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夏の匂い

作者: 蒼海流
掲載日:2016/05/21

改札を抜けると、日が延びたとはいえ、さすがにこの時間にもなると辺りは暗くなっていた。角にあるコンビニエンスストアが煌々と輝き、その存在を主張している。

(あ、夏の匂いだ・・・)

ゆっくりと息を吸った瞬間、瞬時にそう思った。夏の匂い、それと肌で感じる夏の空気。あの土と草が混ざったような、湿っぽいような、それでいてどこか爽やかな匂い。日中とは打って変わってひんやりと気持ちの良い風。

(まだ5月なのになぁ・・・)

去年も同じことを考えていた気がする。そして、そんなことを思っているうちに今年もきっとひょいひょいすぐに夏がやってくる。

人間の体とは面白いもので、匂いをかいだだけで昔あった大切な思い出やどうでもいいような小さい出来事まで、ふっと思い出すことがある。

部活帰りにアイスを食べながら歩いたこと、模試の結果を見ながら友達と落ち込んだこと、一時期何故か学校から駅までの帰り道しりとりするのがすごく流行ってたこと。そういえば、うちのクラスだけやけに張り切って放課後閉校時間の後も近くの公園で合唱祭の練習してたのを近所の人に通報されて次の日担任に怒られたなんてこともあったっけ。

たった2か月前まで居たはずの場所、人、あった出来事すべてがもう何年も昔のことのように思えてしまう。そう思えてしまうのは、それだけ自分が今の生活に馴染んだということなのだろうか。そりゃあひと月前の右も左も全く分からない自分と比べれば、新しい友達もできたし、課題の多さにはまだ慣れないけど勉強の要領は少しずつ分かってきたし、電車の乗り換えだってスムーズにできるようになった。

でも今みたいに急に高校生時代のことを思い出すと、やっぱりまだ少し寂しいものがある。大学生ってクラスというコミュニティから解放されて自由が効く分、体育祭とか合唱祭とか、皆で盛り上がることが殆どない。当時はやれ朝練だの放課後練だの面倒くさいなんて思っていたけど、今思えばああいうのひっくるめて全部青春だったんだなぁ、なんて。自分より年上の人にこんなこと言ったら怒られそうだけど、大学生になって急に年寄りくさくなった気がする。ちょっと前まで自分だって同じ格好をしていたくせに、今となっては電車で見かける制服姿の高校生が眩しい。懐かしいような、羨ましいような気持ちで胸が少しチクチクする。

それでも、こんな気持ちになるのも今だけで、あと半年もすれば大学の生活にもすっかり慣れて、今みたいにふっと頭に浮かぶこともだんだん減って、そのうち全く思い出さなくなってしまうんだろうか。

後悔しないように全力で生きてきたつもりだけど、今急に魔法使いかネコ型の青いロボットか何かがやって来て高校生に戻れるって言ったら、今の自分ならきっと戻る方を選んでしまうと思う。

まぁ、現実はどう足掻いたって、どれだけ後悔したって時間は止まってくれない。今同じメンバーで同じ場所に戻ったって、またあの時と同じようになれるわけではない。そう思うと、その日その時その瞬間の出来事ひとつひとつは何て儚くて尊いものなのだろう。そんなことをとりとめもなく考えているうちに家路に着く。今日のご飯はカレーみたいだ。


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