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騎 兵

0815時 グアム島ジナプサンビーチ沖10km PREF第四騎兵師団所属ヘリ群


『空挺の連中はほぼ壊滅だ!降下部隊の半分以上が食われたらしい!』

司令部から打電されてきた最新の戦況図を見た瞬間にヘリ機長は思わず絶叫を上げていた。

その声はマイク越しに通信を共有している全部隊に瞬く間に伝達され、ヘリに乗り込んでいた陸軍兵士たちに衝撃を与えることとなった。

『おいおい、空挺の連中が橋頭堡を作って俺らがそこに悠々と乗り込むって初期戦略はどうなったんだよ?!』

『そんな司令部連中の机上の空論が通じないなんて端から分かってただろ?・・・所詮、真昼間に空に飛び出すなんて壮大な自殺行為にしかすぎねぇんだよ』

『それ言ったらヘリボーンだって同じじゃねぇか・・・』

兵士たちのヒソヒソ声も高感度マイクを使えばたちどころに他の隊員へとも伝達されていく。

投げ込まれた石が水面に波を広げるように不安の伝播は留まる所を知らなかった。

だが、その流れを許容していてはこれからの自身らの作戦行動に支障をきたす。

そのことを重々把握している中隊長はその場でマイクを口元に寄せるや、一喝を食らわせた。

『私語を慎め!・・・良いか?!空挺連中がそれだけヤバイ状態って事は俺らが踏ん張らなきゃ戦線が瓦解しちまうって事だぞ!騎兵隊の意地を見せるんだ!』

まくし立てた中隊長はその言葉が自身を鼓舞する事を最大の目的にしている事に気づかないようにしていた。


いよいよ陸地が眼前に迫ってくると彼らの緊張はいっそう高まってきた。

時速150km以上の速度で海面スレスレを高速飛行するヘリ群は傍目からみればまるで大移動をする昆虫の群れの様でもあった。

ワーグナーやマーチが鳴り響くわけでは無い戦場に轟くのはヘリの奏でる強烈なローター音と遠方から響く敵からの砲声だけだ。

幸いにして未だに直撃を食らった味方機はいなかったが、いつその事態が、それも自分たちに降りかかるかが分からない以上彼らの心拍数はうなぎ登りの一途だった。

そんな中で遂に敵の砲弾がヘリ群の端にいた一機に命中した。

徹甲弾によってメインローター部分を打ち抜かれたUH-60輸送ヘリはテイルローターの発生させる横向きのダウンウォッシュ気流によって独楽の如く急回転しながら急降下して行った。

海面に打ち付けられた機体は衝撃によってバラバラになり、12名の乗員たちの命をも一瞬のうちに奪い去った。

多量の気泡を残しつつ海面下へと沈降して行ったヘリコプターの存在の痕跡を残すのは水面に立つ一筋の波しかなかった。

その様子を真横から見ていた僚機の乗員たちは一瞬心臓が鷲掴みにされたような感覚に襲われた。

次は自分たちがああ成るのだ、という暗黙の了解じみた空気が機内に充満しかける。

その思いを裏付けるかのように彼らの前方を飛行していたヘリがまたしても敵砲弾の餌食となった。

しかも今度は貫通するタイプの徹甲弾ではなく着弾と同時に爆発する成型炸薬弾だったため、砲弾が機首に触れた瞬間、瞬発信管が作動し、弾底の火管により炸薬に点火することになった。

