表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートコメディ

小説家なんてやめちまえ!

作者: かげる
掲載日:2018/09/15

「小説家なんてやめちまえ!」


 怒声とともに、ぼくの原稿用紙は二つに折って破られた。びりびりと裂ける嫌な音がするかと思ったらそんなことはなく、まるで裂かれるために存在していたかのような、シュッという聴き心地のいい音だった。


「ああ! なんて酷いことを!」


 否応無く破られる。これは、いつもの有様だった。海馬藏とどくら先生は、小説家志望のぼくの書いた原稿をまるで、ゴキブリでも見つけたような嫌悪の表情を浮かべて破り捨てるのだ。


 それでもまだいい方だ。酷いときなんか、本物のゴキブリを触ったがごとく反射的に手を離して、床に散った原稿用紙を『死ねえ!』と靴の裏で踏みつける。『痛がってる! ぼくの子供(小説)たちが痛がってる!』と、涙目になりながら、慌てて五百枚もの原稿を救出したのは、今となってはいい思い出だ。


 そんな思い出に浸ってる暇はない、ぼくは、まず海馬藏先生に理由を訊かなくてはならない。この小説のどこがいけなかったのかを。




「ああ? この小説のどこがいけないか、だって? そんなことを質問する時点でもうアウトだろ。自分の感性を磨けよ。こんなんじゃ小説家なんて夢のまた夢、小説家志望じゃなくて、小説家死亡だっつーの」




 そんな捨て台詞を吐いて、どこかに行ってしまった。はあ、また意気消沈してしまう。ぼくの小説のどこがいけなかったのだ。そんな質問をする時点で終わってる。アウトなのか。


 この世に素晴らしい小説家がいることを知っている。その方々は、自分の力で多くの文章を綴り続けてきた。きっと、ここまで血の滲むレベルの苦労を続けてこられたに違いない。


 それなのにぼくはどうだ。毎日のようにゲームをして、無料動画を視聴して、お酒を飲んで、執筆しようとした頃には、眠くなっている。先生に提出する、小説の期限が迫ってきてやっと机に向かう。


 そして、思考が停止する。思考が停止したあとは、どうなるかは説明したくない。妄信かもしれないが、小説とは『小さな説明』と書いて小説なのだ。不要な説明はすべきではないシーンはある。ドラマチックな結末に説明はいらないものだ。





 数日後。海馬藏先生は次にアクション小説を宿題にあげた。ぼくは例のごとく、ゲームをしたり、動画を観たり、お酒を飲んで、あとSNSでぼくの小説が世界で話題になってないかとエゴサーチした。だが虚しい結果に終わった。悲しい。そんなことをしているうちに宿題の期限が迫ってきた。


 締め切り前夜からギアを上げた。ぼくは徹夜で小説を完成させた。例のごとく思考が停止した脳味噌で、主人公の絶叫シーン『ガァァァッァァァァッァァァァァ!!!!』が八割を占める傑作が出来あがった。最高傑作ではなく、ただの、傑作。絶叫小説だった。






 朝、ぼくは遠い目をしながら、海馬藏先生の元に向かった。どうなるのかは目に見えていた。この小説のどこがいけなかったのか、だって? そんなの決まっている。ぼくがいけなかったのだ。


 重たい足取りで、先生のところに着いた。「先生、あの、例のもの、持ってきました」「ああそうか。ギリギリ間に合ったようだね、どれどれ。見せて」「は、はい」「ん。よく書いたじゃないか五千枚も」「……」「これは……」と言ったところで固まった。


 海馬藏先生の表情が固まった。このとき、なぜか現実世界がゆっくりに見えた。きっと、目がおかしかったのだろう。ぼくらの住むこの世界は、いつも、平和な日常で満ちている。そんな世界が一変するような出来事がおこることは、万に一もないだろう。


 そうだ、例え、海馬藏先生の目から血の涙を流そうとも、原稿を食パンと間違えて食べてしまおうとも、発作がおきたかのように全身が痙攣しようとも、二階の窓から飛び降りようとも、いいや、そうはさせない。海馬藏先生が、窓の外に出ようとするのを阻止するためにぼくは走った。そして、その身体を懸命に引っ張る。


「やめてください! なにをしているんですか! ぼくは、小説を書いただけだ! それだけのことでしょ!? なのに先生は、なんでそんなに苦しんでいるんだ! 悩みがあるなら相談に乗ります! だからどうか、窓枠から手を離してください!」


 窓から、先生を引き剥がそうと頑張った。でも、先生の力はぼくより優っていて、今にも窓枠から外に出ようと勇ましいアプローチをかけてくる。


 ようやっと、先生は血の涙を流しながらぼくにこう言った。嗚咽混じりで、よく聞き取れなかったけれど、たしかにこう言ったのだと思う。






「原稿用紙が喉に詰まって苦しい。助けてくれ」






 ぼくは、とてつもない罪悪感を感じた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 文章の力でここまで人を動かしたとなると、色々な意味で大作みたいですね……!
[気になる点] 「ああ? この小説のどこがいけないか、だって? そんなことを質問する時点て >>時点で [一言] タイトルに似合わず凄いほのぼのとしてますね。先生とぼくの掛け合いと、ぼくの行動に少し共…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