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Ⅷ 決意

「スティアに帰る!?」


夕食の席で僕は驚きのあまり勢いよく立ち上がった。

ガタン、と椅子が倒れる。


「帰りの費用が無くなる前に帰らなきゃいけないしね。」


エランテはしれっと言ってのけた。


「今週中にはここを出るよ。あまり長くお世話になるのも悪いしね。」


「そんな、僕はそんなこと…」


「それと、キアロも一緒に連れて行くことにした。彼のご両親は世界を飛び回って仕事しているみたいで、次帰ってくるのは早くても半年後らしいんだ。」


きっと両親から世界の色々な話を聞いていたから僕の笛にも興味を持ったんだろうね、とエランテが言う。


「それで、半年間だけスティアで音楽を学びたいとせがまれた。だから連れて行くことにした。

“音楽の国”の出身とあっては学ぶ場には困らないだろうし、連れが1人くらい増えたって僕は平気だからね。」


僕もエランテにそう言っていればスティアで音楽を学べたのだろうか。

でも、国を出てまで学ぶ覚悟が僕にはないような気がする。


「そっか…。この家も寂しくなるね。良かったら半年後、キアロと一緒にイルオーネに来てよ。」


「もちろん、そのつもりさ。」



------------


夜、僕はなぜか眠れずにいた。

すっかり仲良くなったエランテと別れるのが惜しいのだろうか。


「エランテ、もう寝た?」


エランテは答えない。


「あのねエランテ、僕もキアロと同じさ。もっと音楽について学びたい。

でもイルオーネを出てまで音楽を追及して、後悔しないっていう自信がないんだ。」


やはりエランテはなにも言わない。

本当に寝ているようだ。


「………もし僕が音楽を学びたいって言ったら、君は僕をスティアに連れて行ってくれるのかな………」


「………それは残念ながら厳しいね。」


エランテがこちらを向く。なんだ、起きていたのか。

突然僕は自分の台詞を思い出してなんだかすごく情けなくて恥ずかしくなり、顔をそらした。


「僕もルーカがそう思っているならスティアに連れて行ってやりたい。でも、さすがの僕も連れ2人の面倒をみれる自信はないよ。」


「あっ…ごっ、ごめん。これはその…独り言で……」


僕は必死に誤魔化そうとする。

起きているならはじめからそう言ってくれ……。


そんな僕の姿が面白いのか、エランテは少し笑って言った。


「でも、スティアに行けなくとも音楽を学ぶ手段はいくらでもあるさ。世界の国々はみんなそれぞれ特有の楽曲をもっているからね。

酷い言い方をすると、イルオーネの外に住んでいる人との交流があれば多かれ少なかれ音楽を学ぶ機会はあるよ。」


「そっか…、確かに…。」


「それから、僕はずっと君に訊こうと思ってたんだ。

君は今の生活に満足しているのかい?

この国では、友達や知人みんな夢器使いとして活躍している。けど君は夢器を使いこなせず、毎日“音楽”というわけの分からないものに時間を割いている変わり者だ。」


「うっ……」


確かに。エランテの言っていることは大正解だ。


「本当に“変わり者”のままでいいのかい?

君をスティアに連れて行くことは難しいけど、君が望むなら僕は一緒に他の道を探してあげるよ。」


「確かに…変わり者のままは嫌だ……。

でもイルオーネのことは好きだ。だから………。」


「なるほどなるほど。祖国を想う気持ちは大切だからね。

じゃあ、こんなのはどうかな。君は音楽を学びに国外へ行くけど、そのついでに国外の魔法の研究もする。

どうだい?ただの夢器使いじゃなくて、魔法の知識が豊富な夢器使い。

そんなのがいたらイルオーネのためになると思わないかい?」


「た、確かに…。それは心強い…。」


しかし、僕はイルオーネを想って、とかそういうことを言ったんじゃない。

ただ単にこの国を出るのが怖いのだ。



でも、想像してしまった。

夢器を上手に使いこなして、その上みんなに魔法について尋ねられる僕………


………か、かっこいい!!


僕のその顔を見たのか、エランテはニヤニヤと笑い出した。


「僕は君のトランペットの才はそのままにしておくのはもったいないと思っているんだ。

だからしつこく勧めているわけだけど。

嫌なら嫌と言ってもらってもいいんだよ。

でも君、今かなり興味をひかれてるでしょ?」


「それは、そうだけど…。でもイルオーネを出るのは………その、怖い、って言うか………。」


「ふーん、じゃあ君はこれからも変わり者のルーカだ。」


「そ、それは嫌だ!」


「なら、外に出る勇気のない臆病者のルーカだ。違うかい?」


「うっ…。

……ち、違う!!僕だって1人で国外に行くぐらい………!!」


…あ、やばい。


エランテは一層ニヤニヤしながら言った。


「それは頼もしい。

いや、君のトランペットが素晴らしいというのは本当さ。僕が君に音楽を学ばせたいというのも。だから君がそうと決めたなら僕はできる限り力を貸すよ。」


「よろしくお願い…します。」



僕が言うと、エランテは笑った。

「頑張れ、ルーカ。」


そして彼は枕元の鞄から世界地図を取り出し、なにやら考えはじめた。


「そうだね、うん。ここがいいかな…。」


しばらくして、僕の目の前に世界地図が置かれた。


「ええと、ここ。マレイヤって国。知ってるよね?」


エランテはイルオーネの西にある、イルオーネよりも少し小さい国を指差した。


「もちろん。」


「ここに行ってみたらどうかな。

言葉もイルオーネと同じだし、優秀な魔術師がたくさんいると聞く。

僕も昔行ったことがあるからなんとなく分かる。

イルオーネほどじゃないけど街なかで楽器を吹く人がたくさんいて、国民は音楽が好きだと言っていた。最近有名になってきた音楽学院もあるしね。

何よりイルオーネからそう遠くない。」


「なるほど…。他におすすめはないの?」


「うーん、そうだなぁ…。東の小国群には多様な民族音楽があると聞くけど、魔法が進んでいるという話は聞いたことがないし、言葉も不便なんじゃないかな…。

やっぱり僕はマレイヤを勧めたいね。」


「マレイヤかぁ…」


どんな国なんだろう。

イルオーネの隣国なのに僕は全然なにも知らないんだな………


マレイヤにはどんな曲があるんだろう。人々はどんな魔法を使うんだろう。


優しい人がたくさんいるといいな。

みんな僕のトランペットを気に入ってくれるかな………


考えるとすごく興味が湧いてきて、国外に出るという不安を忘れてしまいそうになる。


「僕、マレイヤに行きたい…!!」


僕は目を輝かせて立ち上がる。


「よく言ったね。僕はその言葉が聞きたかった。」


エランテは微笑んだ。

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