炸薬は爆轟し、爆轟波の高温・高圧により弾頭頂部の円錐のライナーが中心から流体化するや、メタルジェットと呼ばれる液体金属となって砲弾の前方へ飛び出して行った。

その速度は毎秒7kmにもなり、一瞬のうちにUH-60の装甲をその強力な圧力で打ち抜いた。

その穴からメタルジェットに次いで機内へと侵入したのは炸薬の爆発によって発生した3000度の燃焼ガスだった。

一瞬にして乗員をウェルダンに仕上げた燃焼ガスの勢いは留まる所を知らず、UH-60の機体内部の機器および機体後部に設けられたエンジンさえも燃やし尽くして行った。

その過程上でエンジンに供給されていたケロシンにガスの持っていた膨大な熱量が一部移動し、引火したことはそれらにとっては大した事ではなかった。

だが、ヘリの機体に対してより甚大な被害を与えたのはむしろそちらだった。

引火したケロシンは一瞬のうちにタンク内で強大な爆発を引き起こし、文字通り自身を内包していた機体を木っ端微塵に吹き飛ばしたのだ。

傍目から見れば砲弾の着弾から機体の爆散まではほぼ同時であり、明確な原因の線引きは無用だった。

今まで仲間を乗せて颯爽と飛行していたUH-60ヘリが火球を経て消失したことに呆然となる隊員たちの脳裏には“次”が浮かんでしょうがなかった。

あとは神に祈るしかない。後部座席に控える隊員たちは一様に頭を垂れ、目をギュッと閉じた。


そして彼らの直近で轟音が響く。

一瞬彼らは遂にこの時が来たのか、と覚悟を決めかけた。

だが、ヘリの機長の言葉で彼らは自身の予想と現実の光景が大いに異なっている事を認識させられることとなった。

『スワローだ!・・・味方の直援だ!』

その言葉に驚き窓の外を見た彼らは翼を纏った巨人がヘリに併走しながら空中で果敢に火線を展開している様を見て取った。

その姿は猛々しく、隊員たちは呆気に取られる他なかった。

地形追随飛行(NOE)中の各機に告げる!このまま直進するのは自殺行為だ!いったん両翼に展開しろ!』

直援に回っているスワローからの連絡に対してヘリパイ達はいささか懐疑的だった。

『敵に腹を晒せって言うのか?!』

『大体左右に展開したってアンダーセン基地周辺はどこも同じだ!いまさら進路変更なんて・・・!』

ヘリパイ達の愚痴にも似たレスポンスに対するスワローパイロットの反応は極めて明快だった。

『こんなに固まれたらこっちだって守りきれない!死にたくなかったら今すぐ散開しろ!』

最後の一言は強烈だった。

ヘリ部隊の指揮官は即座に決断を下す必要があると感じてしまうくらいだった。

『・・・リマは左翼に、マイクは右翼に展開!ノヴェンバーは両翼に分散し各隊の援護だ!』

輸送機で構成されるリマ隊とマイク隊は完全に二分させ、攻撃ヘリを主力に構成されているノヴェンバーを援護に回す。

戦力の完全な二分であったが、緊急事態に際してそれ以上込み入った判断を求めるのは正直なところ厳しかっただろう。

元々、各隊を頂点として三角形の陣形を組んでいたこともあり、各隊の散開はかなりスムーズに行われた。

各機の機長が心配した敵への機体下部を晒すという行為に関しては、ヘリ群の前方に躍り出、弾幕を形成することで敵への牽制とした。

味方への盾となるその勇敢な行為に対してヘリパイ達は思わず内心で賞賛を送っていた。


スワロー達の護衛によって第四騎兵師団に属する輸送機たちは犠牲を最小限に抑えたまま、65kmの敵支配下の海岸線を突破し、グアム島へと踏み込むことに成功した。

その一端、マイク隊の先頭で風を切って進むUH-60Jヘリのコックピットに驚いた声が響いた。

『見て下さい!海岸に誘導灯が!』

副操縦士が指差した先には白浜のど真ん中で両手に赤い蛍光色の発光ダイオードを仕込んだ誘導棒を左右に大きく振ってこちらに呼びかける迷彩服の男がいた。

その付近には周辺警戒であろうか、十数人の兵士たちが油断無い動きで展開している。

どうやらあそこが先遣空挺部隊の確保した降下ポイントらしい。

『全機に連絡。降下地点を確認、我に続け。ノヴェンバー隊は周辺警戒だ』

言い切る前に舵を切った機長は白浜の中に着陸用スポットの円陣を思い浮かべた機長は空挺隊員の拙い誘導であっても完璧なランディングを決めて見せる自信があった。

『どうだい?!・・・これでも訴訟を起こそうなんて気が・・・』

海岸の砂を巻き上げながらも、一発で綺麗な着陸を決めて見せた機長は自慢げな顔をキャビンに向けたが、そこには既に人影はなかった。

ランディングが成功しきる直前にキャビン内に控えていた隊員たちは我先にとグアムの大地へと降り立っていたのだ。

「・・・支払いも済ませずに降りるたぁ、連中も良い根性してんじゃねぇか。・・・拾いに来るまで、くたばんじゃねぇぞ」

機長の独り言は虚しくキャビンに響いたが、彼らにそんな感傷に浸れる時間はなかった。

『これよりマイク78は離陸、一旦“カー・オン”に帰投し、物資輸送任務に移る』

『こちらマイクリーダー、了解した。数機で固まって移動しろ。直上に空軍の護衛を申請しておいた』

『了解ぃ。こういう時は頼みになるな』


一方、マイク78が兵員を輸送している横では大型輸送ヘリCH-47によってヘリボーン用に分解された状態のTVF-18が各パーツ毎に次々降ろされていた。

ロープで吊り下げていた荷に始まり、機内に搭載していた分までありとあらゆる形で運ばれたパーツは、先遣隊として準備していた工兵師団のVSによって着陸とほぼ同時に組み立てられていく。

日華産業の誇るVA、“サイフシリーズ”。それは正確に言えばコアブロックの名称である。

それ以外の部位は日華産業の生産している全パーツがいかなる形であれ流用が可能なように設計されている。

故に作戦行動によっては人に近しい二足歩行型を取ることもあればその他の形態をとることもある。

今回のような大規模作戦においては、むしろ砲撃の的に成り得る二足歩行型よりも他の形態の方が殆どであった。


脚部は戦車のような無限軌道型やアメンボのような多脚型、腕部は人間のような腕になっているものや長銃身の火砲そのもの等、戦術可変マニュピレーターの名に恥じないバリエーションがそこにはあった。

