XVII 故郷へ
それから僕らは大急ぎで支度をし、イルオーネへ経った。
馬を借りっ放しにしていたので、きっとものすごい延滞料をとられるんだろうと憂鬱に思っていたのだが、馬を貸してくれた船着場の青年がソレッラと知り合いだったため「ソレッラの友人なら」と延滞料を無料にしてくれたので助かった。
船着場の人達にお礼を言って、僕達は船に乗りプーラ河を渡る。
ここ最近天気が良かったせいか、僕が半年前に渡ったときよりもほんの少し川幅が狭くなっている気がした。
イルオーネ側の岸に着くと、馬を持っていない僕らは歩き始めた。
ここからイルオーネまでは歩くと1週間はかかってしまうので、一刻も早くイルオーネに着きたい僕らとしては 馬がないのはかなり歯がゆかった。
2時間ほど歩いたところで、ソレッラが思い出したように言った。
「私、マレイヤで少しだけ魔法を学んでた時期があって、それで……… 転送魔法、とかも一応使えるんだけど………。」
「まじすか!!もっと早く言ってくださいよぉー!!」
マリッツァは疲れきったような声を出し、ソレッラを見る。
「でもこんな長い距離、転送させるの初めてだし………ましてや3人同時なんて、出来るかどうか………。」
「短い距離でも、時間短縮になるなら有難いよ。無理にとは言わないけど出来ればやってほしいね。」
ソレッラは僕の言葉に納得したようで、近くにあった木の棒を手にとるとすぐに魔法陣をかき始めた。
「ーーーでーきた!! みんな、魔法陣の中に入って! あ、線を消さないようにね!!」
僕らが陣のなかに入ったのを確認すると、ソレッラは荷物からトロンボーンを取り出し、陣の真ん中に立った。
「私は難しい呪文とかは覚えられないから、代わりに夢器の力を使うの。
あと多分、転送するときはジェットコースターに乗ったときみたいに、体がふわっと浮く感じがあると思うけどちょっと我慢してね!」
そういってソレッラがトロンボーンを吹き始めて3秒経つか経たないかといったところで、先ほどソレッラが言ったように 一瞬体が浮いた気がした。
----行き着いた先はイルオーネ………ではなかった。
「やっぱ無理だったか〜。ごめんね、2人とも。
何度も使えればいつかは着くと思うけど、私の体力の問題で、1日に何回もやるのは無理かな………。」
ソレッラは申し訳なさそうにするが、僕らは彼女を責めるつもりなんて一切ない。
「まー、さっきルーカが言ったみたいに、近道できたからいいんじゃないすか? ここからは自分達で歩きましょう!!!」
マリッツァが歩き出すと、僕ら2人もそれに続いて歩きだした。
5日後、僕らはようやくイルオーネに着いた。
ひとまず僕の家で休憩をとることになり、3人でイルオーネの街を歩いた。
見た目こそ変わってはいないものの、以前のような陽気な雰囲気は薄れていた。
なかには、僕とソレッラがトランペットを持っているのを見て「この役立たずが!!」と怒鳴る人もいた。
そんなこんなで半日歩き、ようやく家に着いた頃には3人とも疲れきっていた。
もう外は暗くなり始めていたので、僕らは簡単に食事を済ませるとすぐ布団に入った。
そして特に会話を交わすこともなく眠りに就く。
翌日、僕が目を覚ますと2人はとっくに身支度を整えていて、しっかり朝食まで用意してあった。
「おはよう、お寝坊さん! 早くご飯を食べて着替えなよ! 私とマリッツァはとっくに支度を終えてるんだ!!」
ソレッラに急かされて、まだぼーっとしながら朝食を食べ、あくびをしながら着替える。
「ほら、トランペット忘れんなよ? 自分の楽器持ってった方がいいだろ!?」
マリッツァは僕の部屋から楽器を持ってきてくれたみたいだ。言われるままに僕はケースを背負う。
「さ、早く神殿に行こう!!」
ソレッラがもう外に出ているのを見て、僕とマリッツァは一緒に家を出た。
僕の家から神殿まではそう遠くない。
間もなく訪れるであろう、ラルハのトランペットとの対面に 期待と不安を抱えながら、僕達は小走りで街を進んだ。