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【1】

 十五歳になり、僕たちは王立学園に入学した。

 ある意味での、もう一つの僕の転機はここだったと思う。


 ここは乙女ゲームの舞台となる学園である。


「ジェラルド、ルーカス、僕の入学を待ってもらってすまなかったね」

「いいえ。殿下と共に学ぶことが大切ですから」

「学年が違ってしまうと殿下を常にお守りできません」


 イーサンの学友の中で一つ年上のジェラルドとルーカスはイーサンに合わせるために入学を待っていたから、元々同い年の僕も含めると、四人のイーサンの学友のうち三人がイーサンと一緒に入学となった。

 一つ年下のステファンだけは入学を繰り上げられないので、来年入学してくる。


 大人になれば一つなんて大したことのない差だが、学齢ではその差は大きい。

 ステファンは血涙を流しそうなほど悔しがっていた。

 子どもの頃は素直だったステファンが、ゲームのひねくれショタ枠になる原因の一端かと考えると、ちょっと複雑な気持ちだ。


 今年入学なのは、エリス嬢もだった。


「しかしずいぶんと講堂が手狭だったな」

「例年は、こんなに入学者がいないんだよ」


 脳筋タイプのジェラルドが不思議そうに呟いたので、それに答えた。


「皆、殿下の入学に合わせたのか?」


 自分がそうだから、そちらへ思考が向いたようだ。


 確かにそれもあるだろう。

 一年くらいなら入学を遅らせて、王子のイーサンと同級になってお近づきのチャンスを増やした方が、一年先輩になるよりいいと考えた者もきっといるだろうから。


 転生前には知らなかったが、この学園は入学年齢が固定じゃない。

 入学年齢は十五歳から二十歳までの間で、任意の年齢。

 だから一年ずらすくらいは、元々問題にならない。


「それだけじゃない。元々殿下の同い年と、その前後の年の生まれの貴族の子弟が多いから」

「そうだったか?」


 普通は一年間に同い年の貴族の子は、そんなに多く生まれない。

 僕とイーサンとエリス嬢が同い年なのは、少なくともうちの両親とエリス嬢の両親が、王妃の懐妊に合わせようと狙ったからだと思っている。


 同じことを考えた貴族は多かったようで、僕の生まれた年の前後数年はアレントゥール社交界ではベビーブームだった。

 この辺、集中して貴族の子が産まれている。

 王女か王子が近いうちに生まれると思い、王族とお近づきになれるチャンスを得るために頑張ったんだろう。


 正妻が子を産めない年齢の場合は子どもだったら庶子でもいいと思ったのか、婚外子も多い……つまり、その一人がヒロインなのである。

 ゲームではそんなことは語られていなかったが、現実的に考えると実に夢も浪漫もない話だ。

 元々、親の代から計画的玉の輿狙いなわけだから。


 そういうわけで、今年は入学者が多いのである。


「そうだな。二、三年前の入学生の数は今年の半分もいない」

「そんなに違うのか」

「特別学生も今年は多いみたいだ。やっぱり殿下に合わせたんだろう」


 この学園は貴族の子弟しか入学できない。

 だけど特別学生と呼ばれる、相続権を持たない貴族の養子も入学して学んでいる。

 貴族の務めの中に優秀な市民の子を養子に迎えて学園に入れ、卒業後には国に奉仕させるというものがあるのだ。

 いわゆる才能に金を払う、パトロン制だ。


 そんな風に優秀な人材を育てる学校でもあるわけで、実はこの学園は、この国においての最高学府である。

 ゲームではヒロインが十七歳で少し遅れて転入という設定で、攻略対象中イーサンに合わせて入学を遅らせた者とイーサンと僕が十八で卒業という話だったから、転生前はてっきり高校相当なんだと思っていた。

 けど実際には、入学年齢も様々なら、卒業年齢も様々という大学だった。


 ヒロインの十七で少し遅れて――というのは、入学月に間に合わなかったという意味だったんだと思う。

 十七歳なら年齢は遅れていないし、制度上途中学年への編入もあり得ないからだ。


「学友となる者とは交流も図りたいが……あまりあからさまな者は困るな」


 イーサンが考え込んでいる。


「大丈夫です。下心のある者など近づけさせませんよ」


 ルーカスがふふんと鼻を鳴らして言った。

 貴族の自尊心はいいけれど、ルーカスは高慢さが鼻につくのがたまに傷だ。

 だけど、ゲームでもそういうキャラ付けだったからな。

 これは変わらないんだろう。


「あまり殿下を囲い込んでも、親しみがないよ。程よくしなければ」

「そうだな、アーノルド」


 ……いまだ思春期を抜け出せていないが、イーサンは同性には素直だ。


「そういえば、殿下、エリス嬢への挨拶はどうします?」

「ん……そうだな」


 イーサンは言葉を詰まらせて、視線を彷徨わせた。

 あからさまに挙動不審だ。


「行っておいた方がいいと思いますよ」

「そうだな、行こう」


 ちょっと強く押せば、頷くんだが。


 どうにも素直にゲームの通りになるのは癪に触るという気持ちがあって、今までにも恥ずかしがって距離を置きたがるイーサンをけしかけることはままあった。

 世界の都合、しかも一人の娘の恋愛という大したことのない都合で、自分の意思を歪められ選択が奪われるのは癪に障る。


 同時に不安でもある。

 自分の意思を歪められるなんて、死んだも同然じゃないのか、と。


 とは言え、この乙女ゲームはあまりにもささやかで個人的なシナリオ過ぎて、介入しようもない。

 無駄に大きく、魔王が復活する、とか言われても困るがな。

 スケール感は大きすぎても小さすぎても困る。


 いやあ、家の問題とか、個人の性癖とか、人が隠してるものをむりやり暴けないだろ……


 だから、他人のシナリオに介入するのは諦めた。

 正直イベントで上手く転がるとは言え、そういう問題にずかずかと踏み込めるヒロインに、今となってはちょっと引く。

 結局自分のところだけ早々に片を付け、たまに簡単で手を出しやすいイーサンとエリス嬢の問題にだけちょっかいを出すことにしている。


 それから僕たち四人は、入学式後は学内サロンで上級生たちによる歓迎のお茶会に招待されているはずのエリス嬢のところへ移動することにした。


「まあ、イーサン殿下、皆様、いらっしゃいませ」


 サロンの前に立つ学園付きの従者に来訪を告げると、お茶会の主催の上級生が迎えに出てきた。


 女性のお茶会に男性が横入りするのは本当のところはマナー違反なんだが、「お茶会に婚約者が参加している場合に、決まった相手のいない友人を連れて」というシチュエーションのみ学園では許されている。

 これは学園自体がお見合いの場であるという現れだろう。


「エリス嬢に挨拶をしたいと思ってね。お邪魔だっただろうか」

「いいえ。お優しくていらっしゃられて、羨ましいですわ。どうぞお入りになってくださいませ」


 イーサンに続いて、僕たちもサロンに踏み込む。


 僕たちは注目を集めていた。

 この時は皆が僕たちを見ていたから……その、彼女の視線はさほど気になるものではなかったが、しかし僕にとっては衝撃だった。


 エリス嬢のいるテーブルには、ゲームでも見た取り巻きの女学生たちの面影のある少女たちと……見たことのない子が、一人いた。


 ――あれは誰だ。


【乙女ゲー攻略対象的簡易キャラ紹介】(なお、現実とは差異があります)

アーノルド:知的腹黒枠

ジェラルド:体育会系脳筋枠

ルーカス:高慢芸術家枠

ステファン:ツンデレショタ枠

イーサン:真面目王子様枠

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