ある機体は多脚パーツに通常腕部の組み合わせをコアパーツに接続し、不気味な怪物のような外見を醸し出した。だが、その多脚による不整地走破能力は通常車両の比ではなく、更に腕部に抱いた武装も通常の装甲車の有する重機関銃ではなく、歩兵戦闘車クラスの35mm機関砲だ。

だが、それでも飽き足らず戦車を撃破する程の火力を有した機体もあった。脚部とコアは前者と同様の構成であったが、腕部を日華産業製40口径120mm滑腔砲そのものに換装したそれはまさに多脚戦車と呼称するに相応しい機体であった。それは火力不足が叫ばれたこの戦線において最大の砲爆兵器となったのだ。

『こちらリマ66。第39機甲中隊各員に連絡。これより歩兵戦力への支援任務に入る。・・・騎兵隊のお出ましだ、派手にラッパを鳴らせ!』

中隊長機から発せられた通信に反応し、中隊を構成する12機のサイフが一斉に起動する。

その構成は多脚戦車型3機、多脚通常腕部型6機、無限軌道脚通常腕部型3機、二足歩行通常腕部3機、という一般的中隊構成だった。

起動を終えた各機は内陸部に位置するアンダーセン空軍基地を目指し、内燃機関をフル稼働させると最大戦速で疾走して行った。


突如出現したVA部隊に対して通常機甲化戦力を主力に構成されている米軍は戸惑いを隠せなかった。

なにせ米軍の基本戦術は在来兵器のVAへの圧倒的優位というものを前提に構成されている。

だが、それがPREFにいたっては真逆に通常の組み換え型はもとよりその存在の有効性までも一時は否定された可変型まで、自軍の保有するほぼ全種のVAを惜しみもなく投入していたのだ。

だが、彼らにしてみれば一瞬の驚きこそあれ、単に投射面積の大きな的が戦場に一気に出現した、程度の認識しかなかった。

故に彼らはスワローによって些か減らされたものの十分な数を誇る主力戦車たるM1A3を前面に押し出し、その頑強な装甲と機動力を以ってして敵戦力の制圧を図ることにした。

元来なら対空ミサイルを搭載した装甲車両も随伴させるのがセオリーではあったが、先ほどからの散発的なスワローによる対地攻撃によってそれらの戦力は減退の一途だった。故にそういった戦力は司令部などの重要拠点防空任務に振り分けられることになったのだ。


前面に押し出された敵戦車に対してPREF側も流石にVAをぶつける様な真似はできなかった。

搭載している火砲は同サイズであり、物理的な撃破は可能ではあったものの、機動力がスワローほどある訳でもなく装甲も戦車のそれとは比較できないほど薄いサイフを前面に出すことはこの状況下では自殺行為に過ぎないと判断した為だった。

そこで彼らが用意したのは“タンクバスター”の異名をとる対地攻撃ヘリ達だった。

AOH-1を中心とする合計32機の攻撃ヘリが一斉にグアムの大地をまるで舐める様に飛行する。

獲物を探す猛禽類の如きその様は傍から見ているだけでも壮観だった。

だが、彼らは単に飛ぶ事のみを目的にしている訳ではない。

機首に備え付けられた30mmチェーンガン、機体横のパイロンに垂下された各種対地攻撃用ミサイルやロケット弾、それらを敵に対して放つ瞬間を今か今かと舌舐めずりしながら空を駆けているのだ。

そして、その目的はすぐさま果たされることになった。

先頭を行く機体が接近する敵戦車群をそのレーダーに収めたのだ。その瞬間、データリンクを通じて全機に対して敵の位置情報および速度などの各種情報が共有される。

『各機、単独戦闘は避けろ。エレメントを崩さずにトップアタックを試みるんだ』

『了解!』

隊長機の指揮を受けて2機編成の編隊を組んだ各機が一斉に散っていく。

彼らは自身らの仕留めるべき敵の姿を確認するや、何の躊躇もなくパイロンに装填されたTOW対戦車ミサイルの引き金を引く。

一斉に発射されたそれらは有線誘導用のワイヤーを尾のように引きながら獲物たる戦車へと迫っていく。

対空装備を有していない戦車にとっては最悪の展開だった。

接近するミサイルが目視による有線誘導であることを見抜いたのか、発煙弾を周辺にばら撒いて煙幕を展開する戦車群だったが、彼らの目論見を一瞬で挫く存在がこの戦域にいる事は彼らの想定外だったのだ。


『煙幕なんて俺たちが散らしてやるよ!』

威勢の良い掛け声で煙幕に向かって突入して来たのは航空機形態に変形したスワローだった。

展開された煙幕の中を高速で駆け抜けることでさながら雲を散らすかのように煙幕を分断していく彼らの活躍によって、ヘリパイロット達は目標たる戦車をその視界に収める事が出来たのだ。

『そこかぁ!』

煙幕の切れ目から一瞬だけ捉えたM1A3の影を見逃すこと無く、更にその先に描くであろう軌跡さえをも見切ったミサイル誘導員は手元のスティックをこまめに動かすや、その着弾を今か今かと待った。

