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もうじき乙女ゲームの始まる季節ですが、僕の彼女は異分子です  作者: うすいかつら
本編

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3/15

【2】

 僕は十七歳になった。

 いや、二年次も終わり間近で十八歳も目前である。


 話が飛んですまない。

 しかしゲームのヒロインもいない、大したドラマもない期間を延々と語ることに意味はないだろう。


 しかし、エリス嬢の学園入学と共に現れた異分子の彼女については語りたい。

 異分子の彼女の名は、レベッカ・イルマン。


 なんで異分子なのかと言えば、エリス嬢の周りにいるご令嬢の中で彼女だけはゲームに登場しないからだ。

 だから彼女が異分子であると気が付いているのは、転生者である僕だけだ。


 彼女はよく、イーサンとその周りの学友四人を見ている。

 加えて、エリス嬢のことも見ている。

 学園に入学してから、ずっとだ。


 入学当初、彼女は正しくはエリス嬢の取り巻きではなかった。

 あのお茶会も、エリス嬢のテーブルの席が一つ空いていたので、そこにちゃっかり滑り込んだだけだったらしい。

 でもエリス嬢の取り巻きががっちり周りを固める中、そこに同席したいと言えたのは彼女だけだったらしい。


 らしい、が続くが、エリス嬢の周りに見覚えのない女子がいて、動揺した僕が彼女について聞き込みをした結果である。


 そして彼女はそのまま、その縁を掴み取って、いつの間にか取り巻きのご令嬢たちの中に最初からそこにいたかのように紛れ込んでいた。

 もしかしたら、イーサン辺りは本当に最初からエリス嬢の取り巻きだったと思っているかもしれない。


 とにかく彼女はじっと僕たちを、そしてエリス嬢を見ていた。


 とにかく見ているのだ。

 あんまり見ているから、イーサンも含めて皆気が付いている。

 目が合うと顔を逸らすから見ていることを隠したいのかもしれないが、バレバレだった。


 五人を均等に見ているかと言うと、イーサンを見ている割合がちょっと高いかもしれない。

 だけど残りはほぼ均等だ。

 悪意ある眼差しではないし、色目を使って言い寄ってくるわけでもないので、皆気が付いているけれど放置……という扱いだった。


 当初はちらちらとこちらの気を引いて、イーサンを含め、将来性の高い男から声をかけられるのを待っているのだろうと思われていた。

 当初は。


 ……その話はちょっと横に置いておこう。


 もちろん僕は彼女が異分子であることに、出会ったその時から気づいていた。

 少し悩んだ。

 ゲームと同じ姿同じ形へと動いていくと思われた世界に、ゲームの中になかったものが混ざったのだから。


 それが嫌なわけではない。

 ゲームとは変わる余地があるのかもしれないと期待できるなら、嬉しかった。


 しかしすぐに疑問も浮かんだ。


 本当に変化を期待できるのか?

 ゲームはまだ始まっていないんだから、ひょっとしたら彼女の存在はゲームとの差異ではなく、彼女がゲームにいなかった理由がこれから発生するのかもしれない……という不安に襲われた。


 それが、彼女に縁談が決まって、学園を退学するとかなら、いい。

 いや、今はもうそれも良くない気がするんだが、彼女の登場直後はそれでもいいと思っていた。

 しかしそんなおめでたい理由ではなく、怪我や病気で退場という可能性もある。

 もしそうだったら、そして本当にそうなったら、どうなのだろうか。


 怪我なら防げるかもしれない。

 病気でも早く見つけられれば悪化は防げるということだってある。


 ゲームのシナリオに関わる周りのプライベートの問題には踏み込めなかった僕だが、命が関わるなら別だ。

 人道的にも問題ないし、病気なら観察しているだけでも発見できるかもしれない。

 親しくなれれば、怪我の場所に立ち会える可能性もある。

 そう思った。


 下心があったわけではないことは、強く主張したい。


 彼女の退場時期はゲームの始まる前であるということしかわからないので、とりあえず、僕は彼女の観察から始めることにした。


「殿下」

「アーノルドか」


 学園は一年目の基礎教養過程が終わると、授業は選択制の専門課程になる。

 全員が必ずしもイーサンと同じ授業ではないが、誰かしら同じになるようにしていた。


 芸術科目はルーカスに任せて僕は回避したから、今日は昼前に別の授業を受けてから急いでイーサンたちと合流する。


 昼休みに入り、一般の学生たちは食堂や売店へと急いで移動しているが、大体エリス嬢の周りはのんびりしているので、まず授業のあった教室に向かう。

 大体は、ここでエリス嬢たちとも合流できる。


「エリス嬢を迎えに参りましょう」

「そうだな」


 そして僕が促すと動き出す。

 仮にまだ誰かが合流できていなくても、昼であれば待たない。

 大体学年が違うステファンが間に合わないんだが、イーサンは食堂の席が決められているので、ここで合流し損ねても食堂に行けばいいだけだからだ。


 昼はエリス嬢を迎えに行って、一緒に食事をする。

 この二年で、すっかりそれは定着した。


 僕が定着させた……と言うか。

 イーサンが恥ずかしがって抵抗したのは最初だけだった。


「どうなんだ? 少しは上手くいったのか?」

「…………」


 僕は横からそっと囁いてきたイーサンの言葉に、答えられない。

 ルーカスもにやにやと僕を見ている。


 そう、僕はかの異分子の彼女……レベッカに想いを寄せていると思われている。

 最初の頃は「誤解だ」と訴えていただけど、誤解は解けなかったし、そういうことにしておいた方が都合がよかった。


 ……都合がよかったからなんだ。

 それだけだから。


「エリス」


 エリス嬢と令嬢たちは教室でイーサンと僕たちが来るのを待っている。

 女子学生は花嫁修業が主なので、選ぶ授業の幅が男子より狭く、迎えに行った時に揃っていないことはほとんどない。


 こうして迎えに行くのが当たり前になって、もはや約束すらしていなかった。


「イーサン様」


 エリス嬢は嬉しげにイーサンを迎える。

 入学前より、はるかに二人の仲は良好だ。


「待たせたね。さあ、行こうか」


 イーサンが手を差し伸べ、その手をエリス嬢が取って、イーサンがエリス嬢のエスコートをする形で歩き出す。


 レベッカはその様子をにこにこと見ている。

 イーサンとエリス嬢の二人が仲良くしていると、レベッカの視線は二人に引き付けられがちだ。

 他を向いていることはあまりない。


「では、僕たちも」


 レベッカの前に手を差し伸べ、移動を促す。

 手を取ってくれたなら、エスコートするつもりはある。


 あるのだが。


「まあ、お気遣いありがとうございます。そうですね、お二人に遅れないように参りましょう」


 ……にこやかに答えながら、彼女は僕の手を取らない。

 これをスルーするというのは、むしろ失礼だと思うんだ……


 でも彼女は、僕の手を取らない。


 自分で言うのもなんだけど、僕は多分イーサンの周りの男では一番将来有望だと思う。

 周りもそう思っている。

 その僕がこうして見事に振られ続けているため、彼女の視線を受ける男たちの中で彼女はただの玉の輿狙いではないと認識を改められた。


「……行こうか」


 溜息を飲み込んで、イーサンたちを追う形で取り巻きな僕らも移動を始めた。


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