まさかあなた、何も知らずにわたくしを呼び出したの? はあ、なんてことかしら……。わたくしも、クジ運がないわね。こんな無能そうな庶民と、契約を結ばなくてはいけないなんて……」

「だ、だ、だから! そんな、訳わかんないことを言ってないで……」

「仕方ないわね、このわたくしが説明してあげるわ。つまりね……貴女はこれから、このわたくしマリア・ヨハンナ様の、『メイド』になるのよ」

「は?」

 突拍子もなさすぎる言葉に、私は思わず口を開けて間抜けな顔を作ってしまう。

「貴女がわたくしを召喚したように、実はこの世界にはすでに、他にもたくさんの淑女レイディ……貴女たち庶民が言うところの『お嬢様』が、異世界から召喚されているわ。彼女たちはそれぞれが異なる『お嬢様像』を象徴していて、同時に、その『お嬢様像』に沿った特別な異能力を授かっているの。もちろん、わたくしもその一人よ」

「は、はあ……」

「その『お嬢様レイディ』たちの目的は、ただ一つ……。能力を駆使して、この世界に来ている他の『お嬢様レイディ』をすべて倒し、自分が最も優れた淑女であるということを証明すること。そしてそのためには、この世界との依り代となる『メイド』が必要なのよ。だって、一流の淑女ともあろう者が、メイドの1人も保有していないのはおかしいでしょう?」

「は、は……ははははは……」

「誰かと『メイド契約』を結んでいない『お嬢様レイディ』は異能力も使えないし、他の『お嬢様レイディ』たちに絶対に勝てない。だから、異世界からやってきたわたくしたちはまず、自分を呼び出したこの世界の人間と『契約』を結んで、その人間を『メイド』として仕える必要があるの。さっきのキスが、その『メイド雇用契約』ということになるわね」

「な、なるほどー……」

「ちなみに、わたくしの『お嬢様レイディ能力』は……」


 興にのってきたのか、一人で流暢に話し続けているその「お嬢様」に気づかれないように、私は慎重に距離を取っていた。そして、やっと教室の廊下側の扉までやってくると、

「は、はーい、分かりましたー! それじゃあ今日は、この辺で失礼しまーす!」

 と言って彼女に背中を向けて、一目散に逃げだしていた。

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 私が逃げたのに気付いた「お嬢様」が追ってくるけど、私は振り返ったりしない。


 だ、だって、こんなの無理だもん! 『お嬢様像』に沿った異能力がどうのとか、他の『お嬢様』を倒して最強の『お嬢様』を目指すとか……もう、普通に意味不明だしっ!

 超絶美少女でキス魔の百合お嬢様ってだけなら、まだ我慢できたかもしれないけど(いや、それだって十分にヤバイ状況ではあるんだけど……)、その上、ヤベー妄想癖のある不思議ちゃんだったなんて……そんなの、相手してらんないってばっ!

 放課後の、人気ひとけの少ない廊下をひたすら走り続ける私。後ろから、カツカツカツっていう、ガラスの靴みたいな走りにくそうな靴音が追いかけてくるのを聞きながら、とにかく必死にその場から逃げ出していた。



 そして、無我夢中で走って廊下の角を曲がったとき、少し離れた先に、見覚えのある顔を見つけた。


「あ、アカネ!」

「あー、ヒカリちゃーんー? どーしたのー、そんなに急いでー?」

 いつも通りののんびりとした声で訪ねてくるアカネは、私の数少ない友達の1人だ。

 私は息を切らしながら彼女のそばまでいって、今の緊急な状況を伝える。

「じ、実はいま私、なんかヤベーやつに追いかけられてるんだよっ! だからアカネも、早くここから離れたほうがいいよっ⁉ じゃないとあいつにつかまって、わけわかんない話を聞かされて……」

「へー。もしかしてー、その『ヤベーやつ』ってー……」ニヤリと、悪い笑顔を浮かべるアカネ。「この娘みたいなー?」

「へ?」

 私の慌てぶりを無視して突然おかしなことを言いだした彼女の方を、もう一度よーく見てみると……その後ろには、もう1人別の誰かが隠れているのに気付いた。


 その娘は、燃えるような真っ赤な髪を、両サイドでくるくるとドリル状にカールさせたような髪型をしていて……。

「か、勘違いしないでよねっ!? べ、別に、アカネのためじゃないんだからねっ⁉ 私はただ、自分が一番の『お嬢様レイディ』になるために、敵の『メイド』候補を始末するだけなんだからっ!」

 そんな意味不明なことを言いながら、その赤毛の彼女は両手を高く上げる。すると、その右手にメラメラと燃える炎が、左手にはキラキラと輝く氷の塊が現れて……。

「あ、あれ? そ、その見慣れない娘は、どちらさま? も、もしかして転校生か何か……? っていうか、その火と氷は……て、手品だよね?」

 そんなことを言いながら、私はうっすらと思い出す。そ、そういえば、最初にあの魔法陣の「おまじない」を言い出したのって……アカネじゃなかったっけ?

