5-3 鋼鉄の涙
ふりかえると、美奈はまだ、そこに立っていた。
銃をかまえたまま。
歩み寄ろうとして、自分が、美奈と二人きりではないことに気づき、突撃銃をかまえ、気配のしたほうに向ける。
村崎二尉が立っていた。
その手には拳銃。
ノイズを撃ち殺した拳銃だった。
「樽本曹長も死んだか」
「美奈が撃った」
「そう」
村崎は眼鏡を外した。
「ここを、出ていくのね?」
「はい」
「都市を捨てて、外の世界へ」
「はい」
村崎はうなずいた。
背後では、紅い炎が、激しく燃え盛っていた。
夜の都市。
どこかから聞こえてくるさけび。
村崎と向かい合って立つ。
それぞれが、自らの持つ銃を意識していた。
「僕を、撃ちますか」
「そうすべき、なのかしら」
「決められないんですか」
「決める必要もないから」
村崎は銃を完全に下に向けた。
「この都市は、もう終わり。それくらいは、私にもわかる」
「僕たちと、行きますか」
「生きなさい、お前たちは」
「村崎二尉」
「私は、この都市のために生きた。この都市のために銃を手にした。この都市のために引き金を引いた。幾度も幾度も、引いた。そうやって、心を殺しつづけた」
村崎が歩き出した。
まっすぐ、美奈に向かって。
そしてしゃがみこむと、美奈の顔を、まっすぐ、見つめた。
その両手が、美奈の両肩に添えられる。
美奈は、微かな反応をしめした。
村崎二尉は、美奈に命令を下す権限を持つ、上官だからだ。
「美奈」
村崎は、おどろくほど優しい、鋼鉄の声で、言った。
「これからは、雄輝一士の指示に従え。――自分の判断で」
美奈は、言葉の意味が分からないというように、村崎二尉を見つめた。
「さあ行きなさい、雄輝一士。そう望むなら」
「村崎二尉――」
「心中、とはちがうの。お前にはわからないだろうな」
「この都市を、愛していたんですね」
「……さようなら、雄輝一士。私は、ノイズさんに謝らなきゃ」
まるで、少女のような声で口にした、最後の言葉。
それを期に、背を向けた。