だが、待つまでも無かった。

彼の操縦によって敵戦車へと正確に敵戦車へと導かれたTOWは側面から砲塔と車体との接合部分へと狂い無く直撃し、一瞬のうちに戦車内部に灼熱の炎を撒き散らした。乗員は一瞬にして溶解し、更に爆発の圧力によって砲塔を4mはぶち上げた。

『ワオ!』

瞬く間に燃える鉄屑と化したM1A3を横目に見つつ更に煙幕を散らし始めたスワローのパイロットをしても驚くしかなかった。


戦車の撃破に感嘆していたのは何も航空戦力だけではなかった。

勇猛果敢に大地を駆けるVA部隊にしても最大の敵たる戦車が煙幕越しに狙撃されたという事実には驚くしかなかったのだ。

だが、彼らはこの予想外の出来事をただ黙って見過ごすほどおっとりしている訳ではなかった。

『ノヴェンバーとのデータリンクは正常だな?!俺たちもこの狩りに参加だ!煙幕が散りきる前に120mmで奴らを穴だらけにしてやろうぜ!』

一気に接敵をかける彼らの後姿はまさに現代に生きる巨人の騎兵であった。



0830時 硫黄島南方600km上空6000m 戦略航空自衛軍部隊


ガルム1以下の戦闘機部隊が前線で大暴れしている後方400km、敵ミサイルの完全な圏外であるエリアには今作戦の要とも言える一機の航空機が飛行していた。

一瞬旅客機かと見間違えるその機影はボーイング社製B-767を基に独自の改修を加えられたKC-767と呼ばれる双発ジェット機だった。

だが、それが単なるジェット機でないであろう事は素人目にも分かった。

機体後方、本来ならのっぺりしている筈の部分から何やら尾っぽの様な鉄の筒が空中へと伸ばされていたからだ。

ブームと呼ばれるその筒の目的は飛行中の戦闘機とKC-767本体とを接続し、KC-767機体内部に抱いた燃料を戦闘機に対して注入することにあった。

そう、このブームを含む外見上の特徴こそがKC-767が通称“タンカー”と呼ばれる空中給油機であることの最大の表れであったのだ。


既に硫黄島からグアムまでの巡航に際してその機体内部に抱いた燃料の半分近くを味方機に譲り渡してはいたが、まだまだ燃料タンクの中には戦闘機二・三機を満タンにさせ、戦闘飛行させるに足るだけの燃料があった。

そしてその燃料に引かれ、また一機のF-15がKC-767へと急接近してきていた。

『サベージ3より、タンカー1へ。これより給油をお願いしたい』

『タンカー1了解、サベージ1は所定の位置につけ』

了解を取り付けたサベージ3はタンカー1の真後ろを取るような形になるよう大きく旋回する。

相対距離をつめるべく、一定速度のサベージ3に対してタンカー1は徐々に減速していく。

ある程度の距離に入ると、サベージ3はそれまで等高度であった機体を数m下降させる。

それはタンカー1が給油体勢に入る際、給油ブームを機体後方に対して水平ではなく、少々斜め下に傾ける為だ。

給油ブームが自身に接触するのではないか、と思えるくらいに接近したサベージ3はタンカー1との相対位置を崩さないことに腐心し始めた。

そこからはタンカー1側の腕の見せ所だったからだ。

両機の位置関係を維持した状態で給油ブームの先端が上下左右に動き始めたのだ。

F-15の機首向かって右、エンジン吸気口のある上面にある空中給油用の給油口を目指して微調整を行っていると分かってはいても、サベージ3にしてみれば自身の目の前で鉄の管が細かく動く様は見ていて気分の良い物ではなかった。

