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4-2 初夜

 分隊部屋にもどる。

 真っ暗な室内。

 ほかには誰ももどっていない。

 電気を点ける。


 誰かが立っていることに気づく。

 部屋の中心で、ノイズのベッド脇の壁を見つめている。


 佐々木医師。


「わしが彼の手術を受け持った」


 淡々と語る老人。

 口をはさまずに耳を澄ます。


「わしは反対じゃった。それで、ほとんど見せかけだけの手術を済ませた。ほかの子供たちは、みんな、ほかの医師によって手術を完遂された。それがノイズのかつての小隊仲間たちじゃ」


 壁に貼られた写真が、やはり笑ったままでいる。


「感情を喪失し、自分の意思を喪失し、ただ、敵と戦う、忠実な兵士。じゃがそもそも、そんな彼らに、敵という概念が理解できるはずもなかった。初の実戦において、戦う相手を把握できず、敵としてしか他者を認識できない彼らに、ついにはなにが起こったか」


 耳をふさいでさけび出したかった。

 それもできないほど、疲れ果てていた。


「仲間同士で殺し合ったのじゃ」


 疲れ果てた色を浮かべる老人のとなりに立つ。

 写真に写る、一人一人の顔を見ていく。


「ノイズは、生き残るため、かつての仲間たちを解放するため、戦った」


 ノイズの顔が浮かぶ。

 あのおだやかで優しい顔を。


「彼は発見されたとき、完全に心が壊れていた。じゃからわしは──彼の知性を削った。すべてをわすれさせてやるために」

「ノイズは……わすれてなんか、いませんでしたよ」


 僕の言葉に、佐々木は壁の写真を見つめ、拾い集められてベッドの上に置かれた画用紙の束を見つめ、うなずき、涙を流した。


 佐々木が退室した後、電気を消し、一人、ベッドに寝転がって天井を見上げる。


「雄輝──」


 紫苑の声が、どこか遠くでした。


 視線を動かす。

 彼女は、扉から少し入ったところで、危なげに立っていた。


 ゆっくり歩み寄ってきて、二段ベッドの梯子を数段上り、こちらを見下ろす。


「真幸とマリアは、キャシーのところ」


 ほかの奴らは、と聞きそうになって口をつぐむ。


 人の死になど慣れているはずの世界で。

 それでも悲しすぎる現実が、そこにある。


 薬音寺。ノイズ。美奈。


 それぞれの守るもの。

 その身を懸けて守らねばと信ずるなにか。


「僕にはない」


 自分でも意外なほど、情けない声が漏れた。


 そんなもの……僕には。


 気づけば、紫苑の腕をつかんでいた。

 ベッドへ引きずり込む。


 抵抗する様子もなく、紫苑はとなりにやって来た。

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