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それもきっと恋だから・3

 疑問はアーノルド様が訊いてくれた。


「薬代って、誰の?」

「母のです」

「えっ」


 思わず声が出てしまって、慌てて口を手で塞いだ。

 でも、リンディさんの視線はもうわたしに向いていた。

 じっと見られてドキドキしたけれど、リンディさんはただにっこり笑ってアーノルド様に視線を戻した。


 ……お母様の薬、と言われて驚くのは、とても怪しかったと思う。

 それはゲームが始まる前にヒロインの母が死んでいると知っていた……思っていたからだ。


 ゲームでは母を亡くした貴族の庶子のヒロインが父親に引き取られ、貴族教育を施されて学園に入れられる。

 ゲームではヒロインの学年がはっきりしなかったので、途中学年に入ってきたんだと思っていたけど、この学園のシステムから考えると一年生にしか入れない。


 ステファン様がショタ枠だから、少なくとも同学年だと思ってたんだけど、まさかの上級生……


 それでも、途中転入できるってだけでも、ヒロインは優秀だ。

 普通は途中からは入らずに、通常入学に合わせるものだから。

 でも、リンディさんのお父様は……多分、どうにかしてイーサン殿下が在学中に送り込んで、コネを作りたかったってことだろう。


 まあ、乙女ゲームのヒロインだけあって、リンディさんは可愛い。

 甘いストロベリーブロンドに、若葉のような緑の瞳。

 顔立ちも嫌味にならないタイプの可愛さだ。


 すごいわ、3Dヒロイン……

 リンディさんのお父様が無理をしてでも学園に送り込みたがった気持ちもわかる。


「お母様はご病気なのかい?」

「はい。わたしは妾腹でして母の手で育てられたんですが、わたしを育てるために母は無理して働いて倒れてしまいまして。もっと早くに父を頼れれば良かったんですけど、母の口が堅くって、父の名が全然わからなくって……どうにか聞き出して、父に取引を持ちかけた時にはぎりぎりだったんですよねえ」


 ああ、ステファン様が本当に固まっている。


「……何の取引を持ちかけたんだい?」

「わたしの顔で、どうにかして殿下かその周りの殿方にコネを作ってくるから母の医者代薬代を出してくれるようにですね」


 そ、それは、この二人の前で言っていいの、リンディさん……!


「お母様の容態は?」

「今はそこそこ落ち着いてます。過労からの肺炎だったみたいで、治らない伝染病とかじゃなくって良かったです。でも、まだ完治って感じじゃないんですよね」


 この世界、魔法があるから現代に近い文化もある。

 でも貧富の差が割と激しいので、貧しいと栄養失調や過労からぽっくり逝くことも珍しくはない。


「それで薬代か」

「はい。今は父の持つ小さな別邸で暮らしていて、わたしもそこから通ってます。寮暮らしが本来なんだと思うんですが、母から離れて、母が奥様にいやがらせを受けたりして病気が悪くなっても困るので」


 生徒は寮暮らしが本来……というわけではない。

 でも全国から貴族が集まる学園なので、半分ぐらいは寮暮らしだ。

 残り半分は王都にある自分の家のタウンハウスから通っている。


 この物言いは、どうしても乙女ゲームを思わせる。

 乙女ゲームのヒロインは、寮暮らしだったからだ。


「一応取引なので、何にもしないでいて薬代切られると困るんですよね。最低限現状維持で、もうちょっとお高い薬が買えるくらい……できればいいんですけど」


 な、何をできれば?

 コネ?

 コネだよね……?


 ふーん、と、アーノルド様は冷静に話しているけど、ステファン様はわなわなと震えていた。


 ステファン様はゲームではこんなに真面目だったかな……とも思うけど、どうもアーノルド様が色々迷惑をかけて苦労性になったきらいがあると言っていた。

 どんな迷惑をかけたのかは、教えてくれなかったけど。


 そろそろこのぶっちゃけ話はステファン様が限界じゃないかしら……と思っていたところに、アーノルド様が更なる爆弾を落とした。


「ずばり訊くけど、イーサン殿下の愛妾狙い?」


 アーノルド様――――!


「いえ、母は望んでわたしを産んだんじゃないんですよ。それでもちゃんと愛情持って育ててくれました。そのわたしが愛妾って立場だと、母が多分泣くと思うんで、避けたいです」

「じゃあエリス嬢を押し退けて、王妃を目指す?」

「いえいえ、わたし、下町育ちなので。現実的に上流のお嬢様にはなり切れないって実感してます。それを目指せるほどなら……怒られたりしないですよ」


 と言いながら、リンディさんはチラッとステファン様を見た。


 あああ……大丈夫かな……


「父がこんなもんかって思うくらいのコネ、そこそこ好感のある顔見知りになれればなあと思ってたんですけど、これが想像以上に難しくって!」


 まさか、一人になるタイミングが皆無だとは! とリンディさんが拳を固めて唸っている。


「あ、あ、当たり前だろう!? 君みたいなのを近づけないように、誰かは一緒にいることにしてあるんだよ!」


 あ、とうとうステファン様が爆発した。


「そりゃ、そうですよね」


 でも、リンディさんは堪えた風じゃない。

 図太い。


 やっぱり転生者なのかしら。

 お母様を助けるために状況を変えたと思えば、ちょっと納得がいく。


「それを空気読まずに君が突っ込んでくるから、エリス様も頭に血が昇っちゃって、イーサン殿下に迫ろうとするし! 卒業前にあの二人に既成事実ができちゃったら君のせいだからね!?」

「うわあ……そんなことになってたんですか……」

「他人事みたいに!」


 ……もう、通過したよね? 外……

 こんなに叫んでたら聞こえちゃう。


「落ち着いて、ステファン」

「アーノルド! これ落ち着いていられるところ!?」

「目的がはっきりしたんだから、折り合いもつけられるよ」

「どういう折り合いさ!?」

「そりゃあ」


 とアーノルド様は微笑んだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  リンディちゃんの根性の座りっぷりとぶん投げっ放しなぶっちゃけぶりが素敵過ぎます♪wwwwww  そして、腹黒は結婚しても腹黒なままだったwwwwww
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