流石に手慣れたもので、ものの数十秒で給油口の直上へと給油ブームを調整し終えたタンカー1は給油ブームの先端を一気に伸長させ、サベージ3の給油口へと押し付けた。

サベージ3側のモニターに接合完了の文字が表示される。

後はオートパイロットにして現状を維持するだけで良い。暫しの休息だ、と内心に呟いたサベージ3は給油メーターの値が満タンになるのを待つ事にした。


一方その頃、空中管制機“ゴースト・イーグル”の機内では一人のオペレーターが不審そうな目をモニターへと向けていた。

彼が担当するレーダー画面上にてホンの一瞬だけではあるが何かの機影が写ったのである。

レーダー感度を調整して再度捉えられるかを試みたものの、その一瞬しか反応は得られないままだった。

一応の警戒はしておくべきだという彼の悶々とした不信感は募るばかりであり、彼は自身の上官たるレーダー主任に声をかけようとした。

だが、第一声を上げるより先に機内にはもっと大きな声が響くことになった。

『こちらJSASDF所属タンカー1!方位1-9-5に敵影らしきアンノウン感知!確認求む!』

その方向は今まさに彼が不審感を覚えた方角に違いなかった。


異変を感じ取ったタンカー1だったが、時既に遅し、と言うしかなかった。

なぜなら、彼らが捉えた不審な機影というのは敵機そのものではなく、敵機の放ったミサイルであった為だ。

高速で迫るミサイルに対してタンカー1は即座に回避行動を取ろうとしたが、彼らは自身が給油と言うデリケートさが要求される行為の真っ只中にいたことを失念していた。

サベージ3との間に張られた給油ブームによって回避行動を制限され、チャフやフレアを撒く事も叶わない。

彼らに残された道はただ神に祈りを捧げる事だけだった。

一方で、サベージ3は異変を嗅ぎ取るや即座に離脱の準備を始めていた。

ギリギリまで給油し、その上で敵機を仕留めるべきとの思考だった。

そして、マッハ3で迫るミサイルはそんな様々な人々の思いを露とも知らず一直線に驀進し、タンカー1に直撃した。

接触信管が作動し、弾頭に内蔵された炸薬が爆ぜる。

その衝撃波によってタンカー1の外壁は瞬く間に砕かれた。同時に機内に充満した高熱のガスは機内の軍人や装備を悉く燃やしていく。そしてついにその熱がタンカー1の腹に抱かれた大量の航空燃料に伝播し・・・、高度6000mの空に巨大な花火を発現させる事になった。

人の生命を吸い込んだ汚い炎の色は見れたものではない。

だからこそ、サベージ3は着弾直前にタンカー1から離脱し、距離を取っていた。

幸いにして爆発の衝撃や破片に巻き込まれること無く、未だ空を漂う事が出来ていたものの、間近で見る友軍機の撃墜に彼の精神は激しく動揺していた。

その結果、彼はレーダー画面上を高速で移動する指標を見逃してしまった。

高速巡航で近づくその物体は冠された猛禽の名に違わぬ雄雄しさ・気高さを以って、太平洋の空で最強を誇ってきた鷲を狩るべく疾走を続けていた。


彼がその目標を捕らえたのは、このレーダーが発達した今日においては有り得ないであろう、目視という手段でだった。

『バカな!?後ろに付かれただって?!』

あまりに静寂かつ迅速に自身の背後に回りこんだ敵機、F-22ラプターを目前にしてサベージ3は驚く以外の行為を取れなかった。

本来ならロングレンジから撃ちっ放しミサイルで目標をレーダー上で捕らえることも無しに撃墜するやり方を取ってきたラプターがこんな至近距離にいる訳が分からず、彼の頭の中はパニックに陥る。

その目的は即座に明らかになった。

背後に回りこんだラプターは右翼付け根上部に設けられた蓋を開放し、通常時は機内に隠れたままのM61A2機関砲の銃口を露出させる。

『ガンキル狙いだとぉ!?ふざけるなぁ!』

空中格闘戦最強を半世紀に亘って誇ってきたイーグルドライバーとして、いや現代航空戦を生きるパイロットとして高性能ミサイルではなく機銃によって撃墜されるなど屈辱以外の何者でもない。

彼は即座に機体を左に傾けるや、機首を引き下げた。

機首を引き上げた状態で行う通常の右ターンとは異なる、ドッグファイト時にのみ用いられるスリップと呼ばれる空中機動だった。

後方から追撃する敵機にはあたかもこちらが急に消えたように映るはずだ。

そうしたら今度はこちらが敵の背後を取り、一気に短距離ミサイルで勝負をつけてやる。

イーグルを甘く見たツケを払わせてやる。

内心で息巻いたサベージ3は自身の前方へと敵機が躍り出るのを待った。

確かに自身を追い抜いた敵機は、サベージ3に対して背面を見せるという本来なら致命的な攻撃タイミングを与えてしまった。

メビウスの輪をイメージして描かれたエンブレムがハッキリと視認できる至り、サベージ3は自身の勝利を確信した。

だが、彼はそこで驚くべきものを目撃することになってしまった。

背面をこちらに向けていた敵機が機首を一気に引き上げたのだ。単にそれだけなら驚くべきことは何も無い通常の航空機の機動だ。だが、敵機であるF-22は機首を引き上げるだけでなんとその場でほぼ180度回頭してみせたのだ。

通常ならば有り得ない機動にサベージ3が戸惑う間に敵機は対面になったサベージ3の脇を機銃を放ちながらすれ違っていく。

そのわずか一瞬のうちに両エンジンを徹甲焼夷弾によって打ち抜かれたサベージ3の機体はたちまち推力を失い、遥か下方の太平洋に向かって自由落下していく。

その様子を確かめるや、もはや興味を失ったかのように去っていく敵機を確認しつつ、即座にベイルアウトを決意したサベージ3は座席の自身の股間付近に設けられた脱出用レバーを一気に引っ張ろうとした。

