概 説
歴史に『もしも』という言葉はない。
それは自身らの歩んできた流れを否定する事に繋がるからだ。
だが、我々の溢れ出さんばかりのリビドーは時として歴史に『もしも』という言葉を当てはめようとする。
この物語はそんな『もしも』が積み重なって出来上がったものである。
人類が本格的に宇宙に進出してから五十余年が過ぎた頃
「世界」は、地球だけでなく地球~月間に浮かぶ無数のセクターと月のことを指すようになった。そしてその世界は国家という単位を捨て、政治・経済ブロックによる連合政府に移行しようとしていた。世界はそんな連合体によって九つに大別されていた。
そして現在の地球圏には大いなる問題がのしかかっていた。
異星人の存在の露呈、それに伴う統合思想の台頭である。
2020年、
火星衛星フォボス近海にて異星人の宇宙船と思われる遺物から発見されたさまざまなオーバーテクノロジーを指す科学上の『衝撃』。
最後まで残った調査団を巻き込んだ水爆以上の爆発を指す物理的な『衝撃』。
そして、今後予想される異星人とのコンタクトに対する地球圏の在り方を問うことになる政治的な『衝撃』。
この三つの衝撃を総称して人々は一連の出来事を『トリプルインパクト』と呼んだ。
そんな中、月面クレーター合衆国と北大西洋連合との経済格差から生じた緊張は、連合による連合領域内に存在する合衆国資産の差し押さえにより本格的武力衝突へと発展。両国の戦力差は明らかであり、連合は月の主要部をわずか2ヶ月近くでほぼ完璧に掌握。すぐさま国連による撤退勧告がなされたものの、弱体化した寄合衆の言葉を世界最強の大国は完全に無視した。
月利権を完全に独占されることを良しとしないヨーロッパ連合並びに環太平洋首長国連邦は国連とは別に共同声明で北大西洋連合への非難声明を発表。同時に月から採掘される宇宙資源によって自身らの利権が損なわれると判断したアラビア連邦や北方独立国家共同体も北大西洋連合と徐々に軋轢を深めていく。
地球圏は混乱の一途を辿っていった。
この物語はそんな巨大な時代の流れに運命を翻弄された人々の記録である。