5-5 深淵へ
トラックがヘリポートへと到着したとき、マリアと紫苑は、一台のヘリの整備を、ほとんど終えようとしていた。
すでにローターは回転を始めている。
「行けるか!」
地に降り立ちながら、さけぶ。
「もうすぐっす!」
紫苑がヘリから顔を出し、言った。
「操縦は、マリアに任せるっす。キャシーに教わったこと、あるみたいっすから!」
「急げ! 共鳴者が集まりつつある!」
ズガン、と真幸の狙撃銃が火を噴いた。
美奈も、短機関銃を両手に持ち、撃ちつづけている。
紫苑とともに、トラックからヘリコプターへと、荷を移す。
重量ギリギリまで載せるつもりで、積みこんだ。
そのとき。
鋼鉄で固められた地面。
それを突き破って、一筋の炎が、天に向かって噴いた。
みんな、呆然とそれを見守った。
「早く発とう、早く!」
さけんだ。
守りつづけている真幸と美奈に駆け寄ろうと走り出す。
「真幸、美奈、出発だ――」
足下が揺れた。
バランスをくずし、それでもなんとか転倒を避ける。
地面が、割れた。
まるで、「僕」を食べようとするかのように。
「雄輝!」
紫苑の声。
ふりむきたいが、それもできない。
僕は、開いた地面の、その奥を見た。
暗黒が、僕を見つめ返した。
――怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。
共鳴。
造られた怪物。
適確兵士。
――おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。
どこかで聞いた言葉だった。
熱い炎が、僕をつつみこんだ。
天に向かい、地中から噴いた炎だった。
紫苑のさけび。
それも、どこか遠い。
僕は、炎のなかにいた。
その中心部、僕自身が熱となって、世界を見わたしていた。
ようやくふりむいた、炎のむこうに、紫苑の顔があった。
なにか言おうとした。
伝えようとした。
それより早く。
僕を足下から襲った炎の柱は、獲物を捕らえた獣のように、地中へともどり始めた。
のたくり、うねりながら。
勢いよく天に向かって沸き上がった炎が、もと来た地中に向かい、一気に収束する。
帰っていく。
もといた場所へ。
それに引っ張られるかたちで、僕は、割れた地中へと引きずりこまれた。
「雄輝!」
上から紫苑の声。
僕は、闇のなかへと落ちていく。
墜ちていく――。