だが、まだ余裕があると判断した彼は通信系等が生きているうちに敵の存在を伝えることが重要だと考えた。

レバーが引かれる直前、広域帯で戦域中に無線が響く。

『PREF全機に警告!一機凄いのがいる!リボンをつけた奴だ!リボンつきに注意しろ!』



0845時 グアム島内 特殊部隊キューヘッド


「おうおう、なんだってたった一個分隊にここまで大規模な配置するかね」

「APCが5台なのは報告通りにしてもIFVが4台なのは悪い大誤算ですね」

戦闘が繰り広げられている図書館を前にして後藤たちは物陰から敵情視察を行っていた。

副官がため息とともに現状がかなり自分らにとって不利な状況であることを告げる。

「こっちは増援の俺達を入れても一個小隊未満です。正直分のある勝負とは到底言えない状況ですよ」

周辺警戒に当たっている古参の軍曹も聞こえるような独り言で更に後藤に状況分析を伝える。

言われずともわかっているよ、と後藤は彼らに苛立ちを返そうとしたが、そんな時間すらも惜しいという事態に気づかされる事になった。

図書館後方に待機していたIFVに搭載された25mm機関砲が火を噴き、図書館の自慢でありそうなステンドグラスを粉々にしていったのだ。

どうやら支援砲撃の一環らしい。

隠密に接近するために内部で歯を食い縛っているであろうキュー4には一切の連絡をしていない。

今の砲撃で彼らが相当動揺しているであろう事は想像に難くない。

「・・・強行突破、とはいかないか?」

「当たり前です!映画かドラマじゃないんですよ?!」

「冗談だよ。そうマジになるな」

まるで夫婦漫才かの様に息のあった掛け合いだったが、戦場という場においては異質なものにしか写らなかった。

特にある隊員は不安が膨らむ一途だった。

「おいおい、こんな人たちが連合特殊部隊の司令と副司令?・・・勘弁してくれよ」

だが、別の隊員にしてみればその隊員の物言いの方が後藤たちの掛け合いよりも笑い話だった。

「なんだぁ、お前?あの人達がどういう人達か分かってて言ってんのかよ」

「資料には目を通してますよ。対北戦争の英雄、“杉林の虎”こと後藤雅人二佐とその副官たる平沼勇樹一尉。日本人なら大半の連中が知ってますよ」

吐き捨てるような物言いにもやはり返されたのは嘲笑だった。

「そういう意味で言ってるんじゃねぇよ。あの人達が戦場で冗談飛ばしてる時は、ピンチでも何でも無ぇ時なんだよ。特にあぁいう掛け合いの時は勝算が高い時だな」

「はぁ?!」

訳が分からなくなった隊員は周辺警戒という自身の役割に徹することに決め、くだらないやり取りを遮断した。

どの道、これからの行動が周知される時に彼らの実力は否応無しに分かる。

少なくとも彼らの部下である以上、彼らが愚者でないことを切に祈るしかないだろう。


「諸君、聞いてくれ」

突如この一言で後藤の下へと全員が集合する。

「現状においてキュー4の救出は非常に困難であると言わざるを得ない。原因はあそこで砲煙をぶち上げてやがるブラッドレー(歩兵戦闘車)だ。そこで、我々はあの4台を無力化する。方法は一台を奪取、それを用いて他の車両を制圧、以上。至って簡単な話だ」

おどける様に言ってみせた後藤を前にして副官以下数名の隊員は苦笑いを浮かべただけだった。

一方、先ほど彼の言動に疑問を抱いていた隊員を含む数名は苦笑いどころか大口を開けて絶句するしかなかった。

だが、その驚きを見透かしたのか後藤は不意に真顔になり、彼らに告げた。

「中には無茶と考えてる奴もいるかも知れんが、生憎と俺は賭け事の類は嫌いでね。これでもかなり考えた上で最も成功確率の高い作戦を選択している」

心のうちを見透かされたような発言に対して一部の隊員たちの驚きは更に大きくなった。

「では、具体的方法を説明する。まず平沼率いる3人が観光客を装い、最後尾のIFVに接近する。当然連中はそれを制止にかかるだろう。その直前で別働隊一が図書館向かいに仕掛けたC4を爆破、敵の注意をそらす。このとき平沼達はともかく動揺を装う。パニック寸前になれば米兵の連中が取るであろう行動は二者だ」

右手の一指し指と中指を立てた後藤は左手でまずは人差し指を押さえた。

「一つ、人道的に平沼たちをIFV内部へと保護する。これは非常に上手くいったパターンだ。ステープラー等で拘束されたとしても内部に入り込める点は非常に有意義だ。そのままスムーズに進行できる。問題は・・・」

人差し指を折り、中指へと左手を持っていった後藤の口調が固くなる。

「その場で米兵が面倒くさがって平沼たちに銃口を向けた場合だ。そん時ぁ、少々面倒くさいが、別働隊二がIFV周辺で弾幕展開、平沼たちの援護を行う。その際はIFV内部へと逃げ込むような誘導をするんだ。扉が開いたところで平沼たちが強行突破、ってところだな。尚、両展開どちらの場合でも他の3台のIFVの目をそらせておく役目が必要になる。それらに関しては内部のキュー4に少々がんばってもらう、ってところだ。・・・何か質問は?」

周囲を見回した後藤に対して質問の声は上がらなかった。

その様子を見て、頷いた後藤は隊員たちに所定の位置につき、行動する事を命じた。

「俺達ゃ軍服も階級章も着けてない。解釈次第じゃ、ジュネーブ条約の対象外だ。何されても文句は言えん。だが、逆に言えばそのリスク分何しても許されるって事だ。・・・敵に情けはかけるな、以上。各員は所定行動に移れ」

