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XXIV 幻の夢器使い

しばらく紋章を眺めた末、男性は自分では判定不能と判断したのだろう、振り返って他のラルフィエ達に呼びかけた。


「おい、誰か夢器選定の担当になったことあるやついるか?俺じゃちょっと知識不足だ。」


「ここは巫女出身の私の出番かしら?少し待っていて。資料を持ってきます。」


1人の女性が部屋を出たのち、数分後に数冊の本を抱えて戻ってきた。


「さて、もう一度紋章を見せてくださる?」


女性は自分の前に突き出されたアルトロの腕を注意深く眺めながら持ってきた本のページをめくった。


「色は金、形は…太陽かしら。あまりよく分からないわね…。」


少なくとも20分はそうしていただろう。女性は色々な本を何回もめくったが結局納得のいく答えにはたどり着かなかったようで、再び部屋を出ると今度はよろけながらも分厚い本を十冊近く抱えて戻ってきた。


「私が持っている、夢器に関わる文献を全て持ってきたわ。ここに何か手がかりがあるといいのだけれど…」


そういって本の表紙に手をかけ、今までと同じように例の紋章と本とを交互に見る作業を始めた。


おそらく三冊目か四冊目だっただろう、不意に本をめくる手が止まり、彼女はそのページと紋章を何度も見直しはじめた。


「これ…似てる…」


彼女がつぶやくと、待ちくたびれていた僕達は一斉にその本の周りに集結する。


「おぉ、確かに分からなくもないねぇ」

「うん、若干似てるかも!」

「ほぉぉ…確かによく見るとそんな気もしますねぇ…」


実際、その本に挿絵のような形で載せられている古い絵のようなものは、誤差はあるもののアルトロの紋章と似ているように見えた。


「ほら、ここを見て。当時は少し黄味を帯びていたと考えられているそうよ。」


彼女が指差す場所はこの絵の紹介文だ。周囲の文章から察するに、このページに書かれているのは神話の類いだろう。


「で、でもちょっと待ってくれよ!!これって…!」


ラルフィエの1人が突然声をあげた。周囲の人々もはじめは彼が何に困惑しているのか理解していない様子だったが、次第にその異変に気付く人数は増えていった。

本の周りに小さなどよめきが起こる。僕がそれに気づいたのは結構早い段階だったが、正直自分の見たものを信じて良いのか少し迷った。


「そう。だから私、さっき何度も確認していたでしょう…?」


その本の持ち主が言う。


「これ、ラルハがイルオーネに現れたときに持っていた、トランペットを持ち運ぶための袋に描かれていた紋章…らしいの。」


確かに、本にも同じことが書かれている。

あくまで神話やおとぎ話の類であって本当かどうかは分からない。そもそもラルハの存在自体、あったかどうかも分からないような、いわば迷信なのだ。

しかしこの国の生活はラルハの神話とあまりにも関係が深い。しかもその性能は讃えられることこそあれ貶されることはないため、一概に迷信だと言って切り捨てられないのも事実だ。魔力補充や夢器の選定にだってラルハのトランペットの力を使うし、それで何か不具合が起こったという例は聞いたことがない。今回の件を除いては。

そういったことを踏まえると、アルトロの紋章がラルハと何らかの関係がある可能性は大いにある。


ラルハと言えば連想される楽器は一つだーーーー


「ま、まさかな……」


誰かが小声で言った。無理もない。だってトランペットの夢器使いは過去に一人もいないし、これからもずっと現れないものとされていたから。


でも、もし本当にアルトロがトランペット使いだったとしたら…?

これほどの神官適任者は他にいないじゃないか。そう考えたのはやはり僕だけではないらしい。


「も、もし、もしだけどね!この子が本当にトランペット使いなんだとすれば……次期神官は……。」

「楽器の腕は練習でどうにかなるかもしれませんしね……」




その後の話し合いにより、これからより詳しく夢器の適性を調査し、結果によっては次期神官をアルトロに任せるという方向で考えることとなった。

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