雨の日にドアは蹴破られ、
「やめろっ!!」
昔のぼくだったら、信じられない行動をしている。
他人の家のドアを蹴破って、どたどた上がり込むなんて、不躾にもほどがある行為。
でも、[ぼく]は過去に置いてきた。
そして、今は稲光が照らし出した惨劇がおれを突き動かす。
稲光が刹那というとても短いときの中で照らし出した光景は、ほんの瞬きより短い間の現象のはずなのに、あまりに鮮明。
女の子が姉らしき人物に首を絞められている。
首を絞められているその子は、
[ぼく]にとっても、
[おれ]にとっても、
一番大切な[友達]だ。
だから駆けつけたおれはもう一方の人も女の子だというのも忘れて突き飛ばした。一番大切な、今苦しめられているその子が、一番、大切だった。
ごめん、雨好きさん。きっと今突き飛ばしたのは話していた幼なじみさんですよね。
でも、おれにそちらをかまう余裕なんてありません。だからそちらはあなたに。
あなたがその人に伝えなければいけないことがあるように、
ぼくはぐったりした女の子の虚ろな瞳を見つめる。
伝えなきゃならないことがあるんです。
虚ろにぼくを鏡のように映す瞳は、磨かれた宝石のように作り物めいていて、
ああ、この子は人形なんだな、とこの子のお姉さんが言った一言を噛みしめる。
でもさ、
「ぼくは……おれは、きみが好きだよ」
「人形だって、何だって、きみがきみなら、きみはきみだから、ぼくは、おれは、きみのこと、誰よりずっと、好きだよ」
それくらい、いいと思うんだ。
許されたって、いいと思うんだ。
たぶんだけどね。
雨好きさんはお姉さんの思いを受け取らない。それを正式に返すためにここに来ることを選んだんだよ。
オレっ娘さんや新しいお仲間さんとかみたいに一人でいることを平然と過ごすこともできる人だっている。
でも、ぼくは
でも、おれは
みんなと違う。
きみといることを望んでいるんだ。
「誰がきみを人形と言ったって、ぼくにとってきみはきみ。ねぇ、この気持ちは変わらない。友達なのも変わらない。ねぇ、今まで通り、ドア越しでもいい。こうして、触れ合いながらでもいい。
またいっぱい、話そうよ。これからも、ずっと」
ぼくは、おれは一心に祈りながら語りかけた。
くったりと動かない女の子の体を目一杯抱きしめて、
虚ろなガラス玉のような瞳にもう一度、と。