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XV 幼い日の記憶

僕がトロンボーンを指差すと、ルーチェはなんだか諦めたような笑みを浮かべて


「あぁ…、いつか言うつもりだったから……」


と言った。


ルーチェのトロンボーンのベルのあたりには、赤色の紋章が刻まれていた。

普通、こんな楽器を持っている人はいない。いるとすればその人は………


「もうこの際バラしちゃうことにする! 見ての通り、このトロンボーンは私の“夢器”なの。私、前はイルオーネに住んでたんだよ?」


やっぱり。

彫刻が彫ってある楽器は結構みかけるけど、イルオーネの夢器に刻まれている紋章はそれとはだいぶ違うのだ。


ルーチェは服の袖を肩まで捲り、そこにある紋章を僕に見せながら言った。


「へへ。実は私もトランペット使いを目指してたんだけどね!」


「そうだったんだ……。」


「だけど、トランペットは夢器にできないって知って、それからなかなか立ち直れなかったなぁ………。」


「え!? トランペットが夢器にできないって……!?」


「あぁ、知らなかったんだね。

正確に言うと、夢器に“できない”んじゃなくて、夢器に“なった前例がない”の方が正しいかな。

イルオーネの歴史上、トランペットで魔法が使えたのは、伝説の少女ラルハだけなんだってさ。」


「そうなんだ、それで僕も………。」


僕は少し悔しいような、さみしいような、よく分からない気持ちになった。

ルーチェは何も言わなかった。



しばらくして、ルーチェが独り言のように言った。


「ほんとはね、ルーカのことも前から知ってたんだよ?」


「へぇ、そうなん………」


いや、待て待て。

ルーチェがあまりにもしれっと言ってのけたので、思わず普通に相槌を打ちそうになった。


「いやいやいや、え、なんで!? 僕、ルーチェとはマレイヤではじめて会ったんだよ……?」


「それ、ほんとに言ってる? ひどいなぁ、結構親しくしてたのに。」


ルーチェは僕をからかってるんだろうか。

イルオーネでの僕の知り合いに、ルーチェなんて人はいなかったはずだ。


「まぁ、あの頃はルーカもまだ小さかったもんね……仕方ないか……。」


「いや…、ほんとに記憶にないんだけど………。」


僕が必死に記憶をさかのぼろうとしていると、ルーチェは僕の方に向き直って言った。


「これ言ったらさすがに思い出すでしょ!

私、ほんとは“ルーチェ”って名前じゃないの!!」


「僕が騙されやすいからってからかってるでしょ……?」


「違うから! 私の本当の名前はルーチェじゃない! 私、ソレッラって言うの!!

アレッタと響きが似てて紛らわしいのと、“ルーチェ”って名前が好きだからマレイヤでは滅多に本当の名前は名乗らないけど。

どう?思い出した??」


「いや、だから分からないって……」


そこまで言って僕は喋るのをやめた。

待てよ、ソレッラってどこかで聞いた名前………


「あっ!!」


「どう? 思い出した〜??」


ソレッラは何かを期待するような笑みを浮かべている。


「も、もしかして………。」


昔近所に住んでいたお姉さんだ。

近所に同年代の子があまり住んでいなかったため、いつも年下の僕を色々な場所へ連れ回していた。

僕にトランペットを教えてくれたのもそのお姉さんだった。


お転婆で有名で落ち着きのない人だったけれど、僕にトランペットを教えるときだけは真面目だったのを覚えている。


僕の知っている「ソレッラ」はその人だけだけど、ルーチェとは髪の色も違うし………。


「まさか、って顔してるね。

“イルオーネのルーカ"って聞いたとき、私はすぐに分かったけどね!

ルーカ、大きくなったじゃないの!!」


「いや、でもルーチェとソレッラはその………見た目からして別人というか……」


「あぁ、髪色のせいかな? 私、イルオーネにいた頃は染めてたんだよね。親族の中で私だけ色が違って、色々怪しまれたりもしたから…。」


確かに、たまに見るソレッラの親戚はみんな同じ髪の色をしていた気がする。


「ほ、本当にソレッラなの……?」


「だからそう言ってるのに。マレイヤじゃ、“ソレッラ”って名前を知ってるのはルーカとアレッタだけだけどね。」


「まさかマレイヤにいるなんて思わなかったから……。」


「まぁそうよね。トランペットが夢器にできないって知ってふてくされて……。最初はちょっとした家出のつもりだったんだけど、いつのまにかこんな遠くまで来ちゃった。」


「僕より酷い理由!!」


僕が笑うと、ルーチェも笑った。


「ほんと。今思うとよくそんなに後先考えずに行動出来たなって思うよ。

……マレイヤのそばで腹空かしてるとこに、まだちっちゃかったアレッタが来てさ、持ってたパンを半分くれたんだ。


あの子、その頃から両親と一緒に暮らしてなくて……。さみしかったんだろうね、私が家に泊まるって決まると大はしゃぎしてたよ。」


その日からアレッタとソレッラは一緒に暮らしているそうだ。


「それで2人は本当の姉妹みたいなんだね。」


「だ、誰があんな生意気な娘と!!」


ルーチェ…もとい ソレッラの反応が面白くて、僕は笑ってしまった。



それから僕らの会話ははずみ、気がつくと空は赤みを帯びていた。


「そろそろ帰ろう。」


僕が言うとソレッラは頷き、帰り支度をはじめた。


--------


それから3日が経った。

僕がイルオーネに来てからもうすぐ半年になる。


半年経てばエランテ達もイルオーネに帰ってくるので、僕もそれに合わせて一時帰宅をしようと考えていた。


その日は特に予定がなかったので、イルオーネに帰るための荷物をまとめようと思い、僕は家にこもっていた。



荷物の片付けもだいぶはかどり、一息ついていたときだった。


家のドアが開き、眩しい夕日が差し込んできた。

ドアを開けたのはアレッタだった。


いつもより帰ってくるのが早いな。何かあったのだろうか。


アレッタは僕を見ると、少し早口で言った。


「ねぇ、ルーチェ…あ、もうソレッラって呼んでいいんだっけ……。

どっちでもいいや! とにかくソレッラいる??」


「ううん、まだ帰ってきてない………。」


「あぁもう! こういうときに限っていないんだから……。こまったな、私じゃ詳しく分からないし……。」


「何かあったの?」


「まぁそんなとこ………あっ!!」


「なに?」


「ルーカ、あんたイルオーネ出身だったよね!?」


「そうだけど……。」


「ちょっと来て! 見てほしいものがあるの!」


アレッタは僕の手を強く引く。

そしてそのまま外へ走りだした。


僕は靴もきちんと履けないまま、アレッタに引きずられるようにして着いていった。




辿り着いたのは、僕とアレッタが最初に出会った森。


そこに、何かが横たわっていた。


「ねぇルーカ! あれなんだけど………」


そう言って、アレッタはそこに横たわるものを指差す。

よく見ると人のようだ。


……人が倒れている………?

大変だ。すぐに助けなきゃ。


「アレッタ! あの人、家に運ぼう! あのままじゃまずいって………!!」


「大丈夫大丈夫、さっき見たけど寝てるだけだったよ。それよりルーカには見てほしいものがあるの。」


アレッタはその人に近づいていく。

僕もその後ろを着いていった。

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