真剣な表情で各々の職責を果たすべく駆けていった隊員たちの後姿を見、後藤は彼らなら命を預けられる、と今更ながらに感心していた。



同時刻 グアム島西南方沖450km PREF太平洋方面海軍第一艦隊旗艦『赤城』司令部FIC


「各戦線の状況報告を」

到着するやいなやニコラス・キング中将は各軍の司令官たちに向き直った。

彼の言葉とほぼ同時にFIC正面にある大型ディスプレイにグアム島の3D地図と俯瞰図の二種が提示され、定時作戦会議の体裁が一瞬で整う。

各部隊の最高幹部たちが集結するのは開戦以降初のことだった。

「では私から報告させていただきます」

そう言って一番に開口したのは航空戦力担当幕僚だった。

彼は手元のリモコンを操作し、大型ディスプレイのグアム島俯瞰図上に幾つかの光点を登場させ、説明を開始した。

「0800時、レッド・イエロー両隊および戦略航空自衛軍(JSASDF)の連合部隊によって敵AWACS撃破に成功。この時点から徐々に東側より航空優勢を獲得しつつあります。ですが0830時、JSASDF所属の空中給油機が敵F-22の奇襲によって撃墜され、部隊には動揺が広がっています」

「特にJSASDFの連中にしてみれば、帰りの燃料が係っているからな。戦闘を避けがちになりかねん。しかし、あんな後方まで敵が進出してるとは・・・」

口を挟んだ邀撃航空団幹部の言葉にうなずいた航空戦力担当幕僚は言葉を続けた。

「確かに、今回の日本政府の方針はあくまでも本土からの“独自”派遣であってPREFとの“共同”作戦ではないというのが議会説得のための口実ですから、当然ながら当方の基地を使用する事はしないというのが徹底されています。だからこそJSASDFは硫黄島とグアムとを往復する必要に迫られ、それ故の空中給油機でした。この件に関して硫黄島の戦略自衛軍(JSSDF)現地司令部に問い合わせたところ、すぐに追加の空中給油機とともにJSASDFの第二波を送るとの回答がありました。ですが、これはあくまでもあちらの政治問題ですので、こちらとしてはむしろ給油機を落とした敵機の存在のほうが気がかりです」

苦々しく吐き捨てた幕僚に呼応するように空軍情報部から派遣されてきた連絡士官が口を開く。

「撃墜されたサベージ3の最後の通信と敵機の異様な機動性から、おそらく敵は米国ネバダ州ネリス基地第57航空団第118戦術航空隊、通称“メビウス隊”所属の改良型F-22であると推定されます」

「わざわざ世界最強と噂されるトップエースを試作機ごと本土から引っ張ってくるとは、連中も相当本気ということだな」

「しかし、それにしては陸上兵力の貧弱さが気になります。最新型のM5主力戦車は現在まだ確認されていませんし、VAも沿岸部に数個大隊規模で展開していた程度です」

連絡士官からの報告を聞き、各所から様々な声が上がる。だが、上座に鎮座する男はそのような無秩序じみた言動を許せなかったようだ

「その件に関しては後回しだ。航空戦力に関する報告を最後まで頼む」

ぴしゃりと言い放った中将に応え、航空戦力担当幕僚が再度口を開く。

「はっ。続いて戦略輸送航空団による陸軍空挺部隊の輸送に関して報告します。0645時にパラオ島を発進した各機は0800時より予定降下地点への隊員の降下に成功したものの、敵対空装備によって被害が発生した模様です。その点に関しては陸上戦力担当の方から報告があるかと思いますので、こちらは各方面への対地・対艦攻撃に関して報告します。0645時より西側からストライカー・ポインター隊によって地上目標に対して爆撃を開始、初期目標の7割の破壊に成功。尚、現在両隊は西側から上陸した陸上部隊に対する近接航空支援(CAS)任務に移行、続行中です。バッター隊および陸軍から移籍したデルタ隊は0700時より共同して敵イージス艦部隊への対艦攻撃を実施、8隻を撃破。艦隊構成の残存艦に関しては航行不能を確認しました」

その言葉と同時に航空写真であろうか、若干ピンボケしてはいるが、はっきりとアーレイバーグ級イージス艦と分かる艦影が捕らえられていた。

その艦体中央からは黒煙が上がっており、目を凝らせば艦橋上部には白旗と思しき物も掲げられている。

「後で第二艦隊から偵察隊を出して確認しよう。それまでは射程圏外に全機退避させろ。戦力を一部に留め置くのは時間の無駄だ」

第二艦隊との連絡仕官が頷くや連絡用の回線へと走る。

それを確認した後、そのままの流れでキング中将は海上戦力担当幕僚に目を向ける。

自身の出番を認識した海上戦力担当幕僚は航空戦力担当幕僚からディスプレイのリモコンを受け取るや、自身の担当分野に関する説明を始めた。

航空戦力を示していた指標が消え、代わりに海上を航行中のPREF艦艇の位置が俯瞰図の中に表示される。

「では、海上戦力に関する報告をさせていただきます。0630時より連続して上陸ポイント周辺への巡航ミサイルによる爆撃を実施。ほぼ全弾の爆撃を確認しております。敵からの反撃に関しては最大広域で発動した“ヤタカガミシステム”によって被害を最小限に抑え、現在までに軽微な損傷を被った艦は幾つかあれど撃沈された艦はありません。また、戦略海上自衛軍(JSMSDF)第一護衛艦隊および軍令部麾下ロメオ隊とのデータリンクは正常稼動中です。JSMSDFは保有する航空戦力を含めてGWCSGへの牽制に全戦力を振り分けています。・・・尚、ロメオ隊に関しては、軍令部独自の指揮命令系統に従っての活動との事ですので、“我々”は一切関知しておりません」

