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XXI 予想外の出来事

その男性は走ってきたのか息をきらせている上に 話す内容を自分の中で整理しきれていないようで、僕とラルフィエ達は彼の話を今一度理解しきれずにいた。


「一回、落ち着いてからもう一度話してもらおうか」


ラルフィエの1人がそう切り出したのも無理はないだろう。


「は、はい…。ですが、急ぎの用件ですので……!」


「焦ってもいいことはないよ。さ、お茶でも飲んで頭を整理しな」


「はい、すみません……」


男性は茶を受け取るとそれを一気に飲み干し、その後少し間をおいて喋り出した。


「一番重要なところから申し上げますと……」


その場にいた全員が一斉に彼の方を向いたが、彼はそれに動じずに続けた。


「し、神官殿の病状が急に悪化したのです。場合によっては最悪の事態も見据える必要があるかと……。」


「なぜ!?命に別条はなかったんじゃ…」


男性に詰め寄ろうとする僕を、隣にいたラルフィエの女性が制した。最後まで聞け、ということか………


「万一のことを考えると、一番に問題となるのはおそらく後継者のことでしょう。先ほど神官殿から伝言を預かってまいりました。早急に次期神官候補を集めるようにと……。」


「候補って言ったって、肝心の神官が選べないならいくら候補を集めたって意味がないじゃない…!!」


僕の隣にいた女性が言う。

次期神官を任命するときには必ず先代の神官の推薦が必要で、つまり、神官が選定を行えなければなにも始められないはずなのだ。


「はい。このような事態はイルオーネの歴史上前例がない………。しかし、こうなってしまったからには私達で切り抜けるしか方法はございません。

………神官殿がこれをラルフィエ様にお渡しするようにとおっしゃっておりました……。」


男性は荷物の中から書状を取り出し、隣の女性に渡した。


女性は全員に見えるように書状を広げ、僕達はそれを覗き込む。

書状はニ枚あり、一枚は次期神官選定の責務を全てラルフィエに委任する、という旨が記された委任状、もう一枚には選定の際の制約がこと細かに記されていた。

神官となる者は必ずラルハのトランペットが吹けなければならない。神官の任命はラルフィエ全員の賛成がなければ行われない。神官となる者は夢器を使用できる年齢に達していなければならない----



「とは言ってもねぇー………。

ラルハのトランペットが吹ける奴って時点で、もう決まったようなもんじゃんか〜。」


やっぱり。いつかはこう言われると思ったんだ。


「でもルーカ君、神官になる意思はあるの?」


ほらここ見て、とその人が書状を指差す。

“その意思のない者に、神官への着任を強要してはならない”


うーん、と僕は少し間を置いた。


「なりたくないってわけじゃないけど、なりたいってわけでもないかな……。」


僕がこう言うと、ラルフィエ達はなんとも微妙な表現をうかべた。


「こんな曖昧な奴にこの国を任せられっかよ。あーあ、どうしたもんかなぁー。」


「あの子はどう?ルーカの師匠だって言ってた女の子!!」


ソレッラのことだ。確かにソレッラはトランペットが吹けるし、まだラルハのトランペットを試していない。


「ソレッラなら、さっきマレイヤに発ったところですよ」


僕が言うと、隣の女性が立ち上がった。


「それならきっと、まだ間に合うわ!ルーカ、その人が通るルートは分かる?今から私が追う!」


そう言って部屋の隅にある箱から夢器であるホルンを取り出すと、神殿の裏に向かって走っていった。



数分後、女性は見たことのない大きな黒い鳥を連れて戻ってきた。きっとホルンの力で、神殿の裏の森にいた鳥を連れてきたのだろう。


「この子に連れて行ってもらうことにした!ルーカ、一緒に乗って!道案内をお願い!!」


そう言って僕を鳥の背に乗せ、自身もその後ろに飛び乗ると、彼女はホルンを吹いた。その音色を聞いて大きな鳥は羽ばたく。


建物の中で飛んだら危ないじゃないか!そんな僕の心配は杞憂に終わり、鳥は器用に扉や柱をよけて低空飛行を続けた。


神殿の外に出ると一気に高度と速度をあげたので、僕は一瞬振り落とされそうになった。

そんな僕の後ろで女性は慣れた様子でホルンを吹いている。あたりはもう真っ暗なのに鳥がこんなにもしっかりと飛行しているのは、彼女がこうやって鳥と会話しながら進行方向を的確に指示しているお陰だろう。


僕はしばらくすることもなかったので、ホルンの音色をバックミュージックに、夜風を感じながら天体観測をすることにした。

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