 私の頭の中のその質問に答えるように、アカネはその赤毛の娘の後ろに隠れながら言う。

「うふふー、ヒカリちゃんに紹介するねー? この娘は、『ツンデレお嬢様』を象徴する『お嬢様レイディ』のジャンヌちゃんだよー。彼女の『お嬢様レイディ能力』はー……『相反する2つのものを同時に操る』ことなんだよー!」

「食らいなさーいっ!」

 その言葉と同時に、赤毛の『お嬢様』のジャンヌちゃんは、両手を振り下ろす。すると……炎の塊と氷の塊が、同時に私に向かってきた!?


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよっ! な、なんでいきなり、こんなことを……!」

 あまりの恐ろしさに、思わずその場にしゃがみこんでしまう私。そのおかげで、炎と氷の塊は私の頭をかすめただけで、そのまま向こうに飛んで行った。そして、遠くで水蒸気爆発か何かの作用で、ものすごい爆発となった。

「う、うそ……」


 そこまでのことがあると、私もさすがに理解せざるを得ない。

 つまりこのアカネは、私がさっき金髪お嬢様を召喚したように、いつの間にかこの赤毛のジャンヌちゃんを召喚していたんだ。しかもアカネの場合は私と違って、とっくに彼女と契約しているから、ジャンヌちゃんは『お嬢様像』を象徴する異能力が使える。2人はその能力で、さっきのマリアなんとか様の『メイド』候補である私を、契約前に殺そうとしているってことなんだ……。


「さ、さっきのは練習よっ⁉ わざと外したんだからねっ!」

 そんなことを言って、もう一度両手を天井にかざすジャンヌちゃん。また彼女の手に炎と氷が現れ始める。一方の私は、驚いた拍子に腰を抜かしてしまって、身動きが取れなくなっている。さっきは偶然よけることができたけど、このままだと今度は、間違いなくさっきの爆発が私を直撃する。

 そ、そんな……。

 じゃあ私、このまま死んじゃうってこと……? こんな、意味わかんないことに巻き込まれて、何もできないうちに……? 私、まだ高校生なのになあ……。せめて、死ぬ前に誰か素敵な人と、恋人同士になりたかったな……なんて……。


 そんな風に、抵抗するのを諦めて私が勝手に人生の幕を閉じかけていたとき。すぐそばから、澄み透ったきれいな声が聞こえてきた。


「しっかりなさい! それでもあなた、わたくしの『メイド』なの⁉」


 え……?

 その声に呼ばれるようにゆっくりと目を開けると、そこには、さっきの超絶美少女金髪お嬢様が立っていた。

「まったく! ウダウダ言ってさっさと契約しないから、こんなことになるのよ! あなたは黙って、このマリア様の言うことをきいてればいいのよっ!」

 そして彼女は、尻もちをついている私を軽々と抱きかかえて、さっき教室でしたように、唇を近づけてきた。

 いろいろなことがあったせいで、もう考える気力が失せていた私も、

「は、はい……」

 なんて言って、彼女の唇に、自分の唇を近づけてしまって……。



 彼女とキスをした瞬間、その場にまばゆい光がほとばしった。

「なにこれー⁉ まぶしー!」

「もう、なんなのよっ! せっかくこいつが『契約』する前に、勝負を決めるはずだったのにっ!」

 その光に吸い込まれる、アカネと、その『お嬢様』のジャンヌちゃん。それにジャンヌちゃんと一緒に、彼女が作り出していた炎と氷も光に取り込まれて、かき消されてしまう。


 そして、しばらくしてようやくその光が消えて、視界が晴れると……さっきよりさらに美しく、さらに神々しくなった金髪お嬢様が立っていた。


「ずいぶんと、わたくしのメイドが世話になったみたいね? 覚悟はいいかしら? このわたくしの圧倒的な力を、思い知らせてあげるわ」




 これが、私たちが出会った日の出来事だ。

 この日から、『高飛車お嬢様』を象徴する『お嬢様レイディ』のマリア様と、その『メイド』となってしまった私の、波乱に満ちた冒険の物語が始まったんだ。


 ……いや、始まんないけどね。


覚醒したマリア様の『お嬢様レイディ能力』によって、なんとかアカネとジャンヌちゃんを倒した私たち。

でも、安心する暇もなく、次の刺客が私たちに襲いかかる。


離れ離れにされたマリア様と私。試される、『お嬢様』と『メイド』の絆。

って、出会ったばっかなのに絆なんかあるわけ無いじゃん! どうすればいいの⁉


次回『主従対戦レイディ×メイド!』第2話

「素敵に無敵⁉ 『箱入りお嬢様』のロレーヌちゃん登場!」、に……

レイディ、メイド、ゴー!



だから、次回とか無いってば……。

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