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【7】


 学年が上がり、僕は十八歳になった。


 乙女ゲームの始まりが近づいているけど、まだ独身だ。

 結婚できていない。


 当たり前だって?


 いや、レベッカ本人以外は、もう全部根回しが終わってるんだけどね……

 うちの両親には結婚したい女性がいると、それがレベッカ・イルマンであることも伝えてある。

 彼女の両親にも、うちの親を通して伝えてある。


 言っておくけど、これはこの国で貴族の子弟が令嬢を見初めた場合の、ものすごく正当な手順だ。

 貴族の結婚は家同士のものだから。


 ただ僕たちが学生であるからということで、彼女の両親から彼女に伝えるのは待ったをかけてあるので、レベッカはこの話が両家の間でまとまりかけていることを知らない。

 これはおそらく彼女が前世の記憶を持っているため……つまり自由恋愛による結婚の方に価値観が偏っている可能性があり、そうであるならばできるだけ恋愛結婚だと思ってほしいからだった。


 あと、できるだけ早く結婚したいから。

 そうとも、乙女ゲームの始まる前に。

 親に任せると普通に卒業後の嫁入りを設定されそうなので、「二人の同意があるので、早く結婚したい」と押し切りたかった。


 現実はそう甘くなかったわけだが……


 今だって、彼女がうんと言いさえすれば、ものの十日もかからずに婚姻に持ち込んでみせる。

 彼女の家の出入りの仕立て屋を使ってもうドレスも用意済みだし、婚姻式の立ち合いは家族と神官だし、お披露目は後からでもいい。

 ……ドレスは時間があれば、彼女の希望に沿って作り直してもいいと思っていた。

 もう時間がないけど……


 ちなみに、レベッカに断られているのかと言えば、そんなことはない。


 それ以前の問題だからな!

 まだ多分、レベッカは僕に口説かれているとすら思っていない……


 鈍すぎるという表現でいいのかどうか、迷うくらい鈍い。

 もしかしたら攻略対象だと思われているせいで、そもそもそういう可能性を除外して考えているんじゃないだろうか。

 それだと直球で告白しても理解しないかもしれない。


 でも、乙女ゲームの始まりは近づいているんだ。

 その前にどうにかしたいと思うなら、もう猶予がない。

 そろそろ、彼女を真っ当な手段で口説き落とすことは諦めなくてはいけないような気がしていた。


 そんなことを考えていたある日、放課後に修練場へ向かう前にイーサンがエリス嬢に会いに行くというから皆でエリス嬢たちのいるサロンへ来た。

 学年も上がったので、次の試験までは放課後の勉強会もない。


 それまでの通りだと、それぞれの社交と自習と、たまに婚約者との交流に時間を割くというスタイルになるが、イーサンは先日から積極的なままだ。


 さて、サロンに足を踏み入れると、お茶会形式でエリス嬢たちがテーブルを囲んでいた。


「何をしているんだい、エリス」

「まあ、イーサン様、皆様」


 エリス嬢とその取り巻きのご令嬢たちが声をかけたイーサンに、立ち上がって一斉に綺麗な礼をする。


「読書会なのか?」


 テーブルの上には読本が何冊か積まれたり、広げられたりしている。

 皆で読んでいたんだろう。


「はい。皆様お勧めの本を持ち寄って読んでおりますの」

「どんな本を読んでいるんだい?」

「それは……その、流行の本などを。お恥ずかしいですわ」


 開いているページに目を向ければ、どうも恋愛小説のようだ。

 しかも、身分の低いご令嬢と、王子……ん?


 そこで、僕はこれはもしやと、レベッカを見た。

 彼女は熱心にイーサンを見つめていて、僕が見ていることには気づいていない。


 それに、ちょっと、なんとなく、イラっとする。

 イーサンに向かって恋愛感情がないとは思うけど、気分は良くない。


「私に教えられないような本なのかい?」

「そんなことは……」


 イーサンはエリス嬢に意地悪なことを言って、困らせて……いるふりをして、イチャイチャしている。

 自分が上手くいかない時に見ると、やさぐれたくなってくるな。

 リア充爆発しろ。


 そして、やっと踏ん切りがついて、レベッカを口説いて恋愛結婚を目指すのは諦めようと思えた。

 僕が彼女に届くのを止めてるだけで、家同士ではほぼ話が着いている。

 僕の家の権力が強すぎて、彼女の両親にはディネイザン家からの申し込みは断れないんだから。

 ここまで頑張ったけど……それも惜しいと思うけど。


 ……そうだ、あと一回だけ、頑張ってみようか。


 直球で求婚して、説明して、前世の記憶があることを追及してみるのはどうだろうか。

 いくら鈍くても、そこまで口に出されたら理解するだろう。


 もし予想が外れて、彼女に前世の記憶がないとしたら困るかもしれないが……

 いや、その時だって彼女と結婚したい意思は変わらない。

 それこそ乙女ゲームの開始が迫っている中で、異分子である彼女に強制退場の力が働かないようにしなくてはいけないのだし。


 結婚によって、僕はレベッカを守れるはずだ。

 ……多分。


 問題は、彼女が今のところ僕を恋愛対象に見てないことか。

 愛情がまったくないのは、ちょっと堪えるな。


 どうせ恋愛結婚にならないんなら、ゲーム回避のための偽装結婚のふりをしてみるのはどうか。

 むりやり権力を振りかざして結婚に持ち込むより、同意が得られればその方がいいか?

 とりあえず、どんな形でも結婚に持ち込んでしまえばこっちのものだ。

 その後で、ゆっくり口説けばいい。


 偽装結婚でも駄目なら、その時は権力を振りかざす覚悟を決めよう。

 そう決めて、改めてレベッカを見た。


 まだイーサンとエリス嬢を見てるし……


 そしてイーサンとエリス嬢はまだいちゃついていた。

 ほんとにリア充爆発しろ……!


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