苦々しく付け加えた海上戦力担当幕僚は半ば憎しみをこめた目で軍令部員たちが控えるFICの一角をちらりと見やった。

しかし、まだ報告が済んでいない事項があることを思い出し、一呼吸を置いて報告を続けた。

「我が方の保有する航空戦力に関してですが、先ほどになって漸く特務艦隊所属空母『飛鳥』が戦域に到着しましたので、そちらから漸次発艦させ、航空戦力の増援に向かわせます」

言葉を切った海上戦力担当幕僚を見て取り、陸上戦力担当幕僚が手に持った予備のリモコンで以ってディスプレイを操作する。

大小さまざまな矢印がグアム本島内に表示され、戦力の配置が一目で分かるようになる。

「では、陸上戦力に関する報告を致します。現在までにグアム島に一部でも上陸した部隊はアルファからチャーリーまでの第一歩兵師団、オスカー・パパの第五砲兵師団、工兵師団のシエラを除く全部隊です。尚、海兵隊および戦略陸上自衛軍(JSGSDF)第一空挺団も問題なく上陸しております。各部隊の損害状況ですが、最も被害を被っているのは空挺部隊です。おおよそ半数近くの兵士が死傷、戦闘継続能力を失っております。幸い、彼らはそもそもの人員が他の部隊に比べて最も少ないため、壊滅状態にあると言ってもその数は微々たる物であり、陸上戦力全体の戦力はなんら問題ない状態であると言えます」

無表情のまま淡々と続ける陸上戦力担当幕僚は画面を操作し、それまで画面に表示されていた地図を上陸を続ける機甲部隊の映像に切り替えさせる。

「海兵隊の強襲によって南岸の予定上陸ポイントは無事に制圧されました。現在は主力機甲部隊が上陸および編成を行っており、このままで行けば一時間以内に本格的北進に入れるかと考えられます。また、これと同時並行で行われているアンダーセン空軍基地への陸上侵攻のための空挺・騎兵両師団による攻撃も空挺部隊の損失をカバーする形で騎兵師団所属のVAと攻撃ヘリがその機動性で縦深型の戦線を構築することに成功しており、空中からのVAの援護を含めればアンダーセン基地周辺を固める敵機甲部隊を釘付けにすることは少なくとも可能であるかと考えられます」

再び画面が地図へと変わるや、地図がスクロールし西部側の戦線が拡大される。

「対艦ミッションが一段落着きましたので、こちらに貸与されたスワローも更に援護に回すことが可能になります。そうなれば直接アンダーセンへの空爆も可能になるかと考えられます」

航空戦力担当幕僚が勢い付いた様に続けるのを見、キングは静かに頷いた。

「調整は任せる。如何にして敵航空戦力の減退を図るかが最重要だ。敵は陸海両面において航空戦力に依存する傾向が強い。GWからの増援戦力が到達するより先にグアムの空を押さえるんだ」

ディスプレイに振り返ったキングは静かに続けた。

「島内に潜伏させた特殊部隊はどうなっている?」

その言葉に対応したのは先ほどまでの各軍の報告を聞き流していた軍令部員だった。

「現在数十の分隊に分散した“キュー”は各所にて撹乱のための行動を実施中であります。秘匿任務のため現在は無線封鎖中ですが、少なくとも最新の報告ではこれまでに主要道の分断や、敵機甲部隊集合地点へのGPS発信機の設置などを行っておるとの事です。尚、それらの箇所については我々で随時データリンク画面へと入力しておきましたので、各部隊に大至急確認するように連絡をお願いいたします」

勝手に進めてきて、大至急で確認しろとはなんとも上から目線なものだ、とその場にいる殆どの者の心境は一致していた。

そんな彼らの思いを汲んでか否か、キングはまたしても静かに問うた。

「“彼ら”は今どの辺りだ?」

「おそらくはまだ狙撃地点への移動途上かと」

目標に関して秘匿を続けるために具体的名称を出さなかった軍令部員だが、その狙いはキングによって打ち壊された。

「ジョージ・ワシントン、アレを落とせるかどうか、“我々”の切り札の価値もそれでハッキリするな。おりしも『飛鳥』には宇宙総軍の開発したP計画の産物も乗艦していると言うしな。図らずとも比較試験の形になったわけか」

遠くを見るように呟いた彼の視線の先にはグアムの燃え盛る大地が見えているかのようだった。

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